福島の除染計画 「1ミリ・シーベルト」への拘りを捨てたい

朝日新聞 2013年09月13日

除染・賠償 避難者に判断材料を

原発事故で、国が除染を担う福島県の11市町村について、環境省が作業計画を見直した。

今年度末までに完了する予定だったが、守れそうなのは、すでに作業を終えた田村市を含めて4市町村だけ。7市町村については、インフラの復旧状況などを踏まえ、年内に新たな計画をまとめる。

一度除染した場所の追加的な除染や、縁から20メートルを原則としてきた森林除染の拡大を、個々の場所の状況に応じて認める考えも打ち出した。

当初の計画が破綻(はたん)したのは、除染で生じた廃棄物を運び込む中間貯蔵施設の建設にメドが立たず、市町村ごとに設ける仮置き場も十分確保できていないことが大きい。

除染への不信からカギとなる施設の建設が進まず、避難生活が長びく――。こうした悪循環を断つには、地元との対話を重ね、理解を得るしかない。どこまで除染を進めるか、詰めた議論も必要になろう。政府の責任は重い。

大震災と原発事故から2年半がたち、避難者の忍耐は限界に近づきつつある。

11市町村では、今後の放射線量の見通しに沿って、避難区域の再編が行われた。国が除染を進めているのは、線量が比較的低い避難指示解除準備区域と、それに次ぐ居住制限区域だ。十分な線量低下が見込めない帰還困難区域では実験的な除染にとどまっている。

本当に自宅に戻れるのか。戻れるならいつごろか。戻れない場合や、新たな場所で再出発したい人は、どのような支援が得られるのか。

政府はこれらの点について全体像を示し、避難者が生活再建について判断できる環境を早く整えるべきだ。

とりわけ関心が高いのは、金銭面だろう。自宅などの不動産に対しても東京電力による賠償の支払いが始まったが、古い家屋の所有者を中心に「あまりに額が少なく、今後の青写真を描けない」との声が強い。

賠償の基準を決める政府の損害賠償紛争審査会は上積みする方針を打ち出したが、ほかにも課題は多い。

避難指示が解除された場合、いつごろまで賠償を受けられるのか。帰還困難区域など、なかなか戻れない場合の賠償をどう考えるのか。基準作りを急いでほしい。

汚染水問題などの混乱がいつまで続くのかも、避難者の判断を左右する。政府は避難者の視点に立って、それぞれの課題に向き合わねばならない。

毎日新聞 2013年09月12日

除染完了先送り 国は生活再建に責任を

国が直轄で実施している福島県内11市町村の除染事業のうち7市町村の完了目標を環境省が延期した。新たな目標は地元自治体と協議した上で年内をめどに決めるという。

除染がいつ終わるかによって、住民の帰還や復興計画は大きく左右される。見通しの甘さが住民の生活設計を狂わせてしまうことを、政府はもっと真剣に考えてほしい。

この先、単なる先送りを繰り返すことは許されない。政府は、住民の生活再建を最優先に考え、責任を持って除染の工程表を見直してもらいたい。

直轄除染の対象は住民が避難している除染特別地域だ。このうち、年間の放射線被ばく線量が20ミリシーベルト以下の「避難指示解除準備区域」と、20ミリシーベルト超~50ミリシーベルト以下の「居住制限区域」について、住宅や農地、道路や生活圏の森林の除染を今年度末までに終わらせることにしていた。

だが、震災から2年半がたった今も、除染は大幅に遅れている。

飯舘村では宅地で実施済みの部分が計画の3%にとどまる。村の担当者によれば、住民に国の除染方法への不信感があることが一因という。他の市町村でも、汚染された土壌の仮置き場が確保できないなどの問題があり、昨年度の国の復興予算で計上された除染事業費の7割近くが使われなかった。仮置き場の先の「中間貯蔵施設」の見通しが立っていないことも、除染の進行を阻む要因になっている。

政府は、人々の心情を親身になってくみ取り、地域の実情にあった対策を立てていく必要がある。

ただ、その場合にも、時間や費用に限りがあることは考えなくてはならない。除染対象地域を、すべて一律に除染していくことが合理的かどうかを、再検討する必要がある。

たとえば、汚染の度合いが低いところを集中的に除染し、学校や交通機関などのインフラを整備して、生活しやすくすることを優先するというのも一つの考えだろう。

除染をしたとしても線量が高い場所については、地域の人々と話し合いながら除染以外の選択肢を考えていくことも必要ではないか。そのためには、政府が責任を持ち、覚悟をもってのぞむことが欠かせない。

政府は、帰還の目安となる年間被ばく線量(自然放射線は除く)を20ミリシーベルト以下、除染の長期目標を同1ミリシーベルト以下としている。今回の除染工程表の見直しにあたっても、この数値は変わっていない。1ミリシーベルトの達成目標時期もはっきりしないままだ。

除染の効果などがある程度わかってきた今、こうした数値の妥当性や達成目標時期についても、改めて検討すべき時ではないだろうか。

読売新聞 2013年09月12日

福島の除染計画 「1ミリ・シーベルト」への拘りを捨てたい

避難生活が続く住民の帰還を見据え、効率的な除染を迅速に進めてもらいたい。

東京電力福島第一原子力発電所周辺の除染が思うように進まず、環境省が計画の見直しを発表した。

環境省直轄で除染を実施している11市町村のうち、7市町村で当初予定の来年3月末までに作業を終えるめどが立たないためだ。年内にも市町村ごとに新たな計画を策定するという。

除染対象の土地所有者が各地に避難し、同意の取り付けが難航している。はぎ取った表土などを保管する仮置き場の設置に対し、住民の理解が得られない。仮置き場の汚染土を集約して保管する中間貯蔵施設の建設も見通せない。

こうした現状を考えれば、計画見直しはやむを得ない面がある。環境省は住民に粘り強く説明し、協力を得ていかねばならない。

除染の効率化も欠かせない。表土の削り取りや路面洗浄などの作業に最新機材を投入し、スピードアップを図る必要がある。

今回の計画見直しで、環境省は森林除染の対象を広げた。除染拡大を求める住民の声を受けたものだ。だが、早期帰還のためには、森林の除染は極力、住民の生活圏周辺に限定すべきだ。

大規模に森林除染を行えば、終了時期が見通せず、除染費用は際限なく膨らむ。大量の汚染土の置き場を確保するのも困難だ。草木を広範囲に取り除けば、土砂災害を引き起こす危険もある。

一方、11市町村のうち、田村市では、除染が完了した。楢葉町、大熊町、川内村では今年度内に作業を終える見通しだ。今後は、住民の生活再建を視野に入れたインフラ整備なども進めていくことが求められる。

政府は、住民帰還の目安となる年間被曝(ひばく)線量を「20ミリ・シーベルト以下」としている。国際放射線防護委員会の提言に沿った数値だ。

その上で、長期的には「年間1ミリ・シーベルト以下」に下げる方針だ。

しかし、住民の中には、直ちに1ミリ・シーベルト以下にするよう(こだわ)る声が依然、少なくない。

人間は宇宙や大地から放射線を浴びて生活している。病院のCT検査では、1回の被曝線量が約8ミリ・シーベルトになることがある。

専門家は、広島と長崎の被爆者に対する追跡調査の結果、積算線量が100ミリ・シーベルト以下の被曝では、がんとの因果関係は認められていないと指摘する。

政府は、放射能の正しい情報を周知していくことが大切だ。

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