中長期的な外交・安全保障上の国益と目標を明示し、その実現に向けた包括的な政策指針を掲げることが肝要である。
安倍首相が「国家安全保障戦略」の策定を関係閣僚に指示した。その中身を議論する有識者会議の初会合が開かれた。
秋の臨時国会で国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案を成立させ、NSCが今年末に国家安保戦略を発表する。年末に作成する新防衛大綱も、この戦略を具体化する内容にする予定だ。
政府は1976年に防衛大綱を策定し、3回改定している。だが、大綱は防衛力整備が目的だ。外交、経済を含む総合的な国家安保戦略の策定は初めてで、安保の司令塔となるNSCの創設と合わせて、画期的な意義を持つ。
米国は87年以来、国家安保戦略を策定している。ブッシュ前政権はテロ国家への先制攻撃論、オバマ政権は国際協調を掲げた。英露韓豪各国も同様の戦略を持つ。
日本も、近年の安全保障環境の悪化を踏まえれば、もっと早く戦略を立てるべきだった。
中国は、海洋強国を目指し、軍備を増強して、東シナ海などで示威活動を展開する。北朝鮮の核・ミサイル開発に加え、テロ、サイバー攻撃の脅威も増している。
日本とアジアの平和と繁栄を確保するには、何を目標に掲げ、どんなアプローチを取るべきか。官房長官、外相、防衛相ら関係閣僚や、有識者はしっかりと議論し、戦略をまとめてもらいたい。
その作業を通じて、関係府省が外交・安保の優先課題や問題意識を共有し、その後の政策に適切に反映することが重要である。
山積する安全保障の課題に取り組むには、まず日本の領土・領海を守る自衛隊や海上保安庁の体制を拡充する必要がある。自衛隊と米軍の協力を拡大し、日米同盟を強化することも欠かせない。
首相の掲げる「積極的平和主義」に基づき、国連平和維持活動(PKO)や海賊対処行動などで日本が従来以上に役割を果たし、国際社会と連携することが大切だ。経済・エネルギー面の国際協力も着実に進めねばなるまい。
安保戦略には、こうした具体策を体系的に盛り込むべきだ。
重要なのは、日本の目標や政策をできるだけ明確にし、国内外への透明性を確保することだ。
国家安保戦略に対する国民の理解を深めるとともに、日本の「右傾化」批判が的外れなことや、不透明な軍事力が批判される中国との違いを示すことにもなろう。
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