原子力規制委1年 現実重視し「独尊」捨てよ

毎日新聞 2013年09月22日

規制委発足1年 プロとして実力高めよ

原子力規制委員会(委員長以下5人)が発足してまる1年を迎えた。原発の新規制基準を策定し、原発敷地内の活断層調査に意欲的に取り組んできたことは評価したい。だが、東京電力福島第1原発(福島県)の汚染水漏れでは、規制委の及び腰な姿勢に批判も出た。原子力安全規制のプロとして、実力の向上と体制の強化に努める必要がある。

新規制基準では、福島第1原発のような過酷事故対策や地震・津波対策の強化が盛り込まれた。7月の施行後、4電力会社の6原発12基から安全審査の申請があり、事務局の原子力規制庁(定員約530人)は職員約80人を審査にあてている。

再稼働を急ぐ電力会社は審査の迅速化を訴えているが、厳格な審査が行われてこそ新基準は生きる。

規制委の能力も問われている。

規制委は昨年11月、改正原子炉等規制法に基づき福島第1原発の廃炉作業を監視する体制を整えた。しかし、貯水槽やタンクからの汚染水漏れを予測できず、対策指示は後手に回った。規制委のチェック機能に疑問符が付く事態で、田中俊一委員長は「じくじたる思い」と語った。

汚染水問題は解決しておらず、福島第1原発では今後もトラブルが起きるだろう。廃炉作業を円滑に進めるためにも、規制委には「有事」の積極的な対応を求めたい。

原発と活断層を巡っては、規制委の有識者調査団が日本原子力発電敦賀原発2号機(福井県)直下を活断層が通るとする報告書を作成。東北電力東通原発(青森県)の敷地内断層群も活断層と判定された。電力会社は反発しているが、規制委が推進側から独立した成果の一つだ。

調査で有識者の意見が完全に一致するとは限らないものの、安全性を確保する立場から、規制委は「疑わしきはクロ」を貫いてほしい。

原子力施設の検査や安全性評価を行う独立行政法人「原子力安全基盤機構(JNES)」の規制庁への統合も、規制委の懸案事項だ。政府はそのための関連法案を10月の臨時国会に提出する準備を進めている。

統合後の規制庁は1000人規模になる。JNESは原子力の専門職員が多く、安全審査体制は強化されるだろう。一方で課題もある。JNESの職員の6割を50歳以上が占めていることだ。規制庁は博士号取得者や現場経験者の中途採用を実施しているが、規制当局としての実力向上には、若手職員の育成が急務だ。

田中委員長は就任時の記者会見で「原子力の安全行政を立て直す」と述べた。この1年で安全行政の独立性と透明性は高まったと考えるが、まだ道は半ばだ。国民の信頼回復は今後の取り組みにかかっている。

産経新聞 2013年09月21日

原子力規制委1年 現実重視し「独尊」捨てよ

原子力規制委員会の発足から1年が過ぎた。

新設の契機となった東京電力福島第1原子力発電所の事故からは2年半の歳月だ。

目下、国内に50基ある原発のすべてが停止している。規制委が今年7月にまとめた新規制基準に照らしての安全審査を終えた原発が1基もないためだ。再稼働の見通しが立ちにくい状態が長期化しつつある。

その結果、火力発電の燃料代が膨張し、国富の流出を招いている。憂うべき状況だ。酷使された火力発電所の故障による電力供給の不安要素が増している。

規制委設置法第3条では「我が国の安全保障に資する」ことも同委の「任務」のひとつに定められている。原発の安全確保は当然だが、「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全」(同条)も忘れないでもらいたい。

原発の停止で電気代は上がり、二酸化炭素の排出が増えている。寒冷地での真冬の大規模停電は人命を脅かす。

規制における良識が必要だ。規制委は「三条委員会」として高い独立性を保証されているのだが、唯我独尊の姿勢では、安全性と稼働率という、国の発展に必要な2大要素の両立が望めない。

原発敷地内の活断層調査では、有識者から、過去の安全審査に当たった専門家を排除するなど、著しく中立性を疑わせる事態が続いている。電力会社は“被告”ではない。規制委とともに、原子力利用における安全確保に当たるパートナーととらえるべきだ。

だが、電力会社を呼んだ評価会合などでは規制委が一段高い所から一方的に宣告する印象だ。日本原子力発電敦賀原発の活断層をめぐる対応などで目についた。これでは説明責任を果たせまい。

構成員5人の規制委では、有識者会合などの報告を承認するだけの場となりやすく、合議機能が不足しがちだ。原子炉や電気などの専門家を増やし、多角的な議論を深めることが必要だ。

規制委の健全な発展には、その活動をしっかり監視する機関も不可欠だ。反原発への偏りなどは、あってはならないことである。

規制委には、過酷事故防止の理想論だけでなく、原発の耐震性の向上などによる工学的な安全強化といった現実的な対応への理解が望まれる。規制至上主義では原子力の安全文化は育たない。

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