共産党統治の安定を最優先した政治的な判決だったと言えよう。だが、国民の不満はくすぶり、先行きは不透明だ。
収賄、横領、職権乱用罪に問われた中国重慶市党委員会の元トップ、薄煕来・元政治局員に、無期懲役の判決が言い渡された。党指導経験者への異例の厳刑である。
一党独裁体制の中国は、法治主義の建前をとっているものの、重要な裁判の判決は、基本的に党が決定する。2審制だが、薄被告が上訴しても判決は覆るまい。
習近平政権が無期懲役判決に踏み切ったのは、党要人であっても腐敗は許さないとの決意を国民に示すためだろう。併せて、党の支配を破綻させかねない薄被告の大衆扇動的な手法を断罪する狙いもあったに違いない。
薄被告は重慶在任中、党が本来掲げていたはずの平等の理想を強調し、貧困層向けに安価な住宅を建設するなど格差是正を主眼とする政策を展開した。
人々に毛沢東時代の革命歌を歌わせ、大衆の支持を誇示して、党の最高指導部入りを目指した。
政権には、薄被告のやり方が現状への大衆の不満に火を付け、党批判の暴発を誘いかねないとの危機感があったのではないか。
ただ、重慶時代については職権乱用罪のみが審理され、被告の政治手法そのものが判決で問題視されることはなかった。
薄被告には、今も貧困層を中心に根強い支持がある。習政権は、判決がその手法に言及すれば、国民をいたずらに刺激しかねないと警戒したのだろう。
インターネット上で、薄被告に同情して判決に反発する書き込みが削除されたことにも、当局の警戒ぶりがうかがえる。
薄被告は、起訴事実を全面否認し、対決姿勢を示した。無期刑には、被告の口を封じるとともに、大衆を扇動する「第二の薄煕来」の出現を阻むという意図が込められていると言える。
習政権は、公判に合わせるように、薄被告の後ろ盾と言われた周永康・前政治局常務委員の人脈に連なる石油業界の幹部らを汚職で摘発している。薄被告とつながる勢力に打撃を加え、権力基盤を固めようとする動きの一つだ。
習氏は、11月に開かれる党中央委員会総会で、経済構造改革方針を打ち出そうとしている。
薄被告を排除しても、腐敗や格差の問題は残る。習氏が国民の不満をどう解消するかが、党の将来を左右することになろう。
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