メルケル氏勝利 「欧州」で積極性見たい

朝日新聞 2013年09月25日

メルケル氏勝利 ユーロ強化へ指導力を

ドイツの総選挙で、メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(同盟)が大勝した。

単独過半数には届かなかったが、メルケル政権は17年まで3期12年に及ぶ見通しだ。これまで連立を組んできた自由民主党が議席を失い、第2党の社会民主党と大連立を組む公算が大きくなっている。

メルケル氏は国民からの信任をテコに、連立協議を早くまとめ、ギリシャ支援やユーロ再建に指導力を発揮してほしい。

沈滞する欧州で一頭地を抜く経済力を誇るドイツは、ユーロ問題のカギを握る。

欧州諸国はむろん、世界がこの選挙に注目したのは、ユーロ再建や南欧支援に、首相がどのような姿勢を示し、ドイツの有権者がどんな判断を下すのか、見定めたかったからだ。

ところが選挙戦では、堅調な国内経済を追い風に現状維持を望む空気が強く、ユーロ問題は後景に退いた。国民負担もありうる南欧支援などユーロの厳しい現実は封印され、選挙後に先送りされた。

危機対応で慎重さを崩さず、世界をやきもきさせたメルケル氏の姿勢が変わるかどうか、微妙なままだ。

ただ、新たな連立対象となる社会民主党も、緑の党も、同盟よりユーロ再建には前向きだ。自民党が南欧支援に否定的だったのに比べれば、ドイツ政治の軸足がユーロ重視の方へ動く可能性がある。

一方、反ユーロを掲げた新党「ドイツのための選択肢」は議席こそ逃したものの、それなりの存在感を示した。政権は反ユーロの火種にも引き続き目配りを強いられそうだ。

ユーロ危機は1年前に欧州中央銀行が国債買い入れ方針を表明して以来、落ち着いている。しかし、火元のギリシャでは緊縮財政が行き詰まり、3度目の支援が避けられない情勢だ。

今後、欧州連合(EU)、国際通貨基金(IMF)、欧州中銀による協議が本格化する。ギリシャの疲弊ぶりを考えると、EU諸国の政府が持つ対ギリシャ債権の減免など納税者負担に結びつく対策を迫られる可能性もある。

戦後ドイツでは、長期政権で政治的求心力を高めた首相が歴史的な改革に取り組んできた。西ドイツのアデナウアー初代首相は在任14年。東西ドイツ統一を成し遂げたコール元首相は16年。メルケル氏が任期を全うすれば2人に次ぐ。

欧州の新時代を築く礎にメルケルの時代を刻めるか、真価が問われる。

毎日新聞 2013年09月25日

メルケル氏勝利 「欧州」で積極性見たい

ドイツ連邦議会の総選挙で、メルケル首相率いる中道右派、キリスト教民主・社会同盟が第1党を維持し、首相の3選が確実な情勢だ。ただ、単独過半数にはわずかに届かず、これまで連立を組んできた自由民主党が議席を得られなかったことから、新たな連立への協議が始まった。

最大野党である中道左派、社会民主党との大連立が有力視されるが、交渉が難航する可能性もある。政治の空白が混乱を招くことのないよう、早期の政権樹立を望みたい。

他の欧州諸国で政権交代が相次ぐ中、首相の党は議席を大幅に増やした。親しみやすさ、母親のような包容力といったメルケル氏の魅力に加え、ユーロ危機対応で見せた、断固としてドイツ国民の利益を守ろうとする姿勢への信頼が背景にあるのだろう。ドイツ経済が好調を続けていることも、追い風になったようだ。

しかし、3期目を現状維持で乗り切れる保証はない。ユーロ危機は小康状態のように見えるが、ドイツの選挙までは模様眺め、といった市場参加者の慎重姿勢が作用していた面もある。ギリシャへの追加支援、ユーロ圏の銀行の監督から破綻処理まで一元化する「銀行同盟」の設立など課題山積の実態は変わっていない。何より、財政統合、政治統合へと今後どのように進むのか、欧州の将来像とドイツの立場が見えない。

首相の党の躍進は、裏を返せば有権者の批判を招く政策を避けてきたから、ともいえそうだ。メルケル首相は最重要課題といえるユーロ危機の克服を巡り、まだ国民に、負担の覚悟を本気で求めていない。

今回の総選挙では、今春設立されたばかりの新党「ドイツのための選択肢」が4.7%もの票を集め、議席獲得までもう一歩という善戦ぶりだった。ユーロ解体を堂々と旗印にした勢力である。著名経済学者や経済人らが名を連ね、今後も影響力を拡大する可能性がある。

そうした情勢を考えると、納税者の負担につながるユーロ維持策は余計に掲げづらいだろう。だが、市場にぎりぎりまで追い詰められ、被救済国の厳しい財政緊縮策と引き換えに最小限の支援に同意、という従来の手法が限界にあるのも事実だ。

混迷が続くギリシャでは極右勢力の台頭により社会の対立が深刻化している。ドイツの有権者が投票所に向かう数日前、アテネでは30代の左派系市民が極右勢力とみられる人物に刺殺される事件が起きた。

欧州の安定あってこその繁栄だ。その安定には、ユーロ問題の抜本的な解決が欠かせない。それにはドイツの負担と主導、そして隣国フランスとの協調が必要だ。果敢に動く首相の姿を今こそ見せてほしい。

読売新聞 2013年09月24日

メルケル氏続投 強い経済へ期待示す独総選挙

ドイツの総選挙で、メルケル首相の保守政党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が大勝し、首相の3選が確実になった。

任期を全うすれば在任12年に達し、女性宰相の先輩、サッチャー元英首相を抜く。独歴代政権の中でも長期政権となる。

同盟の勝利は、欧州の財政・金融危機で各国指導者の交代が相次ぐ中、ドイツの堅調な経済を守り抜いたメルケル首相の実績が国民に評価されたためだろう。続投は、安定的な景気回復を望む国際社会からも歓迎されよう。

メルケル氏はこれまで、欧州一の経済大国ドイツを、強い指導力で牽引(けんいん)してきた。

メルケル政権下で、10%を超えていた失業率は半減した。輸出も昨年、過去最高額を更新した。前政権からの構造改革と規制緩和を推進し、法人税率の引き下げなどに踏み切ったことが、企業の国際競争力を高めたと言える。

危機に(ひん)したギリシャなど南欧諸国に対し、欧州連合(EU)が支援を行った際、中心的役割を担ったドイツの負担が膨らんだことに、有権者の一部には強い不満があった。だが、選挙戦で同盟の優位は揺るがなかった。

ユーロを守るため他国を救済することは、欧州経済の発展に不可欠で、ドイツの国益にかなうという首相の粘り強い説得が、国民に浸透してきたのではないか。

3期目も、危機の収拾が最大懸案であることには変わりない。

南欧諸国からは、ドイツが支援の条件として過度の緊縮財政を強いて、景気回復を遅らせたと反発する声が出ている。

「通貨は一つで財政はバラバラ」というユーロ圏の構造的な問題も未解決だ。フランスなど欧州主要国との連携が一層問われる。

当面の焦点は、安定的政権を目指す連立交渉の行方だ。

連立を組んでいた自由民主党が議席を失い、過半数議席にわずかに届かない同盟は、第2党の社会民主党(SPD)との大連立を軸に多数派工作に乗り出す。

左派のSPDは、南欧支援やユーロ圏の財政統合に同盟より積極的であり、連立には政策のすり合わせが必要になろう。

日本にとって気がかりなのは、メルケル首相が中国との経済関係強化に熱心な一方で、2008年以来、訪日していないことだ。

3期目では、首脳の往来を活発化してほしい。日EUの経済連携協定(EPA)や環境問題など協議事項は少なくないはずだ。

産経新聞 2013年09月25日

メルケル与党大勝 欧州安定化の責任は重い

ドイツ総選挙で、保守系与党、キリスト教民主・社会同盟が大勝し、メルケル首相の3期目続投が確実になった。

欧州の債務危機は沈静化の兆しも見せつつあるが、継続した安定状態に戻すには、経済力で抜きんでたドイツの下支えが欠かせない。連立協議を急ぎ、安定政権を早期に誕生させてほしい。

同盟の勝利は、8年間のメルケル政権が、好調な経済を維持してきたことへの評価だといえる。前政権からの構造改革と規制緩和を進め、産業競争力を高めた。

ギリシャなど南欧諸国支援では、巨額の負担に国民から不満も聞かれたが、選挙でメルケル氏支持は揺るがなかった。

ただし、連立相手の中道リベラル、自由民主党は議席を失い、同盟は最大野党の中道左派、社会民主党との連立協議に入った。

南欧諸国支援では、同盟が緊縮財政を要求する一方、社民党は「過度の緊縮を求めることは不要」などと主張している。

両者の意見の隔たりは大きく、条件をめぐる激しい駆け引きも予想されるが、交渉難航はそれ自体が欧州の安定を脅かす。協議の長期化は避けなければならない。

何よりもドイツに求められるのは、ユーロ圏の盟主として、域内経済の再生で主導的な役割を果たすことだ。

ユーロ圏の経済は、ドイツとフランスが域内の牽引(けんいん)役を担い、今年4~6月期には7四半期ぶりのプラス成長にこぎつけた。だが、南欧諸国の失業率はいまだに高く、域内経済の回復は力強さを欠いている。

ユーロ圏では危機の再発を防ぐため、域内共通の銀行破綻処理制度の構築などを目指している。来年以降、資金不足に陥る懸念があるギリシャへの新たな金融支援も大きな焦点となろう。

危機収束に向けた欧州の動きが停滞すれば、世界経済の波乱要因となる。日本にとっても、回復の方向にある景気に冷や水を浴びせる事態となりかねない。

メルケル氏は3期目を全うすれば、在任期間は12年に達し、長期政権だったサッチャー英元首相を上回る。

国論が割れても信念を貫いたサッチャー氏とは対照的に、メルケル氏の持ち味は、他党の政策も取り入れる柔軟さだとされる。3期目の手腕に期待したい。

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