年1兆円規模で増え続ける社会保障財源をどのように手当てし、国の財政立て直しに結び付けるのか。昨年8月に民主、自民、公明の3党で成立させた消費税増税法は、この問いに対する答えだ。
安倍晋三首相が来年4月から消費税率を3%引き上げて8%とする方針を固めた。最近の経済指標は景気の好転を示しており、法律通りに増税を実施する環境が整ったと判断したためだ。
≪国民の理解得る説明を≫
安定的な社会保障財源の確保に加え、財政再建に一歩を踏み出す首相の決断を支持する。首相は10月1日に正式表明する見通しだ。その際には改めて社会保障財源に充てる消費税増税の必要性を訴え、国民の理解を得るべきだ。
増税で景気を腰折れさせてはならない。デフレ脱却に伴う経済成長と財政再建を両立させることに全力を挙げてほしい。
首相は増税をめぐって「最終的には私の責任で決める。経済指標を踏まえて適切に判断する」と強調してきた。指標で最も重視する今年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は年率換算で3・8%増と高い伸びとなった。
企業の設備投資が1年半ぶりにプラスを記録したことは特に重要だ。「アベノミクス」で堅調に推移する個人消費に加え、企業も設備投資に前向きな姿勢に転じたことは、持続的な景気回復にもつながる。増税に耐えうる経済的な情勢は整いつつある。
消費税増税をめぐって有識者から幅広く意見を聴取した集中点検会合では、出席者の7割超が予定通りの実施を求めるなか、デフレからの脱却を優先して日本経済に負担を強いる消費税増税の先送りを求める意見もあった。
平成9年4月に消費税率を3%から現行の5%に引き上げた際、特別減税の打ち切りや社会保険料の引き上げも加わり、現在まで続くデフレを招く原因になったとの批判がある。これを念頭に置いた見方だろう。
しかし当時の経済動向をみると、同年4~6月期のGDPは大きく落ち込んだが、続く7~9月期はプラス成長を達成した。日本経済は増税の影響を乗り越えつつあったが、その後のアジア通貨危機や金融危機が響いて後退したとみるべきではないか。
来年4月から法律通りに消費税率を8%に上げれば、今年度末までに発生する増税前の駆け込み需要の反動で、来年4~6月期の景気の落ち込みは避けられまい。これを、いかに短期でプラス成長に戻すかが重要だ。
それには十分な景気対策が欠かせない。政府・与党では法人税減税などの検討を進めている。デフレ脱却への取り組みも必要だ。
増税の際には日銀による一段の金融緩和も検討してほしい。政府・日銀が一体となった対策を考えるべきである。
ただ、公共事業の上積みを含め「5兆円超」などと、対策の歳出規模ばかりが先行しているのは問題だ。増税対策に名を借りたバラマキは許されない。
消費税は社会保障財源に充当することが明記されている。国債発行に依存する社会保障制度の安定と充実を図り、財政再建につなげるという増税の目的を忘れてはならない。
≪軽減税率導入も必要だ≫
消費税は来年4月に続き、27年10月に再び2%引き上げて10%にすることが法律で決められている。まず8%に引き上げて経済的な影響を見極め、再増税の可否を判断すべきだ。
増税にあたってはコメ、みそなどの基礎的な食料品や新聞、雑誌などへの課税を減免する軽減税率の導入も不可欠だ。欧州の付加価値税は20%前後と高いが、軽減対象を広く認めて国民生活への負担を緩和している。こうした先行事例も参考にしてほしい。
政府は国・地方の基礎的財政収支の赤字を27年度に半減し、32年度には黒字化する財政再建目標を立てている。消費税率を予定通りに10%に引き上げれば赤字半減は可能だが、それでも黒字化は達成できない恐れが強い。
財政健全化は安定的な経済成長の基盤である。とくに高齢化などで年1兆円規模で増加する社会保障費などの削減は欠かせない。
安倍政権は、歴代内閣が苦慮してきた消費税増税に取り組む。多くの課題を克服して、財政再建を果たしてほしい。
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