衝撃的な引退会見なのに、あれほど晴れやかだったのはなぜだろう。
アニメーション監督の宮崎駿さん(72)が、長編アニメからの引退を表明した。
すでに十分すぎるほど実績は積み上げている。01年に公開された「千と千尋の神隠し」は、日本映画史上、現在に至るまで最高の興行成績を収めた。
翌年のベルリン国際映画祭では金熊賞を獲得。世界三大映画祭(他にカンヌ、ベネチア)で最高賞に輝いた長編アニメは、いまだに「千と千尋」だけだ。
アニメ監督としての世界的な地位はゆるぎなく、日本のアニメ界全体の評価も高めた。
「公式引退の辞」では、「あと10年は仕事をしたいと考えています」と書き、「ぼくは自由です」という一節を残した。
アニメから離れた後も、残る時間を新たな自己発見に注ごうとする姿勢が、この高齢社会に爽やかに響いたに違いない。
「10年」は、公開中の監督作「風立ちぬ」では、「創造性」と深くつながっている。
狂言回し役のイタリア人カプローニ(初期の飛行機設計家)は、主人公堀越二郎に「創造的人生の持ち時間は10年だ」「君の10年を力を尽くして生きなさい」と語る。
これを、宮崎監督にそのままお返ししたい。「あと10年」は長編アニメ以外でも「創造的人生」となりうるはずだ。
視覚的な快感にあふれた宮崎アニメの新作がもう見られないのは確かに残念である。
スピード感のある活劇の中でふわりと空中に浮く登場人物。想像力を極限まで広げた奇っ怪なキャラクター。そして、森や田園などの自然描写は、目を洗われるように美しかった。
しかし、長編アニメでコストのかさむ手描きにこだわったこともあり、ヒット作の連発には困難が伴う。「それではスタジオがもちません」という「公式引退の辞」から、興行の世界の厳しさがうかがえる。
商業的制約から解き放たれた宮崎作品の底知れぬスケールはすでに証明されている。「風の谷のナウシカ」の漫画版は、アニメ版とは異質な物語を奔放に展開し、評論家立花隆氏は「いかなるコミック世界も突き抜けた深い作品」と評した。
アニメの枠を超えて、自らの思想や哲学を縦横無尽にぶつけた作品を期待するファンは世界にあふれていることだろう。
長い間お疲れさまでした。しばらくのお休みの後に、再び自由な創造の仕事を見せていただけると私たちは信じています。
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