集団的自衛権 公明も必要性説く存在に

朝日新聞 2013年09月17日

集団的自衛権の行使 憲法の根幹にかかわる

日本の安全保障政策が岐路を迎えている。

安倍政権が、集団的自衛権をめぐる憲法解釈の見直しに向けた議論を本格化させる。

憲法9条のもと、自衛のための必要最小限の防衛力しか許されない。日本が直接攻撃されていないのに他国を守るのはこの一線を越えており、憲法に違反する――。

歴代政権が一貫して示してきたこの解釈を変え、米軍などへの攻撃に対しても、自衛隊が反撃できるようにする。これが安倍首相の狙いである。

戦後日本の基本方針の大転換であり、平和主義からの逸脱と言わざるをえない。

憲法改正の厳格な手続きを省いたまま、一内閣による解釈の変更だけで、国の根幹を変えてはならない。

首相の諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」がきょう議論を再開し、年内にも9条の解釈を改めるよう提言する。政権はそれを反映して新たな見解を出し、必要な法整備に着手する。

実現すれば、自衛隊は「普通の軍隊」に限りなく近づく。法律で縛りをかけるとはいえ、政治の意思で活動範囲が際限なく広がり、海外での武力行使にもつながりかねない。

平和主義は国民主権、基本的人権の尊重とともに、憲法の3大原則とされている。多くの日本人は、これを戦後日本の価値観として受け入れてきた。

自衛隊は今日まで海外で一人の戦死者も出さず、他国民を殺すこともなかった。9条による制約があったからだ。

それを変えれば、9条は歯止めとしての意味を失う。

日米同盟の強化を進めた小泉元首相もここには踏み込まなかった。内閣法制局と調整し、(1)安易な解釈変更は憲法への信頼を失わせる(2)現状以上の解釈拡大は認められず、その場合は憲法改正を議論すべきだ――との立場を示していた。

安倍政権は当初、憲法改正手続きを定めた96条改正をめざした。それが頓挫するや、今度は内閣法制局長官を交代させ、一部の有識者が議論を主導し、一片の政府見解で解釈改憲に踏み切ろうとしている。

その根幹を政権が独断で変えることができるなら、規範としての憲法の信頼性は地におちる。権力に縛りをかける立憲主義の否定につながる。

首相は何をしたいのか。しばしば引き合いに出すのが二つのケースだ。

▽公海で一緒に活動していた米軍の艦船が攻撃された時に自衛隊が反撃する

▽米国に向かうかもしれない弾道ミサイルが飛んできた時に自衛隊が撃ち落とす

たしかに、中国の軍事力増強や、北朝鮮による核・ミサイル開発は日本に緊張を与え続けている。一方、かつての圧倒的パワーを失った米国内に、日本の役割増強を求める声があることも事実だろう。

だが、一緒に活動中の米艦の防護は、自国を守る個別的自衛権の範囲で対応できるとの見方がある。ミサイル防衛の例にいたっては、いまの技術力では現実離れした想定だ。

いずれも、憲法解釈を見直してでも対応するほどの緊急性があるとは思えない。

9条には戦争と植民地支配の反省を込めた国際的な宣言の意味もある。安倍政権の歴史認識が問われるなか、性急に解釈変更を進めれば、近隣国との一層の関係悪化を招きかねない。

そんなことは米国も望んでいまい。米国が何より重視するのは、中国を含む東アジアの安定だ。日本が中国との緊張をいたずらにあおるようなことをすれば、逆に日米同盟に亀裂を生む恐れすらある。

安倍政権がまず取り組むべきは、中国や韓国との冷え込んだ関係を打開することである。

そのために粘り強い外交努力を重ねる。同時に、現在の日米同盟の枠組みのもとで、連携強化を着実に進める。この両輪がかみあってこそ、地域の安定が図られる。

軍事力は必要だが、それだけでは現代の諸問題の解決にはならない。いま世界で広がる認識は、そういうことだろう。

シリアへの軍事介入は、当面回避された。英国では、議会の反発で軍事介入の断念に追い込まれ、米国民の間にも、アフガニスタンやイラク戦争の教訓が染みこんでいる。

安倍政権が軍事的な縛りを解こうとするのは方向が逆だ。

国内外で理解が得られない安全保障政策はもろい。

いま政権が解釈改憲に踏み切れば、全国で違憲訴訟が相次ぐ可能性がある。将来、政権交代があれば、再び解釈が変えられるかもしれない。

日本の安全保障を、そんな不安定な状態に置くことは避けなければならない。

毎日新聞 2013年09月18日

集団的自衛権 何のために論じるのか

安倍政権は、集団的自衛権の行使を可能にするための憲法解釈の変更に向け、有識者会議「安保法制懇」の議論を7カ月ぶりに再開した。

安倍晋三首相は会合で「憲法制定以来の変化を直視し、新しい時代にふさわしい憲法解釈のあり方を検討していく」とあいさつした。しかし、これまでの推移からは、肝心な何のための行使容認か、行使容認がアジア太平洋地域の安全保障にどう寄与するのかが見えない。

歴代政権は、日本は国際法上、集団的自衛権を有しているが、憲法9条のもとで許容される必要最小限度の自衛権の範囲を超えるため行使できない、と解釈してきた。

有識者会議の座長代理・北岡伸一国際大学長は、憲法9条のもとで許される必要最小限度の自衛権行使の中に、集団的自衛権も含まれるというのが持論で、歴代政権の「誤った解釈を正す」と公言している。内閣法制局の長官経験者たちからは、必要ならば真正面から憲法改正を論じるべきだと反発があがっている。

行使容認の目的、憲法の解釈変更か改正かの手法、地理的条件や対象国を含む容認の範囲、歯止めなど、政府内の見解はまだまとまっていないようだ。

議論が整理されない原因の一つは、何のために行使容認を目指すのかが、具体的政策論として明確に示されていない点にある。

第1次安倍政権時に今回とほぼ同じメンバーが議論してまとめた報告書は、(1)公海上で自衛隊艦船の近くにいる米艦が攻撃された場合の防護(2)米国に向かうかもしれない弾道ミサイルの迎撃−−などについて、集団的自衛権の行使を認めるよう求めた。今回は、類型を拡大して行使を容認する方向で議論されている。

しかし(1)は、日本有事ならば自衛隊は個別的自衛権の範囲で対応できるし、そうでなくても米軍が自身で守る態勢をとっていない可能性はほぼない、との意見も根強い。(2)は技術的に不可能との指摘もある。それ以外に想定しているというのなら、どんなケースなのか。現実味の乏しいシナリオをもとに、日米同盟強化の姿勢を示すために議論をしているのではないか。そんな疑問が一部専門家の間からも指摘されている。

首相にはおそらく、北朝鮮の核開発や中国の海洋進出の一方、米国の力が相対的に低下するなか、日本は自らの役割を増強する必要がある、という問題意識があるのだろう。しかし、こんな状態では中国、韓国はおろか、国民に理解してもらうのも難しいのではないか。首相はまず行使容認の目的は何か、どんな効果があるのかを、きちんと国民に説明する責任がある。

産経新聞 2013年09月19日

集団的自衛権 国守る憲法解釈を第一に

安倍晋三首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」が論議を再開した。

憲法解釈を見直して集団的自衛権の行使を包括的に容認する提言のまとめを急ぎ、首相は政府の憲法解釈変更と法整備に乗り出すべきだ。

安倍首相は17日の安保法制懇で「憲法解釈は国民の生存や国家の存立を犠牲にするような帰結となってはならない」と述べた。憲法改正には一定の時間がかかる。国と国民を守るためには解釈変更を急がなければならない。首相は、国民や与党内の理解を深めるためにも、指導力を発揮してもらいたい。

安保法制懇が今回とほぼ同じメンバーでまとめた平成20年6月の報告書は、(1)公海上で攻撃された米艦船の防護(2)米国に向かう可能性のある弾道ミサイルの迎撃-などの4類型について、集団的自衛権の行使容認などの憲法解釈変更で可能にするよう提言した。

しかし、限定された事例に備えるだけでは平和は保てなくなっている。中国の軍拡や海洋進出、北朝鮮の核・弾道ミサイル開発など安全保障環境の悪化を考えれば、日米同盟や友好国との安全保障関係の強化が必要だ。

そのためには20年に示した類型にとどまらず、集団的自衛権行使の状況を限定せず、包括的に容認することが欠かせない。

今回の安保法制懇でも新たな検討が行われている。エネルギーの安定供給を考えれば、シーレーン(海上交通路)のパトロールや機雷除去での米国や友好国との共同行動が課題となる。サイバー攻撃に他国と共同対処する必要性も出てくる。安全保障上の問題は複雑多岐であり、「想定外」の出来事に機動的に対応する余地を残しておかなければならない。

行使容認が日米同盟を堅固にする意義も大きい。米国の艦船や航空機、部隊が攻撃され、自衛隊が応戦、防護できる立場にいながら見過ごしたとしたら、米国民がどう考えるかを想像してほしい。

安全保障の基軸である日米同盟は、破綻するだろう。

行使を憲法上、包括的に容認すれば「戦争につながる」との反対論もある。だが、日本がどう動くかは国民の負託を受けた国会と内閣が対応することだ。そのために、どのような歯止め策を設けるかも論じればよい。

産経新聞 2013年09月13日

集団的自衛権 公明も必要性説く存在に

公明党の山口那津男代表が訪問先の米国で、集団的自衛権の行使容認の問題をめぐり、近く自民党との協議に入る考えを明らかにした。

安全保障の基軸である日米同盟を強化し、中国や北朝鮮に対する抑止力を高めるためにも、集団的自衛権の行使容認は喫緊の課題である。

与党協議を進めるのは当然だ。公明党が早期に従来の行使を容認しない姿勢を転換し、受け入れることを期待したい。

ただし山口氏は「慌てずに議論することが大事だ」と、あくまで慎重に話し合っていく考えだ。それでも、参院選の期間中、行使容認に「断固反対」と述べていたことを考えれば一歩前進だろう。

安倍晋三首相は12日、自衛隊高級幹部会同での訓示で、行使容認の是非をめぐり「21世紀の国際情勢にふさわしいわが国の立ち位置を追求していく」と語った。歴代の内閣法制局長官はほとんど行使容認に慎重だったが、前向きな小松一郎長官を起用した首相の決意は固い。

公明党は、行使容認に踏み切る重要性を理解してほしい。行使を認めない従来の憲法解釈のままでは、国の守りが危うくなりかねない厳しい安全保障環境を自覚する必要がある。

山口氏はワシントン市内での講演で「これまでの政府の議論は精緻で体系的で強固だった」と、行使を認めない従来の解釈を評価した。しかし、集団的自衛権の行使を安全保障上の選択肢として持つことが当然である国際社会の現実から遊離した憲法解釈など、どこが精緻で体系的なのだろうか。

尖閣諸島の奪取を狙う中国の度重なる挑発や軍拡、北朝鮮の核・弾道ミサイル開発をみれば、躊躇(ちゅうちょ)している暇はない。米国防総省高官は山口氏に、日本の行使容認を歓迎する意を示した。

中国など近隣諸国の理解を得る必要性も山口氏は指摘したが、筋が違う。安全保障政策の基本について、なぜ日本に挑発を繰り返す国の理解が必要なのか。これを理由に実質的に反対し、結論の先延ばしを図ることは許されない。

国民の十分な支持を得ることは欠かせない。公明党は、安倍政権が推進する安全保障改革のブレーキ役になるのでなく、平和の党を実践するためにも、集団的自衛権の行使容認の必要性を国民に説く存在に生まれ変わるべきだ。

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