イプシロン成功 日本の宇宙開発に新時代を

毎日新聞 2013年09月15日

イプシロン成功 宇宙近づける「革新」だ

惑星観測衛星を載せた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の新型固体燃料ロケット「イプシロン」1号機の打ち上げが成功した。低コスト化を図り、準備期間も短縮した世界初の人工知能搭載ロケットだ。2度の打ち上げ延期という生みの苦しみもあったが、これからも成功を積み重ね、安くて手軽な宇宙利用への道を開拓する日本の小型基幹ロケットとして活躍することを期待したい。

イプシロンは全長約24メートル、重さ91トンの3段式。7年前に運用を終えたM5ロケットの後継機だが、従来にない革新的な機能を備えている。

その一つが自律点検だ。打ち上げ前の点検はこれまで、機器ごとに別々の点検装置を使い、100人規模の作業員が携わった。イプシロンでは、機体に内蔵された人工知能が自ら情報を集め、機器が正常かどうかを判断する。1カ月半かかった打ち上げ準備は約1週間に短縮された。

もう一つがモバイル管制だ。打ち上げ時は数人のスタッフが2台のパソコンでデータを監視すればよく、管制室も不要になる。世界初のこうしたシステムの確立は、宇宙をより身近な存在に近づけることだろう。

一方、H2Aロケットの補助ロケットを1段目に転用し、2・3段目にはM5のエンジンを改良して使うなど既存技術も活用。打ち上げ費用をM5の半分の約38億円に抑えた。

固体燃料ロケットは、H2Aのような液体燃料ロケットに比べ構造が簡単で扱いやすい。日本は、故糸川英夫博士によるペンシルロケット以来、独自に技術を蓄積してきた。

大型衛星は主力ロケットのH2AやH2Bで、小型衛星はイプシロンで打ち上げる効率的な分業体制を早く築いてほしい。複数の打ち上げ手段を自前で持つ意義は大きい。

イプシロンは、海外からの打ち上げ受注を目指している。地球観測用などとして小型衛星は一定の需要が見込まれるが、世界には競争相手がひしめく。受注には、信頼性の向上と一層のコスト削減が欠かせない。衛星の開発や運用も請け負うなど、宇宙利用をパッケージ化して売り込む体制の強化も必要になる。

先月27日の打ち上げ中止はコンピューターの設定ミスが原因で、ごく初歩的な見落としがあった。新たな挑戦にトラブルは付きものだ。今後も問題が生じるかもしれないが、打ち上げを重ねる中で、乗り越えていかなければならない。

政府は来年度から、H2Aの後継となる大型ロケットの開発に着手する。打ち上げ費用を現在の半分の50億円程度に引き下げる計画だ。イプシロンで導入した技術やシステムも取り入れて、日本の宇宙開発のステップアップにつなげてほしい。

読売新聞 2013年09月15日

イプシロン成功 日本の宇宙開発に新時代を

日本の宇宙開発が、大きく飛躍するきっかけになるかもしれない。

宇宙航空研究開発機構が、鹿児島県から新型固体燃料ロケット「イプシロン」を打ち上げた。搭載していた惑星観測衛星は、予定の軌道に無事、投入された。

先月末の最初の打ち上げは、発射直前に点検用コンピューターのトラブルで中止された。今回の成功を、ひとまずは喜びたい。

イプシロンは、2001年のH2A以来12年ぶりに打ち上げられた日本の新型ロケットだ。「低コストで手軽な打ち上げ」を特徴とし、「宇宙への敷居を下げる」ことを開発の目標に掲げている。

官民挙げて世界の衛星打ち上げ受注を目指す日本の宇宙ビジネスの新たな旗手だ。今回の1号機の成功は重要な一歩と言えよう。

従来の日本のロケットは、政府による開発段階から、コストよりもむしろ、世界最先端の技術の実現が優先されてきた。

H2Aも、エンジンなど多くの点で、国際的に高く評価されている。その半面、1回の打ち上げ費用は100億円前後と割高だ。製造の開始から打ち上げまでに年単位の期間を要することから、商機を度々逃してきた。

近年、国際的に衛星の小型軽量化が進み、H2Aのような大型ロケットを必要とする衛星打ち上げの需要は縮小しつつある。

イプシロンは小型衛星の打ち上げ市場をにらむ。打ち上げ費用は38億円で、さらに改良を加えて、将来は30億円程度まで下げる。世界の同種ロケットに十分対抗できる価格帯になる、という。

無論、価格だけでなく、世界と競うだけの性能も欠かせない。

開発コストの削減と、技術の信頼性向上を目指して、イプシロンは新規開発を減らし、既存技術を活用した。例えば1段目エンジンは、H2A下部の脇につけている固体補助ロケットを使った。

同時に、世界初の技術にも挑んでいる。装置の異常を自動検知するコンピューターを組み込み、点検を一部自動化した。ロケットの管制もパソコン2台で済ます。これにより打ち上げ準備期間を短縮し、必要な作業員も減らした。

政府は、原子力発電所や新幹線などに続いて、人工衛星もインフラ輸出の対象としている。小型衛星を外国に売り込み、イプシロンに搭載して打ち上げるという。

その前提となるのは、イプシロンなら予定通り確実に打ち上げられる、との評価を確立
することである。連続成功を目指したい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1531/