顧客ばかりか、専門家である医師からの情報まで軽くみていたことは深刻だ。
カネボウ化粧品の美白化粧品を使った1万人近い顧客に、肌がまだらに白くなる症状が出た問題で、外部調査の報告書が発表された。
利用者の相談は2年前から寄せられていた。加えて昨秋以降、複数の医師から「化粧品が引き金になった可能性がある」と指摘されていた。なのに同社は今春まで動かなかった。
「白斑は体質に由来する病気だ」という思い込みと、事なかれ主義が被害を広げた。報告書のこの指摘は重い。
開発の段階で、自社のテストや厚生労働省の審査を通っている。日ごろ助言を受けている医師からも「化粧品で白斑はまず起きない」と聞いた。そんな過信が社内にあった。
支社から問い合わせを受けても、「診察を受けてもらえば化粧品が原因でないと理解してもらえる」と繰り返し、軌道修正できなかった。
開発時に白斑のテストもしていたのだから、リスクは認識していたはずだ。美白は業界の主戦場であり、カネボウの看板でもある。そこでつまずきたくない。そうした思いが目をくもらせはしなかったか。
カネボウは親会社の花王とも連携し、トラブル情報を共有する仕組みを見直す。それは当然だが、聞きたくない情報に耳をふさぐ姿勢を正すには、身内だけの共有では心もとない。
厚労省や学会、メーカーは来年1月をめどに、トラブル情報をウェブで集めて共有するシステムをつくる。再発をふせぐ良い手だてになるだろう。
厚労省の審査のありかたも検証してほしい。
美白成分が白斑を起こすメカニズムは未解明だが、発症は夏場が多く、強い日差しで成分が変化して毒性を持つ可能性が疑われている。審査の過程で懸念を口にした委員もいたが、深く検討されずに終わった。
カネボウの申請書は、類似物質による白斑の症例を指摘した論文にふれていた。審議会で原典にあたっていれば突っ込んだ検討ができたかもしれない。
薬用化粧品の安全性テストの方法はメーカーに委ねられている。今回、化粧水やクリームなど同じ成分を含む商品をいくつも使っていた人ほど発症率は高い。併用を想定した試験が不十分だった可能性がある。
テスト方法に指針は要らないか。実際の使われ方に即したやり方を工夫できないか。検討すべきことは多い。
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