国家安保戦略 日本の将来へ包括的指針示せ

読売新聞 2013年09月13日

国家安保戦略 日本の将来へ包括的指針示せ

中長期的な外交・安全保障上の国益と目標を明示し、その実現に向けた包括的な政策指針を掲げることが肝要である。

安倍首相が「国家安全保障戦略」の策定を関係閣僚に指示した。その中身を議論する有識者会議の初会合が開かれた。

秋の臨時国会で国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案を成立させ、NSCが今年末に国家安保戦略を発表する。年末に作成する新防衛大綱も、この戦略を具体化する内容にする予定だ。

政府は1976年に防衛大綱を策定し、3回改定している。だが、大綱は防衛力整備が目的だ。外交、経済を含む総合的な国家安保戦略の策定は初めてで、安保の司令塔となるNSCの創設と合わせて、画期的な意義を持つ。

米国は87年以来、国家安保戦略を策定している。ブッシュ前政権はテロ国家への先制攻撃論、オバマ政権は国際協調を掲げた。英露韓豪各国も同様の戦略を持つ。

日本も、近年の安全保障環境の悪化を踏まえれば、もっと早く戦略を立てるべきだった。

中国は、海洋強国を目指し、軍備を増強して、東シナ海などで示威活動を展開する。北朝鮮の核・ミサイル開発に加え、テロ、サイバー攻撃の脅威も増している。

日本とアジアの平和と繁栄を確保するには、何を目標に掲げ、どんなアプローチを取るべきか。官房長官、外相、防衛相ら関係閣僚や、有識者はしっかりと議論し、戦略をまとめてもらいたい。

その作業を通じて、関係府省が外交・安保の優先課題や問題意識を共有し、その後の政策に適切に反映することが重要である。

山積する安全保障の課題に取り組むには、まず日本の領土・領海を守る自衛隊や海上保安庁の体制を拡充する必要がある。自衛隊と米軍の協力を拡大し、日米同盟を強化することも欠かせない。

首相の掲げる「積極的平和主義」に基づき、国連平和維持活動(PKO)や海賊対処行動などで日本が従来以上に役割を果たし、国際社会と連携することが大切だ。経済・エネルギー面の国際協力も着実に進めねばなるまい。

安保戦略には、こうした具体策を体系的に盛り込むべきだ。

重要なのは、日本の目標や政策をできるだけ明確にし、国内外への透明性を確保することだ。

国家安保戦略に対する国民の理解を深めるとともに、日本の「右傾化」批判が的外れなことや、不透明な軍事力が批判される中国との違いを示すことにもなろう。

産経新聞 2013年09月14日

国家安保戦略 受動と依存脱し責任担え

国民の平和と安全、そして国益を守り抜くため、あらゆる方策を講じてもらいたい。

有識者による「安全保障と防衛力に関する懇談会」が年内にまとめる国家安全保障戦略への注文である。政府がこうした戦略を策定するのは初めてだ。その意味合いは大きく、歓迎したい。

国家安保戦略が存在しなかったこと自体、異様だが、日本を囲む安全保障環境は過酷さを増している。従来の受動的姿勢かつ他者依存では生き残れない。国家の総力を挙げて取り組む必要がある。

安倍晋三首相は初会合で「国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、世界の平和と安定、繁栄の確保にこれまで以上に積極的に関与していく」と述べた。

日本の繁栄は国際社会の平和と安定を基盤としている。能動的に関与し、責任とリスクを担うことは当然だ。だが、その実行は容易ではない。

日本は国連の集団安全措置への参加について、「武力行使」と一体化する恐れがあるとの内閣法制局の憲法解釈を理由に認めていない。国連の基準である「任務遂行を妨害する行為を排除する」武器使用も同じ理由から認められていない。こうした非現実的な解釈を見直すことが懇談会の使命だ。

懇談会座長の北岡伸一国際大学学長は、「積極的平和主義」に関し「集団的自衛権について厳格な限定でやっていくのは難しい」と強調した。

米国を狙った弾道ミサイルの迎撃は、集団的自衛権の行使に当たり、憲法上、許されないとの政府解釈も是正すべきだ。

日米同盟を強化し、国際社会とともに生きることこそ、積極的平和主義といえる。

戦後の防衛政策の点検も必要である。基本とされる専守防衛について、「国是」という向きもあるが、国会対策から生じた政治スローガンにすぎない。相手の攻撃を受けてから、初めて必要最小限の防衛力を行使するものだ。

だが、抑止力が機能しない仕組みでは国民の生命と安全は守れない。報復力を含め、自己完結する防衛力の整備が求められよう。

非核三原則についても、周辺国の核兵器にいかに対峙(たいじ)し、抑止するかの視座から見直すべきだ。

自分の国は自ら守ることが基本だ。情報収集もタブー視せず、生き抜く戦略を構築してほしい。

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