リニア新幹線 建設急がずエコ重視で

朝日新聞 2013年09月20日

リニア新幹線 建設急がずエコ重視で

JR東海が東京・品川―名古屋間で2027年の開業をめざすリニア中央新幹線について、時期の前倒しや一部開業を望む声が相次いでいる。20年の東京五輪開催が決まったためだ。

経団連の米倉弘昌会長は、1964年の東京五輪に合わせて開業した東海道新幹線を引き合いに、20年に「リニアをせめて名古屋まで」と発言した。菅義偉官房長官も「五輪で海外から来る人たちに部分的に乗ってもらえれば」と語った。

こうした意見に対し、JR東海の山田佳臣(よしおみ)社長は「工事は急げるものではない」と否定的な姿勢を示した。当然である。

東海道新幹線は着工から5年で開業したが、時間がかかる高架橋をなるべく避けたため、雨による路盤崩壊に長く苦しめられた。山陽新幹線でも90年代以降、トンネルや高架橋のコンクリート崩落事故が続く。8年の突貫工事で粗悪な素材が使われた影響が指摘されている。

リニアでは、こうした拙速の愚を繰り返してはならない。

JRがおととい公表した環境アセス準備書を見ても、工事の難しさがよくわかる。

品川と名古屋では駅の営業を続けたまま、地下30~40メートルまで掘ってリニアの駅を設ける。品川から相模原市までの42キロもトンネルだ。人口密集地の下で、5キロごとの非常口や工事拠点の用地確保はこれからになる。

3千メートル級の山々が連なる南アルプスは、延長25キロのトンネルで貫くという。JR側は「日本の技術力は進歩している」というが、過信は禁物だ。

過去の長大トンネル工事では、予想もしなかったトラブルが起き、作業員が亡くなったり、工期が大幅に延びたりした例が少なくない。JRは開業目標の27年にこだわることなく、安全最優先でことを進める姿勢を貫いてほしい。

沿線住民の合意形成に力を注ぐことも欠かせない。磁界、騒音、振動、建設残土……。すでに懸念の声が多く上がっている。理解を得られないままでの「見切り発車」では、新時代の公共交通として歓迎されないだろう。

福島第一原発事故の後、全国の原発が止まり、リニアの電力消費量の多さにも厳しい目が向けられている。JRの経営陣は原発再稼働に期待感を示すが、時代に逆行していないか。

JRは新幹線で省エネ性を追求してきた。リニアでは、太陽光など再生可能エネルギーでの自家発電を大胆に導入し、原発、化石燃料に依存しないエコ鉄道を目指してもらいたい。

毎日新聞 2013年09月23日

リニア新幹線 国民的議論が必要だ

夢物語のようだったリニア新幹線が、急に現実味を帯びてきた。2027年に東京・品川−名古屋の開業を目指すJR東海が、環境影響評価準備書を公表し、詳しいルートや駅の位置が明らかになった。必要な手続きや国の認可を経て、来年度には着工したいという。

沿線では早くも期待が膨らんでいる所もあるようだ。しかし、リニア中央新幹線は何十年に1度という超大型の国家的プロジェクトである。関係する都府県やJR東海という一企業だけの問題ではない。疑問や不安もまだ多く、今こそ徹底した国民的議論が必要である。

リニアの強さは何といっても最高時速500キロという速さだ。計画では27年に品川−名古屋が最短40分、45年には品川−大阪が1時間強で結ばれる。その経済効果は十数兆円という民間試算もあるようだ。

一方で、リニアという全く新しい技術を使った交通手段の導入には多くの未知数がある。まず、建設工事に関するものだ。名古屋までの全長286キロのうち約86%が地下やトンネル内の走行となる。中でも南アルプスを貫通する約25キロのトンネルは崩落や異常出水の危険がある地層を横切るため難工事が心配される。

そして経済的未知数だ。総建設費は在来型の新幹線を大幅に上回る約9兆円と見積もられているが、さらに膨らまない保証はない。人口減少や高齢化が進む中、想定通りの利用者を確保できない恐れもある。大阪までつながるのは、今から32年も先なのだ。東海道新幹線とリニアを両方抱え、利益を維持できるのか。

リニア中央新幹線の基本計画ができたのは40年前である。この間、日本の経済や社会構造は激変し、在来型新幹線の性能も格段と向上した。特に東日本大震災後、エネルギーをとりまく環境が変わり、大地震のリスクも一層認識されるようになっている。ピーク時の消費電力が新幹線の3倍とも言われ、地中深く走るリニアは本当に望まれる乗り物か。

建設費は全額JR東海が負担する。しかし、だからといって一民間企業の設備投資と片付けるわけにはいかない。万一事業が失敗しJR東海が経営難に陥った場合、その公共性から国家(国民)が支援を求められる可能性も皆無ではないのだ。

JR東海には沿線住民はもちろん、国民全体に納得のいく説明をしてほしい。国会で集中的に審議されたことがないが、客観的、中立的データに基づく政策論議が不可欠だ。

関係者のみの楽観的見通しで突っ走ってはならない−−。福島第1原発事故から日本が学んだ教訓の一つだ。20年の東京五輪に間に合わせようという発想など論外である。

産経新聞 2013年09月24日

リニア新幹線 新「超特急」に再生託そう

JR東海が平成39年の開業を目指す、東京・品川-名古屋間のリニア中央新幹線の詳細計画が固まった。

走行ルートや中間駅の具体的な場所が決まり、来年度中の着工を目指す。国鉄時代の昭和48年の基本計画決定から40年を経て、新しい「夢の超特急」はいよいよ開業への具体的一歩を踏み出す。日本経済立て直しの追い風としたい。

強力な磁力で車両を10センチも浮上させ、時速500キロ以上の超高速で走らせる日本の超電導リニア技術は、世界の最先端に位置する。日本の高い鉄道技術を改めて世界に示す好機ともなろう。

日本が目指すインフラ輸出の中でも、環境負荷が小さい大量輸送手段の鉄道技術は、アジアを中心に大きな需要がある。深さ40メートル以上の大深度地下の掘削技術とともに、リニア新幹線の成功は、日本が今後、官民一体で海外売り込みを果たす上で大いに役立つ。

リニア新幹線の建設は、国が巨額の資金を投入する公共事業としてではなく、JR東海が全額自己負担で行う。東京-名古屋間だけで工事費は5兆4千億円とされ、平成57年に予定される東京-大阪間の全線開業までの最終的な総投資額は、10兆円を軽く突破する可能性がある。

同社が、そうした巨額投資のリスクを背負ってまでリニア建設に挑むのは、東海道新幹線では、今以上のスピードアップや輸送力の増強が望めないからだ。

高い確率で発生が予想される東海沖地震に備えたバイパス線の建設という狙いもある。JR東海にとってリニアは、さまざまな意味で社の命運が懸かっている。

最高時速500キロで走行し、東京と名古屋を最短40分で結ぶ。東京-大阪間も1時間強で結ばれる予定だ。その場合、同区間の航空旅客は、ほとんどが新幹線に流れそうだ。リニア新幹線の完成により、二大都市間の輸送は大きく姿を変えることになる。

中央リニアの建設が順調に進めば、国内での今後の新線建設計画も浮上する可能性がある。羽田、成田の両空港間はその一例だ。

東京-大阪間が通勤圏となれば、人的往来の活発化を通じて経済圏としての一体化も進む。その時、日本経済はどう変わるのか。国も先を見越した国づくり、都市圏づくりを、しっかりと進めておく必要があるだろう。

背中に筋金 - 2013/10/18 18:08
日本人は小粒になってしまった。前回の東京五輪と際はもっと迫力のある日本人がいた。
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