COP15 懸案先送りで決裂を回避した

朝日新聞 2009年12月20日

COP15閉幕 来年決着へ再起動急げ

コペンハーゲンで開かれた国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)は、決裂寸前の土壇場で主要国が何とか政治合意をまとめた。全締約国がこれに「留意」することで一致したが、温室効果ガスの排出削減をはじめ重大な懸案を来年に持ち越した。

ここで立ち止まるわけにはいかない。世界の国々はCOP15の教訓に立って、来年に向け交渉努力を倍加しなければならない。

地球温暖化を放置すれば、世界各地で洪水や干ばつが起き、紛争や貧困が広がる。生物の多様性は失われ、人類の繁栄が持続不能に陥りかねない。

現行の京都議定書は2012年で終わる。新たな国際枠組みに早く合意しないと、13年以降、温暖化防止の取り組みが途絶える。

だからこそ歴史的な首脳会議が開かれた。119カ国の首脳が演説しただけでなく、二国間や主要国間で精力的に協議を重ね、文字通りの首脳外交を展開した。温暖化問題はまぎれもなく、戦争と平和の問題、世界規模の経済危機に匹敵するほど差し迫った外交課題に押し上げられた。

毎日新聞 2009年12月20日

国連気候変動会議 危うい「義務なき協定」 議定書作りの歩み止めるな

地球の気候を安定化させ、悪影響を防ぐために、世界がどこまで歩み寄れるか。100カ国を超える各国首脳が集い温暖化防止に向け合意を探った会議は、「コペンハーゲン協定」を採択できずに終わった。

デンマークのコペンハーゲンで開かれた「国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)」は、協定について、拘束力の弱い「承認」という形にとどめた。

2012年で期限が切れる京都議定書以降(ポスト京都)の地球の姿を描く重要な転換点だっただけに、非常に残念な結果だ。

ポスト京都の枠組み構築までに残された時間は少ない。このまま、温暖化防止に向けた機運がしぼんでしまうことがあってはならない。新たな合意をめざし、各国が粘り強い交渉を続けることが不可欠だ。

18世紀に英国を中心に起きた産業革命は、石炭や石油など化石燃料を大量消費する工業化社会を生み出した。その結果、私たちが直面しているのが地球温暖化だ。

気温上昇をもたらす二酸化炭素の世界の排出量は、自然界が吸収できる量の2倍を超えた。このまま温室効果ガスの排出が増え、産業革命以降の気温上昇が2度を超えると、世界に悪影響が及ぶ。科学者集団「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が指摘する地球の危機だ。

COP15で首脳がまとめた「コペンハーゲン協定」は、気温上昇を2度以内に抑える必要性や、途上国支援の金額などを盛り込んだ。来年1月末までに先進国は中期削減目標を、途上国は削減計画を提出することも盛り込まれている。

ただし、「2度以内」を実現するために誰がどのように削減責任を負うのか、途上国の実際の削減が担保できるかどうかは不透明だ。ポスト京都の枠組みのあり方さえ示せず、期待はずれの内容だ。

COP15の最大の課題は、世界の2大排出国である米国と中国も参加し、それぞれが削減に責任を負う枠組みの構築だった。

京都議定書では世界の排出の4割を占める米国と中国に削減義務が課せられていない。このままでは、地球規模の削減に実効性を持たせることは不可能だ。

京都議定書から空白期間を設けずに次の削減行動につなげるには、COP15で新議定書につながる政治合意をまとめることが最低ラインだった。合意には、2050年までの長期目標、先進国と途上国の中期目標、さらに、途上国への資金援助や、温暖化の被害を軽減する対策などが盛り込まれる必要もあった。

にもかかわらず、合意が採択できなかった背景には、途上国と先進国の根強い対立がある。

温暖化対策の基本原則は、「共通だが差異ある責任」だ。中国など新興国に先進国と同等の削減義務を負わせるのはむずかしい。しかし、経済発展に伴い急速に排出量を増やしている中国やインドが削減責任を負わなければ、公平性に欠ける。

そこで重要となるのが、すべての削減を「測定・報告・検証」する透明性確保の仕組みだ。

ところが、中国はこれを拒否し、自らが削減義務を負わない京都議定書の延長に固執した。国際的枠組みの中での責任を明確にしないという態度は、経済発展を遂げる大国にふさわしくない。

米国にも弱みがある。COP15直前に「05年比17%減」という数値目標を公表したものの、90年比では約4%削減に過ぎない。議会で審議中の温暖化対策法案の足かせがあり、一歩踏み込むことも難しい。

結局、国際交渉をリードできず、かけつけたオバマ大統領も存在感を示せないままだった。議長国デンマークの調整能力の弱さも、交渉を難航させた一因だ。

国際交渉の場で、日本が存在感を示せたかどうかにも疑問がある。「90年比25%削減」という中期目標がCOP15開催前の米中などの数値目標表明を後押しした要素はあるだろう。しかし、COP15の場では中国などから歩み寄りを引き出すことができなかった。

日本では産業界を中心に、「25%の削減目標は突出しているのではないか」といった懸念も広がった。しかし、日本は削減努力をやめてはならない。

他国の状況によらず、日本が化石燃料の大量消費に歯止めをかけ、低炭素社会に向けてかじを切ることの重要性は変わらない。腰を引くのではなく、削減を成長戦略につなげる具体策を精力的に探るべきだ。

交渉難航の背景には、金融危機の影響もありそうだ。世界の目が目先の経済対策に注がれ、温暖化対策が二の次になっている可能性がある。

しかし、産業革命が世界を大きく変革したように、低炭素革命はこれからの世界を飛躍的に変化させる潜在力をはらんでいる。世界が参加するポスト京都の枠組み作りに向けて、着実に前進することが何より大事だ。

読売新聞 2009年12月20日

COP15 懸案先送りで決裂を回避した

決裂を回避できたことが、国連気候変動枠組み条約の第15回締約国会議(COP15)が残した唯一の成果といえよう。

COP15は主要国がまとめた政治合意文書である「コペンハーゲン合意」を承認した。

文書は、先進国と新興国・途上国の間で利害が相反する部分をそぎ落としており、乏しい内容が根深い対立を反映している。京都議定書に次ぐ2013年以降の枠組みをどうするか、という最重要懸案は先送りとなった。

10日間余の会議は、新興国と途上国のペースで進んだ。特に中国やインドなどが京都議定書を13年以降も延長する案を強硬に主張し、先進国は振り回された。

京都議定書で、温室効果ガスの排出削減を義務付けられているのは先進国だけだ。新興国・途上国にとって、京都議定書は、非常に好都合な枠組みである。

日本や欧州連合(EU)は、新興国・途上国をも含めた新たな枠組みが必要だと主張してきた。中国が世界一の排出国になったことなどを考えれば、当然だ。

米国は京都議定書から離脱しており、仮に延長されても影響は及ばない。こうした欠陥だらけの枠組みである京都議定書が今回は延長されなかったことが、日本にとっての救いである。

日本政府は、今後も延長に反対する姿勢を崩してはならない。

鳩山首相は、「20年までに1990年比で25%削減」という日本としての中期目標を掲げてCOP15に臨んだ。極めて高い目標の提示で、他国に削減目標の引き上げを促す戦略だった。

しかし、首相が、「他の国々が必ずしも大胆な目標を提示してくれない状況だ」と語るほど、交渉は厳しく、首相の見通しの甘さが露呈した。

交渉が進展したのは、日本や米国が新興国・途上国向けの資金支援策を表明してからだ。新興国・途上国は、先進国からの支援という実利によって動くという現実が如実に示された。

合意には、「先進国は20年の削減目標を来年1月31日までに合意の別表に記載する」という内容が盛り込まれた。この数値が次期枠組みで各国が負う削減義務となる可能性が高い。

日本が不利な削減義務を負った京都議定書を教訓に、次期枠組みは、公平なものにしなくてはならない。米国などより大幅に厳しい「90年比25%減」を記載するのか。日本政府が難しい判断を迫られるのは、これからである。

産経新聞 2009年12月20日

COP政治合意 温暖化の放置は不可解だ

世界の閣僚と約100カ国の首脳がコペンハーゲンに集まった国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)は、迷走の末に全体会合で「コペンハーゲン合意」をまとめた。

COP15の目的は、温室効果ガスの削減に実効性を持つ新たな枠組みを構築することだった。

地球環境は、2大排出国の中国と米国などが加わる「新議定書」を待ち望んでいる。

しかし、難産の末に生まれた政治合意も、地球の気温上昇を2度以内に抑えることや、途上国に対する資金援助などを柱とする内容である。法的拘束力も持たない。温暖化防止の国際的指針としては踏み込みが浅い。

ハードルを下げていたにもかかわらず、期待された成果は挙げられず、会議は紛糾の連続だった。混乱の最大の理由は、責任と義務をめぐって、途上国と先進国が鋭く衝突したことにある。

とくに今回は、先進国同士でも足並みが乱れ、途上国間では中国などの新興国と最貧国の間で南南問題ともいえる内部対立が起きた。しかし、今は足踏みをしている場合ではないはずだ。二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出は年ごとに増えている。

にもかかわらず、今回の会議を見ている限り、多くの国がこの火急の事態を放置しているとしか思えない。きわめて不可解だ。

だが、「金儲(もう)け」という視点で見詰めると、混乱の背景が焦点を結んで見えてくる。温暖化防止の「手段」であるべき資金の獲得が「目的」に転じてしまった国が少なくないのではないか。

現行の京都議定書の下で、途上国は削減義務を負っていない。省エネが進んでいて削減余地の少ない日本などから資金や技術を無償で勝ち取れる。

京都議定書の単純延長を求める要求が相次いだのはそのためだ。日本と手を携えていたはずの欧州連合(EU)でさえ、排出量取引市場の安定化のために、延長に傾きかけた節がある。

日本の産業界や有識者が最も警戒した京都議定書の単純延長は、幸運にも回避された。だが、延長論は消えていない。今後の国際交渉で息を吹き返すはずだ。高すぎる削減率とセットになると日本の社会と経済は致命傷を受ける。

すべての主要排出国が、地球に対する責任を持って参加する新議定書の採択が急がれる。

産経新聞 2009年12月17日

COP首脳会合 枠組み離脱の決意も持て

地球環境に対しても、日本にとっても好ましくない方向に交渉は進みつつあるようだ。

2013年以降の地球温暖化防止策について協議が行われている国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)の雲行きが怪しい。

現行の京都議定書は3年後に期限が切れるが、これを延長させる案が、途上国を中心に勢いを増している。

この案と並行して、大量排出国でありながら削減義務を負っていない米中などを別枠で参加させようという声も強くなっている。

ともに会議前の理想とは、異なる方向性である。COP15の目標は、新たな議定書採択への道筋となる政治合意への到達だ。

ポスト京都の新議定書は、米中をはじめ、途上国を含むすべての国が一体となって削減に取り組むものでなければならない。

だが、これまでの交渉では、京都議定書の延長と、別枠による2本立ての枠組みが有力になり始めているように見受けられる。

この形で決着すれば、来年中にまとめられる新議定書も2枠を踏襲した内容となろう。日本はこれを絶対に容認してはならない。

地球の気温上昇に実効的な歯止めはかからず、日本の国益が兆円単位で海外へ流出する理不尽な事態が2020年まで続くことになり得るからである。

17日には2日目の閣僚級会合が開かれる。最終日の18日には鳩山由紀夫首相が首脳級会合に臨む。残された日数は少ないが、各国が力を合わせて排出を減らす政治合意に到達するよう、交渉力を発揮してもらいたい。

日本は早々と25%の削減目標を掲げてCOP15に臨んだが、会議の主導権は握れていない。このままでは日本だけが突出した削減義務を背負い込みかねない。さらには膨大な金額の資金援助も途上国から求められている。

それに応じる経済的余裕が、今の日本にあるのだろうか。苦境に身を置くことで新たな技術開発が促進されるとはかぎらない。できるとしても時間がかかる。

COP15の帰結は、予断を許さない。だが、負担ばかりで効果の乏しい合意なら、日本は次期議定書の枠組みに不参加の決意を表明すべきだ。非難の声は起こるだろうが、各国に真剣さを取り戻させる契機となろう。温暖化の暴走を止めるには、それが最も確実な道ではないか。

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