軍事攻撃は当面回避され、内戦の政治解決に向けて一歩を踏み出した。だが、まだまだ不透明な点が少なくない。
ジュネーブで3日間にわたって開かれた米露外相会談は、シリアの化学兵器全廃を目指す枠組みで合意した。
アサド政権に、すべての化学兵器を1週間以内に申告させ、11月までに化学兵器禁止機関が査察を開始する。2014年前半までの完全廃棄を目標としている。
ただ、化学兵器の存在すら認めてこなかった政権が正直に申告し、廃棄する保証があるのか。国内各地で戦闘の続く内戦下で、果たして実効性のある査察ができるのか。次々と疑問が浮かぶ。
北朝鮮の核問題でも、北朝鮮はいったん核放棄を約束しながら、核計画の申告を遅らせ、査察を受け入れなかった。アサド政権が、合意の履行を意図的に遅らせて、政権延命への時間稼ぎをするような事態を許してはなるまい。
今回の合意は、オバマ米大統領が、化学兵器使用への懲罰的軍事攻撃を表明したために、アサド政権の後見役のロシアが外交調停に乗り出し、実現したものだ。
合意を受け、米国は軍事攻撃を当面先送りした。アサド政権が化学兵器を使用したかどうかは、棚上げされたままである。
合意文書には、化学兵器の使用や無許可の移送など、アサド政権が合意不履行の場合は、国連安全保障理事会が、武力制裁に道を開く国連憲章第7章に基づく措置を取るべきだと明記されている。
政権に合意を履行させるには、なお軍事行動を含む強力な圧力が必要ということだろう。
オバマ大統領も、合意後の声明で、「外交が失敗すれば、米国は行動する用意がある」と述べ、米国として軍事攻撃の選択肢を維持する方針を強調した。
安保理では、合意を受けた決議案を作成する。早期に採択し、国際社会全体でアサド政権に履行を促す努力が欠かせない。
内戦では既に、10万人が犠牲となり、200万人が難民となった。一刻も早く戦闘を終わらせる方策を見つけなければならない。
米露外相は近くニューヨークで再会談し、アサド政権と反体制派双方が参加する国際会議の開催に向け協議する。反体制側は、イスラム主義勢力や世俗派など様々な勢力が入り乱れている。外交交渉の前途は多難である。
日本も手をこまねいてはいられない。難民対策など人道支援を一層充実させる必要があろう。
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