米金融緩和維持 弊害深める先送りだ

朝日新聞 2013年09月22日

米金融緩和 出口を阻む投機マネー

米連邦準備制度理事会(FRB)が、金融の量的緩和政策を終わらせる「出口戦略」へと踏み出す寸前で、立ち往生を強いられた。

米国経済の復調に、なお不確実性が残るのが主な理由だ。それは、緩和の終了をにらんで長期金利を押し上げる投機マネーの動きに行きつく。金利の上昇が雇用や設備投資の拡大を通じた景気の本格回復の流れを阻みかねないのだ。

景気テコ入れのために投機マネーを世界に解き放ったのが、ほかならぬ量的緩和である。これが政策目標である景気回復を妨げるジレンマは、異例の金融緩和に幕を引く難しさを改めて浮き彫りにする。

FRBは17~18日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、緩和の拡大ペースを落とすという市場の予想を裏切り、現状維持を決めた。「景気回復が本格的か、もう少し見極めたい」というのが直接の理由だ。

確かに、雇用の増加ぶりは鈍く、住宅部門の回復も勢いがない。また、来月には連邦議会が政府債務の上限引き上げ問題などで紛糾する恐れもある。

ただ、不安の諸要因を根底で結びつけているのは、住宅や自動車のローン金利の基礎となる長期金利の上昇である。

住宅と自動車の2大産業は、金融緩和が実体経済に波及する最大のチャンネルだ。ローン金利が上がると、消費、設備や住宅への投資、そして雇用の回復が妨げられる。

FRB議長が「出口」に言及した5月から長期金利はほぼ1%幅上がって3%近くに、住宅ローン金利も4%に達した。このまま不用意に出口戦略へ踏み込み、仮に財政を巡る議会の混迷でも重なれば、投機筋を勢いづかせる恐れもある。

米国の金利上昇は新興国からのマネー流出も招く。新興国が通貨防衛でドルを売り自国通貨を買う介入をすれば、原資として手持ちの米国債が売られ、金利が上がりやすくもなる。

FOMC後、長期金利はひとまず落ち着いた。議長は記者会見で「政策を市場の予想するがままに任せることはできない」と語ったが、市場との対話は一段と難しくなりそうだ。

FRBは出口戦略について早くから展望を示し、細心の注意を払ってことを進めてきた。それでも予期せぬ事態に動きが取りにくくなっている。

同じような量的緩和を進める日銀は出口戦略の議論すらも、「時期尚早」として封印している。将来の政策運営の難しさを考えれば、再考すべきだ。

毎日新聞 2013年09月20日

米金融緩和維持 弊害深める先送りだ

米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が、注目されていた量的緩和の縮小開始を見送った。バーナンキ議長の発言などから、市場関係者の多くが今回の政策変更を予測していたため、驚きと困惑が広がった。

経済の回復に確信が持てないため、もう少し様子を見るという。だが、市場が緩和縮小に備えようとしていたところ、あえて実行を見送ったことは、FRBの意図をわかりにくくした。さらに「財政(抑制)の影響が弱まり、成長が加速し、労働市場の伸びが続き、インフレ水準が目標に近づくという見通しが指標で確認できれば」(議長)と縮小開始のハードルを上げた。

景気や市場への配慮が必要なのは当然だが、政策のカジを切るタイミングを逸して弊害が長期化、深刻化しては困る。早期に正常化への一歩を踏み出してもらいたい。

FRBは1年前、量的緩和の第3弾に着手した。毎月、米国債など8.5兆円相当の資産を買い入れ、大量に資金を供給するというものだ。

これを受け、米国内で株価が高騰したばかりか、緩和マネーの一部は運用利回りを求めて新興国市場に向かった。バーナンキ議長が今年5月、量的緩和の転換方針を示すと一転、マネーは米国に逆流を始め、新興国の通貨や株式相場が急落するという混乱が起きていた。

FRBが特に気にしたのは、量的緩和縮小を見越して国債の利回り(長期金利)が急上昇していたことだろう。住宅投資や消費などに与える悪影響が心配のようだが、これだけ意図的に金利を押し下げてきたのだから、市場の反動は当然の結末だ。先送りすれば回避できるものではなく、むしろ余計に反動が大きくなる恐れさえある。

忘れてならないのは、今FRBが緩和縮小の一歩を踏み出したとしても、まだ数年、極端な金融緩和状態が継続しそうなことだ。現在7%台の失業率が6.5%以下になるまでゼロ金利を維持する方針は「変更しないことを決めた」という。

その間、資産バブルなどを引き起こすことがないか、最大の警戒が必要だろう。景気の回復が不十分だとして緩和縮小が見送られたのにもかかわらず、米株式市場でダウ工業株30種平均が1カ月半ぶりに最高値を更新したことは、まさにバブルの芽を予感させるものだ。

FRBが直面する課題は、今春、「異次元の」量的緩和を始めた日銀にもいずれ降りかかってくる。極端な政策を始めると、そこからの脱却がいかに困難と混乱を伴うものかということを、日銀も政府も、今から認識しておく必要がある。

読売新聞 2013年09月22日

FRB金融緩和 「出口戦略」への難しい舵取り

米連邦準備制度理事会(FRB)が、金融危機対策として続けてきた量的緩和策第3弾(QE3)の縮小を見送った。

QE3の終了に向け、「出口戦略」の第一歩を踏み出すという観測が多かっただけに、サプライズと言える。

出口への道は不透明である。市場では早くも「縮小は12月」との見方が浮上しているが、FRBは難しい(かじ)取りを迫られよう。

FRBは、連邦公開市場委員会(FOMC)を開き、米国債などを毎月850億ドル(約8・4兆円)買い入れて資金を市場に供給する異例の対策を維持した。

「景気や雇用情勢の改善を確実に見届けるまで判断を待ちたい」との声明を発表した。

あえて出口へ急がず、景気の持続的な回復を最優先する安全策を選択したのだろう。

米国経済は、4~6月期の国内総生産(GDP)の伸び率が前期比年率で2・5%増となり、景気回復基調が鮮明になってきた。

しかし、気掛かりは雇用情勢である。8月の失業率は7・3%に低下したが、非農業部門の就業者数の増加ペースは緩慢だ。

FRBは最近の長期金利の上昇による悪影響も警戒している。10月半ばに迫った連邦債務上限を巡る与野党協議の難航は、景気の先行きに影を落としかねない。

QE3縮小の先送り直後、ニューヨーク株価が急騰したのは、安心感が広がったからだろう。

FRBの出口戦略を先取りする形で投機マネーが流出していた新興国でも、現地通貨が買い戻され景気減速懸念が少し和らいだ。

FRBが拙速に動けば、日本を含めて、世界景気や市場に多大な影響を与える。ひとまず混乱を回避できた点は歓迎したい。

ただし、FRBはいつまでも大規模な量的緩和策を続けることはできない。過剰マネーが世界を駆け巡り、資産バブルを引き起こす副作用も懸念される。

FRBは「年内にQE3縮小を開始し、来年半ばに終了する」との方針を示してきた。その通りに踏み出したとしても、出口までの道は長い。混乱を招かないよう、「市場との対話」が要る。

来年1月末に任期が切れるバーナンキFRB議長の後任人事も焦点だ。オバマ大統領は、最有力候補とみられたサマーズ元財務長官の指名断念を発表した。

イエレンFRB副議長を軸に最終調整される見通しだが、大統領は早期に後任を指名し、金融政策の安定を目指してもらいたい。

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