米露外相合意 シリアに時間稼ぎを許すな

毎日新聞 2013年09月18日

国連シリア報告 許されぬ戦争犯罪だ

シリアで化学兵器が使われたとされる問題を調べていた国連調査団は、首都ダマスカス近郊で先月21日、神経ガスのサリンが「比較的大規模に」使われたと結論付けた。誰が使用したかは特定する権限がないとして明言しなかったが、独自の調査で「アサド政権が使った」と断定した米英仏を勢いづかせる結果になったのは間違いない。

国連安保理で提示された調査団の報告書は約40ページで、化学兵器を搭載して発射されたとみられるロケット弾の残骸の写真、胴体の表面に書かれた番号や文字なども公表した。現場一帯はサリンで汚染され、被害者の血液や尿からもサリンの成分が検出されたことから、化学兵器が使われたのは事実と断定した。

米政府によると、このロケット弾はシリアではアサド政権しか使っていない。発射されたとみられる場所は政権側の支配地域で、反体制派がそこへロケット弾を持ち込んで撃つのは事実上不可能だという。

さらに国連調査団によると、使われたサリンは地下鉄サリン事件(1995年)で使われたものより高品質で、反体制派などが簡単に作れるものではない。こうした国連の報告を受け、「反体制派が使った」(プーチン大統領)と断定的に語っていたロシアも「反体制派が使用した可能性も無視できない」(チュルキン国連大使)と主張が後退した。

かといってアサド政権の使用を裏付ける「動かぬ証拠」も見当たらないが、潘基文(バン・キムン)国連事務総長が言うようにシリアでの事件は「戦争犯罪」であり、イラン・イラク戦争中の88年、フセイン・イラク政権が自国のクルド人などを化学兵器で殺傷した例に匹敵する。容疑者不明で片付けてはなるまい。今後とも調査を続けて化学兵器を使った者を特定し、厳しく処罰する必要があるはずだ。

と同時に、アサド政権は化学兵器を速やかに廃棄する義務がある。1000トン以上の化学兵器を持つという同国が化学兵器禁止条約に参加するのは有意義だ。米露外相会談で合意された行程表に沿って来年前半までの完全廃棄を実現すべきだ。これを機に、同条約に署名はしたが批准していないイスラエル、署名もしていない北朝鮮の参加も期待したい。

だが、化学兵器の問題が片付いてもシリアの内戦が終わるわけではない。事態沈静化には米露の提携が不可欠だ。ロシアと中国はシリア関連の安保理決議案の採決で過去3回も拒否権を行使した。こうした対応がシリア情勢の悪化を許したことは否定できまい。週内にも予想される新決議案の採決では、国連が機能不全から脱却できるように、露中も米欧との協調を重視すべきである。

読売新聞 2013年09月16日

米露外相合意 シリアに時間稼ぎを許すな

軍事攻撃は当面回避され、内戦の政治解決に向けて一歩を踏み出した。だが、まだまだ不透明な点が少なくない。

ジュネーブで3日間にわたって開かれた米露外相会談は、シリアの化学兵器全廃を目指す枠組みで合意した。

アサド政権に、すべての化学兵器を1週間以内に申告させ、11月までに化学兵器禁止機関が査察を開始する。2014年前半までの完全廃棄を目標としている。

ただ、化学兵器の存在すら認めてこなかった政権が正直に申告し、廃棄する保証があるのか。国内各地で戦闘の続く内戦下で、果たして実効性のある査察ができるのか。次々と疑問が浮かぶ。

北朝鮮の核問題でも、北朝鮮はいったん核放棄を約束しながら、核計画の申告を遅らせ、査察を受け入れなかった。アサド政権が、合意の履行を意図的に遅らせて、政権延命への時間稼ぎをするような事態を許してはなるまい。

今回の合意は、オバマ米大統領が、化学兵器使用への懲罰的軍事攻撃を表明したために、アサド政権の後見役のロシアが外交調停に乗り出し、実現したものだ。

合意を受け、米国は軍事攻撃を当面先送りした。アサド政権が化学兵器を使用したかどうかは、棚上げされたままである。

合意文書には、化学兵器の使用や無許可の移送など、アサド政権が合意不履行の場合は、国連安全保障理事会が、武力制裁に道を開く国連憲章第7章に基づく措置を取るべきだと明記されている。

政権に合意を履行させるには、なお軍事行動を含む強力な圧力が必要ということだろう。

オバマ大統領も、合意後の声明で、「外交が失敗すれば、米国は行動する用意がある」と述べ、米国として軍事攻撃の選択肢を維持する方針を強調した。

安保理では、合意を受けた決議案を作成する。早期に採択し、国際社会全体でアサド政権に履行を促す努力が欠かせない。

内戦では既に、10万人が犠牲となり、200万人が難民となった。一刻も早く戦闘を終わらせる方策を見つけなければならない。

米露外相は近くニューヨークで再会談し、アサド政権と反体制派双方が参加する国際会議の開催に向け協議する。反体制側は、イスラム主義勢力や世俗派など様々な勢力が入り乱れている。外交交渉の前途は多難である。

日本も手をこまねいてはいられない。難民対策など人道支援を一層充実させる必要があろう。

産経新聞 2013年09月17日

化学兵器合意 ロシアは履行に責任持て

米露がシリアの化学兵器全廃を目指す枠組みで合意した。シリアに完全履行させるには、非協力や妨害を許さない国際圧力が不可欠である。

とりわけ重要なのは、ロシアのプーチン大統領がアサド政権の後ろ盾として、そして今回の合意のそもそもの発案者として、その実現に責任ある行動を取ることだ。

合意を裏打ちする強力な国連安保理決議の採択を主導するなど、合意がシリアをかばう弥縫(びほう)策でなかったことを見せてほしい。

もしも、合意通りに1000トン以上とみられる化学兵器を10カ月足らずで廃棄できれば、軍備管理史上、画期的な成果となる。

実際、1997年発効の化学兵器禁止条約は保有国に原則10年以内の廃棄を求めているのに、大量に持っていた米露両加盟国はなお作業を終えていない。

だが、シリアでは悠長であってはならない。全廃機運があるうちに決するスピードが勝負だ。

近く調査のため専門家が現地に派遣される。シリアによる早々の条約加盟も前向きな一歩だ。

ただし、化学兵器が隠匿されたり査察が妨げられたりすることも想定しておくべきだ。内戦下の査察や廃棄は危険を伴う。護衛の外国部隊が必要となった場合には、政権側の抵抗もあり得る。

アサド政権に有無を言わせないためにも、強い安保理決議が必要だ。速やかに全会一致かそれに近い形で採択し、国際社会の総意として突きつけるべきだ。

米露は決議に、平和を脅かす行為への措置を定めた「国連憲章7章に基づく」との文言を含めることで合意した。ロシアは「軍事行動に関するものではない」と言うが、含みを持たせたものだとの認識を米国と共有すべきだ。

オバマ米大統領は「外交努力が失敗すれば、行動の用意がある」との声明を出した。当然である。米国は、合意不履行などに備え武力行使の構えを崩してはならないと重ねて強調しておきたい。

米露両外相は、シリアに関する国際会議の準備のため、今月末に再び会談することを決めた。

化学兵器廃棄が実現したとしても、惨劇は終わらない。近隣諸国も巻き込んだ宗派戦争の様相を強めるシリア内戦は、交渉で停戦させるほかない。廃棄への取り組みが、和平達成への糸口となるよう米露は努力してもらいたい。

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