原発事故不起訴 責任免れたわけでない

毎日新聞 2013年09月13日

原発事故不起訴 責任免れたわけでない

東京電力福島第1原発事故をめぐり、業務上過失致死傷容疑などで告訴・告発されていた政府関係者や東電幹部ら42人について、東京地検が不起訴処分とした。

菅直人元首相、勝俣恒久東電前会長、班目春樹元原子力安全委員長らが含まれる。

告訴・告発人らは処分を不服として、検察審査会に審査を申し立てる方針だ。強制起訴すべきか否か、市民が改めて判断する。刑事責任を免れると決まったわけではない。

また、現在進行形の事故について継続した新たな検証作業が必要だ。その意味で、告訴・告発された当事者は、刑事責任とは別に今後も事故と向き合っていく責任がある。真相の解明や再発防止のため、積極的に作業に協力していくべきだ。多大な被害に遭った福島県民をはじめとする国民への説明責任も残る。そう肝に銘じてもらいたい。

業務上過失致死傷容疑で刑事責任を問う場合、▽事故の予見可能性はあったのか▽予見できたとすれば避ける手立てを尽くしたのか−−などが起訴できるか否かのポイントだ。

地検は、電源を全て失い、原子炉を冷却できなくなるような規模の津波を具体的に予測するのは困難だったと結論づけた。

事故をめぐり、国会の事故調査委員会は昨年7月、根源的な原因は「『自然災害』ではなく明らかに『人災』である」と断定した報告書を公表した。地震や津波対策を立てる機会が過去に何度もあったのに、政府の規制当局と東電が先送りしてきたことを強く批判もした。

こうした観点から見れば、全員を不起訴とした結論が妥当なのか疑問が出ても不思議ではない。また、全電源喪失は津波以外の原因でも起こり得るが、地検の捜査はもっぱら津波対策に焦点が当てられたようだ。

大規模システムに絡む事故では、さまざまな判断に多数の人がかかわる。それだけに特定の人の刑事責任を問うには高いハードルがある。個人ではなく企業や法人・団体を罰することを含め、刑事責任のあり方についての議論も必要だ。

検察審査会に申し立てられた場合、検察審査員は、検察官に対し必要な資料の提出や会議での意見陳述を求めることができる。市民の目線で審査を尽くしてほしい。

一方、捜査と別に行うべき検証について、国会事故調は、国会に第三者機関を設置し検証作業を続けるよう提言した。未解明部分の事故原因の究明、事故の収束に向けたプロセス、被害の拡大防止などのテーマについて、民間中心の専門家で調査を進めるべきだとしている。政府・国会はしっかり対応するのが筋だ。

読売新聞 2013年09月15日

原発事故不起訴 東電と政府の責任は免れない

未曽有の大災害に伴う事故で刑事責任を問うことの難しさを示す結果になったと言えよう。

東京電力福島第一原子力発電所の事故を巡り、業務上過失致死傷容疑などで告訴・告発された当時の東電経営陣や政府関係者ら計42人全員を、検察が不起訴とした。

東日本大震災による巨大津波は予測不可能で、東電首脳らが事前に対策をとらなかったことは過失とは言えない、という理由だ。

菅元首相が事故直後に現地を視察したことも、原子炉内の圧力を下げるベント作業には影響を与えなかった、と判断した。

過失を裏付ける明確な証拠が集まらなかった点を考えれば、不起訴の結論はやむを得まい。

原発事故では、原子炉の電源喪失で冷却装置が機能不全となったため、炉心損傷と水素爆発が起きた。放射性物質が拡散し、多くの周辺住民が被曝した。

検察は、この電源喪失が津波によって引き起こされたと認定した上で、地震学者への聴取結果から、今回のような規模の津波の発生は、専門家の間でも想定されていなかったと結論づけた。

業務上過失致死傷罪として立件するには、漠然とした危機感ではなく、具体的に津波が襲来する危険を認識しながら、必要な対策を怠っていた証拠が求められる。

想定外の天災という要素が、捜査を進める上で、高いハードルになったのは間違いない。

過失犯の捜査では、個人の処罰が焦点になる。混乱を極めた事故後の状況下では、特定の個人に刑事責任を負わせるのは難しいという側面もあったのだろう。

米国には、悪質な企業に巨額の賠償金を支払わせて制裁を加え、再発抑止を図る懲罰的損害賠償の制度がある。日本には、民事訴訟でもこうした仕組みはない。

だが、法的責任は認められなくとも、原発事故が社会・経済に与えた深刻な打撃を考慮すれば、東電や政府の責任は重大である。

政府の事故調査委員会は、東電が安全神話にとらわれ、経済産業省の旧原子力安全・保安院など規制当局も対策を電力会社に任せ、リスクの検討を後回しにしていたと指摘した。国会事故調は「事故は人災」とまで断じている。

政府も東電も、事故の教訓を踏まえ、想定外の事態にも対処し得る安全管理態勢の構築を急ぐ必要がある。福島第一原発は今も汚染水漏れ問題を抱えている。その対策や、廃炉
に向けた作業を、着実に進めなければならない。

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