原発汚染水対策 政府は廃炉まで積極関与せよ

毎日新聞 2013年09月21日

首相廃炉要請 パフォーマンスは無責任

東京電力福島第1原発を視察した安倍晋三首相が5、6号機の廃炉決定を東電に要請した。原発事故の実情を考えれば廃炉自体は当然のことだ。遅すぎる決断と言ってもいい。

しかし、この時点で廃炉要請する意味については疑問が大きい。政府が今、緊急に取り組むべき課題は、汚染水対策や短期的な事故処理である。ところが、今回の廃炉要請がこの課題にどうプラスに働くのか、見えてこない。

5、6号機は冷温停止状態にある。廃炉決定したとしても当面は同様の維持管理が必要で、費用や人材に余裕が生まれるとは思えない。むしろ、廃炉が始まれば、多くの人材や費用が必要となるだろう。

茂木敏充経済産業相は「廃炉により空きスペースができ、汚染水のタンクを増設したり機材を持ち込んだりできる」と語っているが、いつの話をしているのだろうか。事故を起こしていない原発でも廃炉に何十年もかかることは担当相なら承知しているはずだ。5、6号機を使った作業訓練を検討する意味はあるが、事故処理にすぐ役立つわけではない。

結局のところ、今回の廃炉要請は、困難な現状から目をそらすためのパフォーマンスと疑わざるを得ない。これでは、国内はもちろん、国際社会を納得させることは無理だ。

しかも、廃炉決定により、コスト負担も課題として浮上する。これまでの仕組みで東電が廃炉を決めると一度に巨額の損失が生まれる。経産省は会計制度を年内にも改正し、廃炉コストを長期間に分散できるようにし、費用を電気料金でまかなえるようにする計画だ。

今回の要請は、そのタイミングをにらんだものとも考えられるが、首相が廃炉を要請する以上、税金の投入を求められてもおかしくない。いずれにしても、国民の負担に直結する以上、首相は、もっときちんと説明すべきではないか。

安倍首相は、タンク内の汚染水について「2014年度中に浄化を完了する」との東電社長の言葉も紹介した。首相側からの期限設定の要請に応じた形だが、今後増設するものを含め放射性物質除去装置がフル稼働し、地下水流入量も減らせるとの仮定に立った話だ。汚染水対策が終わるわけでもない。現場が「制御されている」というイメージ作りのために無理な計画を立てることになればかえって事態は悪化するだろう。

安倍首相は「国が前面に立って」「私が責任者として」対策に当たると繰り返している。そうであるなら、廃炉要請でごまかしたりせず、汚染水対策や事故処理に直結する具体策を、政府自らが出していってもらいたい。

読売新聞 2013年09月20日

原発汚染水対策 政府は廃炉まで積極関与せよ

東京電力福島第一原子力発電所の事故対応は、廃炉まで30~40年もの取り組みになる。政府が責任を持って関与する体制を整えるべきだ。

安倍首相は福島第一原発を訪れ、汚染水漏れを起こした貯蔵タンクなどを視察し、現場の職員を激励した。東電に対しては、期限を決めて汚染水の浄化を進めることや、停止している5、6号機の廃炉を要請した。

汚染水対策を強化する姿勢を自ら示したと言える。視察後、首相が「国が前面に出て責任を果たしていかなければならない」と改めて述べたのも当然だ。

政府は、汚染水の対策費として約470億円の国費投入を決めている。着実な実施を求めたい。

政府は、汚染水対策など事故処理を東電にゆだねてきた。政府が積極的に関与してこなかったことが、対応の遅れや混乱につながったのは間違いない。

自民党は、汚染水対策で国と東電の責任分担を定め、指揮系統を明確にする特別措置法の検討を始めた。特措法が制定されれば、財政支援する根拠にもなろう。

重要なのは、特措法を汚染水対策に限定せず、事故収束まで視野に入れた総合的な内容にすることだ。汚染水の封じ込めは、事故収束への「入り口」に過ぎない。

廃炉や除染に巨額な費用がかかり、人材確保も必要になることを考えれば、東電にすべて任せるのは無理だ。支援体制を抜本的に見直す必要がある。

首相は、ブエノスアイレスでの国際オリンピック委員会総会で、福島原発について「状況はコントロールされている」と語った。

五輪招致にあたり、汚染水の影響は原発の港湾内にとどまっているとのメッセージだった。首相は原発視察後、「健康への被害はなく安心してもらいたいと世界に発信した」とも説明した。

民主党は、コントロールされている状況とは程遠いなどと批判しているが、揚げ足取りと受け取られても仕方あるまい。

そもそも、東電任せの事故処理の枠組みを作ったのは民主党政権だ。2年前、汚染水流出を防ぐ遮水壁の設置を先送りする東電の判断を、当時経済産業相だった海江田代表は容認していた。

今優先すべきは、より良い対策となるよう与野党が知恵を絞ることである。国会の閉会中審査や、10月中旬に始まる臨時国会の審議では、原発対応のあり方や、政府と東電の役割分担についても議論を深めてもらいたい。

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