リーマン5年 危機克服にG20連携保て

朝日新聞 2013年09月16日

危機から5年 マネー頼みの矛盾なお

「100年に一度」の大不況を引き起こした米大手証券リーマン・ブラザーズの破綻(はたん)から15日で5年がたった。

震源地の米国経済は徐々に回復してきたが、一方で新興国の経済は変調をきたしている。

なによりマネー資本主義の矛盾があらわになり、低成長と雇用喪失が世界中に格差と貧困を拡散させた。この難題を克服する手立てはあるのか。世界は、なお手探りのままだ。

振り返れば、リーマン危機にとどめを刺される形で住宅バブルがはじけた米国と、対米投資の多い欧州で金融危機と経済収縮の連鎖が起きた。さらに、欧州では銀行救済にギリシャの財政粉飾が重なり、財政と金融の複合危機に発展する。

ここを支えたのが新興国の内需拡大、とくに4兆元(約60兆円)の景気対策を打った中国だった。

ところが、それが不動産バブルや過剰な投資を加速させ、中国内の金融システムを揺さぶる懸念が生じている。米中間でバブルがリレーされていたと見ることもできる。

中国の金融安定には銀行への資本注入なども必要になろう。バブルの調整が急激で深刻になれば世界が動揺する。国際社会との協力が求められる。

先進国が頼った金融緩和の後始末も難しい。米国の量的緩和で新興国へあふれ出たマネーは逆流しつつある。米連邦準備制度理事会(FRB)は、緩和縮小でバブル防止に筋道をつけたいようだが、世界全体への目配りも欠かせない。

世界経済はいびつさの度合いを深めている。とりわけ企業収益や株価の回復と、雇用の低迷とのギャップが際だつ。

グローバル競争の激化が、人件費を減らして収益をあげる流れを加速させている。ことに先進国では、産業界が雇用を創出し、生活水準を底上げする機能は衰えるばかりだ。

格差や貧困を是正するのは、所得の再分配を担う政府の仕事だが、どの国も財政に余裕はない。これで本当の経済再生は可能なのか。

前向きな動きとして注目されるのは、ユーロ加盟の有志国が導入を決めた金融取引税だ。危機の処理コストを金融界に負担させ、同時に過剰な投機も抑える狙いがある。

グローバル企業の国境をまたいだ税逃れ対策で、各国が結束する機運も生まれている。

マネーの流れに網をかけ、地に足のついた経済構造をつくるために、世界は足並みをそろえなければならない。

毎日新聞 2013年09月15日

リーマン5年 教訓はどこへ行った

世界を震撼(しんかん)させた米大手証券、リーマン・ブラザーズの破綻から丸5年となる。破綻に端を発した危機は、震源の米国だけでなく日本など多数の国を巻き込み、近年経験のない経済の急降下をもたらした。

二度と同じ過ちを犯してはならない。そう誓い、さまざまな手を打つはずだったが、5年が経過した今、世界の金融はどうだろう。

いざという時の備えとなる自己資本は大手銀行でより手厚くなった。不良債権の処理も進んだ。だが残念ながら、教訓が生かされたとはとても言い難い現状だ。

リーマンの破綻後、米国は、大手金融機関が過大なリスクを抱えることのないよう、大胆な規制改革に踏み出した。ところが、法律の策定過程で、改革はトーンダウンしていく。2010年7月、ようやく2300ページに及ぶ金融規制改革法ができた。しかし、銀行が自己資金でリスクの高い金融取引を行うことを原則禁じた中核部分を含め、法律の半分以上がいまだに施行されていない。

金融界の猛反発や、規制対象の線引きが複雑なことなどが背景にあるというが、あれほどの危機を引き起こしたのである。この変化の遅さ、小ささは到底、納得がいかない。

中央銀行が行う金融政策についても教訓が生かされたとは言い難い。それどころか新たな危機の芽が世界の各所で育ちつつあるようだ。

極端な金融緩和が長く続くと、あふれた資金がリスクを度外視した投機に向かう。リーマン破綻に至る過程では、そうした投機資金が米国や英国で住宅バブルを生んだ。

銀行の業務を規制したり、監視を強化したりしても、市場に流入するマネーの過剰を放置すれば、規制や監視の目をくぐり抜けた資金がゆがみを醸成し、経済を不安定にする。

ところが米国や日本など先進国では、再び大規模な金融緩和が長期化の様相を見せている。

今回ゆがみはまず、インドやブラジルなど新興国で見られた。緩和マネーの一部が新興国の通貨や資産価格を乱高下させ経済を不安定化させたのだ。マネーは今度は米国に逆流を始め、住宅など資産バブルの再来を警告する声がすでに聞かれる。

リスクの懸念が指摘されながら、危機につながることはないと過信し、問題を放置する。この失敗もリーマン・ショック後に反省したはずだった。だが、ユーロ圏をみても、日本でも、膨らんだ国の借金への抜本策は遅々として進まない。

金融の安定があってこその経済成長であることを忘れてはならない。日本も含め各国の政治指導者は、あの衝撃と痛みを今一度、思い起こす必要がある。

産経新聞 2013年09月15日

リーマン5年 危機克服にG20連携保て

世界経済を揺さぶった米大手証券、リーマン・ブラザーズの経営破綻から、5年がたった。

経済グローバル化の下で日本を含む主要国に燎原(りょうげん)の火のごとく広がった危機に対し、火元の米国をはじめ各国は、思い切った金融緩和と財政出動など政策を総動員した。1929年の世界恐慌の再来を食い止められたことは、危機対処の成功例といえる。

しかし、そうした政策の後遺症には各国ともなお苦しんでいる。新たな危機につながる火種は消えておらず、油断は禁物だ。

危機の再燃を未然に防ぐため、各国は政策連携の実効性を高めることが求められている。

米金融危機を発端としたリーマン・ショックは、「市場が蒸発した」と評されるほど世界経済を直撃した。米大手金融機関の相次ぐ破綻や救済合併に続き、自動車最大手のゼネラル・モーターズ(GM)の倒産などに発展した。まさしく危機の連鎖だった。

リーマン危機は各国社会にも暗い影を落とした。日本では「派遣切り」が横行し、派遣労働規制が強化された。米ウォール街で始まった反格差社会デモが世界各地に拡大するなど、社会の断裂と「二極化」の現象をもたらした。

窮地を救ったのが、先進各国による金融緩和と財政出動による景気浮揚策である。米連邦準備制度理事会(FRB)は、空前の規模の量的緩和に踏み切った。日本や欧州も金融緩和で協調し、市場にドル資金を供給し続けた。

その余剰資金がインドなどの新興国に流入し、不動産バブルを引き起こした。今、景気回復を理由にしたFRBの量的緩和縮小モードが、新興国からの資金引き揚げと通貨安を招いている。景気減速が顕著な中国を含め、新興国経済への目配りは欠かせない。

大規模な支出を余儀なくされた各国財政の立て直しも喫緊の課題だ。リーマン危機を機に生まれた20カ国・地域(G20)首脳会合はこの6日、成長強化と財政健全化の両立が世界経済に必要だとする宣言を採択した。安定的な経済成長のためにも財政赤字拡大を防止する取り組みが問われている。

世界金融危機を防ぐ体制作り、特にG20の再活性化は急務だ。その意味で、今回のG20首脳会合で中露など新興5カ国が通貨安定基金創設で合意したのは前進だ。地道な積み重ねを続けたい。

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