朝日新聞 2009年12月19日
小沢氏秘書公判 公共工事の裏側に何が
西松建設から小沢一郎・民主党幹事長の周囲に流れた3500万円の献金は違法だったのかどうか。献金の背景に、公共工事受注への小沢事務所の強い影響力があったのか否か。
小沢氏の公設第1秘書、大久保隆規被告がきのう初公判の被告席についた。大久保秘書は、政治資金収支報告書に西松建設からの献金をダミー団体名で書いた罪に問われている。
献金した側の裁判では、すでに西松建設元社長の有罪が確定している。これに対し大久保秘書は無罪を主張し、検察との全面対決となった。
法廷で検察側は事件の構図を次のように描いた。小沢事務所は東北地方での公共工事受注に決定的な影響力を持っており、「天の声」を出してはゼネコン側に献金を要求した。西松建設もこれに応じてトンネル工事などを落札したが、大久保秘書は特定のゼネコンとの癒着が明らかにならないよう社名を隠して報告書に記載した。
被告側は全面的に反論した。小沢事務所に公共工事の受注を決める権限などなく、検察の主張は虚構だ。献金した二つの政治団体には実体がある。大久保秘書は西松建設からの献金とは認識しておらず、小沢氏の政治への応援と確信していた。
この事件を機に、小沢氏は民主党代表を辞任した。しかも総選挙が取りざたされた時期だったため、検察に対して「不公正な捜査ではないか」との批判が上がり、それに対する検察の説明も不十分だと指摘された。
検察は冒頭陳述で、小沢事務所とほかのゼネコンとの関係についても触れ、事件の悪質性について生々しく述べた。それは、こうした批判への具体的な回答でもあろう。
すでに逮捕・起訴から9カ月がたっている。裁判所にはできるだけ迅速な審理を望みたい。
西松建設元社長の判決によれば、小沢氏の側が特定の業者から長期間にわたって資金を受け取っていた事実は動かしがたい。
西松建設が小沢氏の側に10年間で約1億4千万円を渡していたこと、その動機が「談合により公共工事を受注するため」だったことが、この判決で認められている。
小沢氏はいまや鳩山内閣の与党幹事長として巨大な議員集団を率いて政権を支える実力者だ。政府の政策にも具体的な影響を与える立場にある。
この事件について、小沢氏は「やましいところはない」と主張し続けている。秘書の公判を受けて、改めて説明を聞きたい国民は多いだろう。
民主党は、3年後をめどに企業・団体献金の全面禁止を公約している。小沢氏が政治とカネの透明性を重んじるなら、率先してもっと早い立法化と実施に踏み切るべきではないか。
|
毎日新聞 2009年12月19日
小沢氏秘書初公判 「天の声」の徹底解明を
民主党の小沢一郎幹事長の事務所は、岩手県と秋田県の一部の公共工事で「天の声」を発する影響力があり、西松建設は、ダミーの政治団体を使って小沢氏側に長年献金を続け、工事も受注した--。
検察側が改めて描いた癒着の構図である。政治資金規正法違反に問われた小沢氏の公設第1秘書、大久保隆規被告の初公判の法廷だ。
一方の大久保被告は「西松からの寄付とは思っていなかった。政治資金規正法には違反しない」と、起訴内容を否認し無罪を主張した。全面的に争う姿勢である。
大久保被告は03~06年、小沢氏の資金管理団体「陸山会」などが西松から受けた計3500万円の企業献金を、二つのダミー団体からの寄付と偽って政治資金収支報告書に記載したとして起訴された。
大久保被告が、実体は西松からの献金であると認識していたかが、公判の最大の争点となる。
検察側は冒頭陳述で、大久保被告とともに献金受け入れに携わっていた小沢氏の私設秘書が、ダミー団体名義の寄付を西松のものと認識していたことを示すノートや書面が残っていると明かした。大久保被告の認識にかかわる重要な指摘だ。
また、小沢事務所が「天の声」を発していたのかは、事件の本質にかかわるポイントである。
西松の国沢幹雄元社長=有罪確定=の判決では、「天の声」の表現は使われず、公共工事受注の小沢氏側の強い影響力こそ認めたものの、献金が特定の公共工事受注の見返りであることは否定した。
検察側は冒頭陳述で、小沢事務所が特定のゼネコンに談合の本命業者との了承を与え、談合の仕切り役が小沢事務所に確認してから談合をとりまとめる「天の声」のシステムについて詳しく述べた。
大久保被告が担当者として、西松以外のゼネコンも含めて「天の声」を発していたことも詳述した。今後の公判での立証に注目したい。
小沢氏は「なんらやましい点はない」などと主張してきた。大久保被告の判決は来春とみられる。それまで何も言わないのだろうか。検察の指摘に対する説明を聞きたい。
西松からの献金については、二階俊博前経済産業相の政策秘書が、個人献金と偽装して政治資金収支報告書に記載したとして略式起訴された。また、鳩山由紀夫首相の資金管理団体をめぐる偽装献金事件で、近く元公設第1秘書が在宅起訴される見通しだ。
民主党は、マニフェストで企業団体献金の禁止を主張した。来年の通常国会で政治資金規正法の改正に取り組むよう改めて求めたい。
|
読売新聞 2009年12月19日
公設秘書初公判 小沢氏は検察の指摘に答えよ
公共工事の受注を期待するゼネコンから献金を集めながら、実態を隠すため政治資金収支報告書にうそを書いた――。
政治資金規正法違反に問われた小沢民主党幹事長の公設第1秘書の初公判で、検察側が指摘したのは小沢事務所と業者との癒着の構図だ。事実なら国民の目を欺く行為である。
秘書は公判で、起訴事実とともに、受注に影響を与える「天の声」を自ら出していたとする検察側の主張を全面否定した。
否認しているとはいえ、公設第1秘書が刑事被告人として裁かれている。小沢氏は政権与党の幹事長という重責を担う政治家だ。公判での指摘について、自ら明確に説明しなければなるまい。
小沢氏の資金管理団体などには西松建設のOBを代表にした二つの政治団体から4年間で計3500万円が献金されていた。
この政治団体に実体がなく、献金の主体は西松建設であり、公設秘書もそれを認識していた、というのが検察側の主張である。
それを裏づける事実として、検察側は冒頭陳述などで、西松建設をはじめゼネコンと公設秘書とのやり取りなどを挙げた。
公設秘書は、前任者から「天の声」を出す役割を引き継ぎ、多額の献金などを要求していた。
岩手県が発注予定のダム工事では、西松建設から陳情を受けた際に、工事名をメモしながら、「よしわかった、西松にしてやる」と了解を与えていた。
また、西松建設が選挙への協力を渋った際には、同社が受注した別のダム名を挙げ、「小沢ダムだということを忘れるな」と脅しまがいの言葉を口にしたという。
冒頭陳述では、西松建設側から小沢氏側への献金は、虚偽記入分も含めて10年間で1億3800万円に上り、下請け企業からの献金も年間1000万円程度あった、とされている。
このほか、小沢氏の資金管理団体には、不動産購入に絡む別の疑惑も浮上している。
小沢氏はこうした点について、どう答えるのだろうか。
民主党では、鳩山首相の資金管理団体でも収支報告書の虚偽記入の疑いがあり、元公設第1秘書が近く在宅起訴される見通しだ。
民主党は、企業・団体献金の全面禁止を検討している。小沢氏が秘書逮捕後の記者会見で突然表明したものだ。だが、自らに向けられた疑惑を払拭できないのであれば、単なる「目くらまし」と受け止められても仕方あるまい。
|
産経新聞 2009年12月19日
小沢氏秘書初公判 悪質さをさらに解明せよ
小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体「陸山会」の政治資金規正法違反事件の初公判で、検察側は小沢氏の事務所が準大手ゼネコン「西松建設」などの公共工事の受注調整に「天の声」を与え、選挙支援や多額の献金を要求してきたと指摘した。
冒頭陳述では、同法違反(虚偽記載など)罪に問われた小沢氏の公設第1秘書、大久保隆規被告について、要求を拒んだ業者に「もう奥座敷には入れない」と工事から外すことを言い渡すなど高圧的な言動が紹介された。さらに同被告が工事受注を取り仕切る状況を浮かび上がらせ、公共工事と結び付いた形で偽装献金が渡っていた悪質さを強調した。
3月の同被告の起訴の際に、東京地検特捜部長らが異例の会見を行い、「重大性、悪質性を考えると放置できない」と強調したことが裏付けられた。
この事件を通じて、検察側は小沢氏が強い影響力を持つ東北地方の公共工事談合をめぐる「犯罪の構図」にメスを入れようとしている。小沢氏が毎年、下請け企業などとの懇親会に出席していたことなども指摘した。大久保被告とどのように意思疎通が図られていたか、徹底解明すべきだ。
小沢氏側の談合調整やゼネコンからの集金方法が巧妙であるとすれば、なおさら検察側にはその悪質性を突き崩す捜査の積み重ねが必要だ。中堅ゼネコン「水谷建設」側から小沢氏側への裏金問題も浮上しており、さらなる捜査が求められよう。
一方、大久保被告は西松建設からのダミーの政治団体を通じた献金について「違反するとは全く思っていなかった」と起訴内容を否認し、無罪を主張した。
西松建設がらみでは、自民党の二階俊博前経産相の政策秘書が同様の偽装献金を規正法違反に問われたが略式起訴にとどまった。強制捜査で始まった大久保被告の事件と比べてバランスを失しているとの見方もある。
西松事件の解明が全体として中途半端な印象を与えている。それをぬぐい去るため、疑惑の全体像が公判で明らかにされなければならない。
小沢氏はこの事件で党代表を辞任したが、幹事長として政権与党の最高実力者の地位にある。政治とカネをめぐる政治不信を自ら増幅させ、説明を果たさない姿勢が引き続き厳しく問われている。
|
この記事へのコメントはありません。