園児犠牲訴訟 津波への予見と情報があれば

毎日新聞 2013年09月19日

園児津波判決 管理者の重責を教訓に

津波に対する幼稚園の安全配慮不足を強く指弾する判決になった。

宮城県石巻市の私立日和(ひより)幼稚園で起きた園児死亡事故だ。東日本大震災の発生直後、高台にある幼稚園から海側に出発したバスに乗せられて津波被害に遭い亡くなった園児4人の遺族が園側を訴えていた。

仙台地裁は「園長は津波に関する情報収集を怠った」などとして、約1億7700万円の賠償を命じた。

「1000年に1度の地震や津波の予測は困難だった」と園側は主張したが、判決は「報道などによって6メートル前後の津波が押し寄せることは容易に想像できた」と退けた。防災の第一歩である情報の入手に全力を尽くせということだ。

また、自ら避難行動を選択できない子供に対し、施設管理者は最大限の配慮義務を負うと判決は述べた。もっともな指摘だ。

南海トラフ巨大地震をはじめ、大規模災害は、待ったなしでやってくる。今回の事故を特別なケースと片付けることはできない。人の命を預かる管理者は万全の備えを進めよ、との教訓だと受け取るべきだ。

判決が認定した内容からは、園側の怠慢と防災意識の欠如が、明瞭に浮き彫りになる。

2006年、県の会計監査で安全計画が作られていないと指摘され、園は地震マニュアルを策定した。そこには「園児は保護者のお迎えを待って引き渡す」と定めていたが、職員に徹底されておらず、訓練や打ち合わせもされなかった。

結局、マニュアルは生かされず、園長の指示で当日バスを出発させた。しかも、被害に遭った園児らは内陸部に住んでいて本来違う便だったのに、園の判断で海側のルートのバスに同乗させた。園長は、バスの出発後間もなく大津波警報発令を認識したが、すぐにバス運転手に高台に戻るよう連絡しなかった。バスは最終的に津波に巻き込まれて横転、火災に遭い、園児5人と女性職員1人の尊い命が失われたのである。

園に津波はこなかった。マニュアル通りに組織的な対応が取られていれば、避けられた事故とみられる。

津波が予想されれば高台に迅速に避難するのが防災の鉄則だ。また、既に安全な場所にいればむやみに移動することは、かえって危険を招く。幼稚園や保育園、学校、高齢者施設など災害弱者を抱える施設は、そうした基本を改めて確認してほしい。また、避難マニュアルが作成されているか、それに基づく訓練はしっかり実施されているかについても早急にチェックしてもらいたい。

もちろん、予測不可能な災害の現場では、ときに臨機応変な対応が求められるのは言うまでもない。

読売新聞 2013年09月18日

園児犠牲訴訟 津波への予見と情報があれば

津波から園児の命を守れなかった責任は、幼稚園にある。幼い子供を預かる施設への警鐘と言える賠償命令だ。

東日本大震災の直後、宮城県石巻市の私立幼稚園の送迎バスが津波に巻き込まれ、園児らが死亡した事故で、仙台地裁は幼稚園側に約1億7700万円の損害賠償を命じた。

死亡した園児4人の両親が「園の対応の悪さが引き起こした人災だ」と訴えていた。判決は「津波に関する情報収集義務を怠った」と結論付け、訴えを認めた。

幼い園児は、危険を回避する能力が大人ほど発達していない。津波襲来の際などには、自らの判断で避難することは困難だ。

判決が「園長、教諭を信頼して指導に従うほかに生命身体を守る手立てがない」と指摘したのは、もっともである。

手立てがない以上、幼稚園には、子供の安全を守る高度な義務が課される。判決も「危険性を予見し、回避する最善の措置を取る義務を負う」と判断した。

その上で、最大震度6弱の揺れが約3分間も続いたことを考えれば、園側が津波襲来を予見するのは可能であり、「ラジオや防災無線を正確に聴く必要があった」と、園側の落ち度を認定した。

園側は「予測不可能な異常な津波で引き起こされた不可抗力による事故」と主張してきた。

だが、幼稚園は高台にあるのに、園児を自宅に送り届けようとバスは海側に向かった。園自体は津波被害を受けなかっただけに、園児の両親が「園の行為で犠牲が出た」と訴えたのは理解できる。

大地震の際は園庭に避難し、保護者が迎えに来てから園児を引き渡すとの園のマニュアルがあるにもかかわらず、教職員の大半が存在を知らず、マニュアルに沿った訓練も実施しなかったという。

大地震と津波への備えを欠いていたのは明らかだろう。

園側が控訴すれば、訴訟は続くが、多額の賠償命令に対し、園側に支払い能力はあるのかという問題は残る。

南海トラフ巨大地震では、東日本大震災を上回る規模の津波被害が想定されている。

避難場所や経路を確保し、日ごろの訓練で教職員や子供に徹底させる。幼稚園だけでなく、保育所や小学校など、子供のいる施設が早急に取り組むべき課題だ。

和歌山県串本町の町立幼稚園では、ほぼ毎日、園児と職員全員が高台への避難訓練を続けている。こうした取り組みを広げたい。

産経新聞 2013年09月19日

津波犠牲の責任 命守る備え求めた判決だ

東日本大震災の津波で宮城県石巻市の幼稚園児5人が死亡した事故で、仙台地裁は幼稚園側に約1億7700万円の損害賠償を命じた。

判決は、幼稚園側が園児を保護すべき注意義務や、津波に関する情報収集義務を怠ったために園児を乗せた送迎バスの被災を招いたと断じた。

司法が、人の命を預かる施設に科した重い判断である。判決はまた、園側の地震や津波に対する備えや、マニュアルの不徹底を指摘した。全国のすべての施設や、各家庭でも、非常時への備えは万全にしなくてはならない。

幼稚園は標高約23メートルの高台にあった。園のマニュアルでは、大地震の発生時には園で園児を保護者に引き渡すと定めていた。

大震災の揺れが収まると園長は園児を乗せたバスを海沿いの低地に向けて出発するよう指示した。「みぞれのなか園庭で寒そうにしていた園児を早く保護者に送り届けたかった」ためだという。

そこに悪意や犯意があろうはずもない。だが判断は誤っていた。すでに防災無線は「大津波警報。至急高台に避難を」と繰り返し、ラジオは津波到達予想時刻と予想される高さは6メートルだとアナウンスし続けていた。

園側は、予見可能性はないと主張したが、判決は「千年に1度」の巨大地震の発生を予想できなかったとしても、実際に体感した以上、津波の危険性があることを考慮すべきだったと指摘した。

判決を読めば読むほど、わが子の「命を守れたはずだ」と悔やむ親の気持ちが痛いほど分かる。園側は「判決はどうあれ、園児らを亡くした悲しみは今も心に刻まれている」とコメントした。この気持ちにも、嘘はあるまい。

なぜこれほどの悲劇が起きたのか。被災に対する、事前の備えを欠いたためだ。

宮城県教育委員会の震災マニュアルは「職員はラジオなどで情報収集に努める。津波警報などの発令時は高台に2次避難する」と規定している。大地震発生時には園で子供を引き渡すことを定めた園のマニュアルと合わせ、これらが周知徹底されていれば、失わなくてもいい命があった。

マニュアルは実践されなくては意味をなさない。大地震だけではなく、豪雨や強風への対処も同様だ。判決を警鐘と受け止め、一人一人が心に刻んでおきたい。

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