消費増税対策 何でもありは許されぬ

朝日新聞 2013年09月18日

消費増税対策 何でもありは許されぬ

あまりに節度を欠いているのではないか。

来春に予定される消費増税に合わせて、安倍政権が検討中の経済対策のことだ。

「国費5兆円超」が当然視され、公共事業の大幅積み増しから法人税率の引き下げまで、何でもありの様相である。

消費税率を1%上げると、税収は年に約2・7兆円増える。5%から8%への増税で負担増は8兆円に達する。デフレ脱却への流れが途切れないよう、一定の対策は必要だ。

しかし、消費増税の目的を忘れてはならない。

国債の発行、つまり借金に頼る社会保障分野に消費税収をあて、制度の安定・充実と財政再建を目指すのが狙いである。

増税対策でも、必要性を吟味し、限られた財源を有効に使う姿勢が欠かせない。

「国内総生産(GDP)の1%分の景気対策が必要」「消費税2%分の対策を打ち、負担増を実質1%に抑える」――。こんな「金額ありき」の発想は、もうやめにしたい。

必要な対策は何か。

民間主導の経済成長のカギを握るのは、GDPの6割を占める個人消費の動向だ。

消費増税の負担が大きい低所得者を中心に一時金を給付し、消費の急激な落ち込みを防ぐ。景気への波及効果が大きい住宅の駆け込み需要とその反動を抑える工夫も必要だろう。

あわせて、収益が好調な企業が雇用を増やし、賃金を引き上げるよう、仕組みを整える。雇用や賃金を増やした企業の法人税を軽くする制度があり、その適用基準をゆるめたり減税額を増やしたりするのは一案だ。

企業自体の成長につながる設備投資や研究開発投資を促す税制の拡充も検討したい。

法人税率そのものの引き下げはどうか。

安倍政権は、「パンチ不足」と評判が芳しくない成長戦略の目玉にしたい考えのようだ。

ただ、法人税を納める前提となる黒字の企業は全体の3割程度。なにより、政府の統計によると、法人全体で現金と預金だけで約150兆円をため込んでいると推計されている。

なぜ企業はおカネを使わないのか。ここにメスを入れないまま法人税率を下げても、企業がますます資金を抱え込むだけになりかねない。

既存業者を守っているだけの規制を見直し、新たな市場をつくる取り組みは尽くしたのか。財政への影響が大きい法人税率引き下げに飛びつく前に、やるべきことがある。

毎日新聞 2013年09月19日

消費増税対策 ばらまきは本末転倒だ

来年4月に消費税率を現行の5%から8%に引き上げることを前提に、安倍政権が5兆円規模の経済対策を検討している。高齢化で社会保障費が膨らむなか、財政が破綻しないよう国民全体で負担を分け合うギリギリの選択肢が消費増税だ。増税による景気の腰折れを避ける名目で財政を大盤振る舞いするなら本末転倒だ。しかも旧来型の自民党の景気対策である公共事業のばらまきにつぎ込むなら、なおさら何のための増税かわからなくなる。

安倍内閣はアベノミクスで三本の矢を打ち出した。大胆な金融緩和、機動的な財政出動、成長戦略だ。第二の矢である財政出動により、2012年度補正予算と13年度当初予算で公共事業を大幅に増額させた。

安倍晋三首相はさらに来年の通常国会に13年度補正予算案を提出する構えで、9月中に経済対策をまとめるよう指示した。それを踏まえ10月初めに消費増税の最終判断をするという。だが、財政の拡大はどこかで歯止めをかけなければならない。これを続けると来年後半にまた大型の財政出動を迫られる。

確かに、消費税率が上がれば、企業や消費者が使えるお金が少なくなり、景気の足を引っ張る。このため低所得者や住宅購入者への現金給付、中小企業向け政策減税の拡充や設備投資減税が検討されている。こうした対策は必要だろう。

問題は、増税対策をテコに、災害に備えた道路整備など「国土強靱(きょうじん)化」のための公共事業を積み上げる動きだ。「経済対策は少なくとも○兆円」といった声が与党から聞かれる。金額確保を先行させる「ばらまき」の発想で、もはや時代錯誤だ。

バブル崩壊後の1990年代、政府は国債を発行して借金で大型経済対策を行い、公共事業を増額した。しかし、デフレは深刻化し、財政は悪化の一途をたどった。それを繰り返してはならない。必要な防災事業は経済対策で膨らませるのではなく、計画を立てて実施すればいい。

経済対策の財源には、前年度に使い残したお金や、景気回復で今年度の税収が増える分などを充てる見通しだが、これは本来、財政の立て直しに使うお金だ。経済対策に回すのは最小限にすべきだ。

景気は回復の動きを続けている。個人消費は堅調で、設備投資も持ち直してきた。秋の臨時国会には、企業の事業再編やベンチャー投資を促す税制改正を盛り込んだ法案が提出される。規制緩和を含めアベノミクスの第三の矢である成長戦略に全力を挙げ、景気回復を長続きさせることが必要だ。旧来型の景気対策から脱し、成長戦略を実らせることが安倍政権の最大の課題だ。

産経新聞 2013年09月20日

消費税8%へ 成長と財政再建の両立を 十分な景気対策欠かせない

年1兆円規模で増え続ける社会保障財源をどのように手当てし、国の財政立て直しに結び付けるのか。昨年8月に民主、自民、公明の3党で成立させた消費税増税法は、この問いに対する答えだ。

安倍晋三首相が来年4月から消費税率を3%引き上げて8%とする方針を固めた。最近の経済指標は景気の好転を示しており、法律通りに増税を実施する環境が整ったと判断したためだ。

≪国民の理解得る説明を≫

安定的な社会保障財源の確保に加え、財政再建に一歩を踏み出す首相の決断を支持する。首相は10月1日に正式表明する見通しだ。その際には改めて社会保障財源に充てる消費税増税の必要性を訴え、国民の理解を得るべきだ。

増税で景気を腰折れさせてはならない。デフレ脱却に伴う経済成長と財政再建を両立させることに全力を挙げてほしい。

首相は増税をめぐって「最終的には私の責任で決める。経済指標を踏まえて適切に判断する」と強調してきた。指標で最も重視する今年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は年率換算で3・8%増と高い伸びとなった。

企業の設備投資が1年半ぶりにプラスを記録したことは特に重要だ。「アベノミクス」で堅調に推移する個人消費に加え、企業も設備投資に前向きな姿勢に転じたことは、持続的な景気回復にもつながる。増税に耐えうる経済的な情勢は整いつつある。

消費税増税をめぐって有識者から幅広く意見を聴取した集中点検会合では、出席者の7割超が予定通りの実施を求めるなか、デフレからの脱却を優先して日本経済に負担を強いる消費税増税の先送りを求める意見もあった。

平成9年4月に消費税率を3%から現行の5%に引き上げた際、特別減税の打ち切りや社会保険料の引き上げも加わり、現在まで続くデフレを招く原因になったとの批判がある。これを念頭に置いた見方だろう。

しかし当時の経済動向をみると、同年4~6月期のGDPは大きく落ち込んだが、続く7~9月期はプラス成長を達成した。日本経済は増税の影響を乗り越えつつあったが、その後のアジア通貨危機や金融危機が響いて後退したとみるべきではないか。

来年4月から法律通りに消費税率を8%に上げれば、今年度末までに発生する増税前の駆け込み需要の反動で、来年4~6月期の景気の落ち込みは避けられまい。これを、いかに短期でプラス成長に戻すかが重要だ。

それには十分な景気対策が欠かせない。政府・与党では法人税減税などの検討を進めている。デフレ脱却への取り組みも必要だ。

増税の際には日銀による一段の金融緩和も検討してほしい。政府・日銀が一体となった対策を考えるべきである。

ただ、公共事業の上積みを含め「5兆円超」などと、対策の歳出規模ばかりが先行しているのは問題だ。増税対策に名を借りたバラマキは許されない。

消費税は社会保障財源に充当することが明記されている。国債発行に依存する社会保障制度の安定と充実を図り、財政再建につなげるという増税の目的を忘れてはならない。

≪軽減税率導入も必要だ≫

消費税は来年4月に続き、27年10月に再び2%引き上げて10%にすることが法律で決められている。まず8%に引き上げて経済的な影響を見極め、再増税の可否を判断すべきだ。

増税にあたってはコメ、みそなどの基礎的な食料品や新聞、雑誌などへの課税を減免する軽減税率の導入も不可欠だ。欧州の付加価値税は20%前後と高いが、軽減対象を広く認めて国民生活への負担を緩和している。こうした先行事例も参考にしてほしい。

政府は国・地方の基礎的財政収支の赤字を27年度に半減し、32年度には黒字化する財政再建目標を立てている。消費税率を予定通りに10%に引き上げれば赤字半減は可能だが、それでも黒字化は達成できない恐れが強い。

財政健全化は安定的な経済成長の基盤である。とくに高齢化などで年1兆円規模で増加する社会保障費などの削減は欠かせない。

安倍政権は、歴代内閣が苦慮してきた消費税増税に取り組む。多くの課題を克服して、財政再建を果たしてほしい。

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