20年東京五輪 未来への遺産を作ろう

朝日新聞 2013年09月10日

東京五輪 成熟時代の夢を紡ごう

7年後の夏、東京に再び聖火がともる。

第2次大戦以降で、夏季五輪を2度開く都市は、ロンドンと東京しかない。

前回の1964年大会は戦後の復興を象徴した。人も仕事も増え続け、新幹線や高速道路が開通した。先進国入りをめざして突っ走る時代を告げた。

いまの日本は、様相が違う。少子高齢化に財政難の時代である。高度成長期と同じ夢を追いかけることはできない。

都市も社会も成熟期を迎えた今、インフラではなく、人に資産を残す五輪を提唱したい。

豪華な施設はもう要らない。長い目で活用できる最小限で十分だ。投資を注ぐ対象は、若者たちの心にこそある。

昨夏のロンドン五輪は204カ国・地域が集まった。日本にいながらにして世界がやってくる。人も文化も混じり合う世界の息吹を体験し、記憶に刻み、思考を広げる機会となろう。

参加者は選手だけではない。語学を磨いてボランティアになってもいい。観客としてでもいい。話題の選手を育んだ異文化に思いをはせる場を、家庭で、学校で、地域で、広げたい。

五輪は「平和の祭典」でもある。外交関係が揺れる中国や韓国ともわだかまりなく交流できる雰囲気作りは欠かせない。一緒に夢を紡ぐ若者らの輪に国境の壁があってはならない。

直前の2018年には韓国・平昌で冬季五輪がある。世界の目が韓国と日本に続けて注がれる好機を逃さず、官民挙げて未来志向の友好をめざしたい。

国内に目を向ければ、東京の一極集中ではいけない。国際オリンピック委員会(IOC)では、大震災からの復興という理念に共感し、票を投じた委員も多かった。東北地方の再興はもちろん、日本全土で五輪の恩恵を分け合う工夫が必要だ。

前回の東京五輪のころ、都内の15歳未満の年少人口は65歳以上の5倍もいた。今は老年人口の約半分しかいない。

多くの国もいずれ同じ道をたどる。高齢化時代のスポーツの意義を先取りする社会像をめざすのも、これからの五輪ホストの使命と考えるべきだろう。

お年寄りや障害者も幅広く息長くスポーツと親しめる環境作りが求められる。パラリンピックにふさわしい街のバリアフリー化も急務だ。そして、人種も国籍も関係なく気軽に街で助けあえる心の余裕を育てたい。

21世紀の新しい五輪の姿を示す成熟国家の力量やいかに。世界へ発信する真のプレゼンテーションはこれから始まる。

毎日新聞 2013年09月10日

20年東京五輪 未来への遺産を作ろう

東京に56年ぶりに聖火がともる。

国際オリンピック委員会(IOC)の総会で東京が2020年夏季オリンピック・パラリンピックの開催地に選ばれた。

前回1964年の東京大会は高度経済成長の中で開催され、第二次世界大戦で敗れた日本が復興した姿を世界に示した。新幹線や高速道路、ホテルなどの社会資本が整備され、「今日より明日がよくなる」という時代と結びついた記憶は当時を知る人たちにとって今も無形のレガシー(遺産)となっている。

景気の回復が実感できない中、経済波及効果に期待する人は多い。招致委員会によると、全国で約2兆9600億円が見込まれている。だが、過度の期待は禁物だ。試算はパラリンピックが閉幕する20年9月まで7年間の総額で、年間平均では約4230億円。名目GDP(国内総生産、12年度は約474兆6045億円)の0・1%にも満たない。

オリンピックは景気刺激の手段ではない。近代オリンピックの創始者クーベルタンの思想(オリンピズム)に基づき、スポーツを通じた教育と平和の運動が推進される場だ。

開催までの7年間は、オリンピズムを普及させるためのさまざまな活動(オリンピック運動)について子どもたちが学ぶ機会になる。学習指導要領の改定に伴い、中学と高校の保健体育の体育理論でオリンピックなどの国際競技大会について学習するよう規定されたが、時間が少なく、教材開発も遅れている。日本オリンピック委員会はオリンピック運動の推進に向け、動画などの教材をホームページからダウンロードできるようにしてほしい。

オリンピック教育はフェアプレーの精神などポジティブな面を学ぶだけでなく、過度の商業主義や勝利至上主義、ドーピングなど負の部分を学ぶことを通してバランスのとれた判断力を子どもたちに身につけさせることが重要だ。「国民の教養」という無形のレガシーにしたい。

パラリンピックの開催に向け、障害者や高齢者に配慮したバリアフリーの都市づくりも進めたい。段差などのハード面だけでなく、偏見など心のバリアーも取り除くことができれば東京は世界のモデルになる。

読売新聞 2013年09月10日

2020年東京五輪 復興と経済成長の起爆剤に

オールジャパンで成功させたい

東京に再び聖火がともることを喜びたい。

2020年夏季五輪・パラリンピックの開催都市が東京に決まった。

ブエノスアイレスでの国際オリンピック委員会(IOC)総会で、イスタンブールとの決選投票を大差で制し、招致を勝ち取った。

東京では1964年以来、56年ぶりの五輪だ。冬季の札幌(72年)、長野(98年)と合わせると、日本では4度目の五輪となる。

世界のアスリートが東京に集う。五輪決定の報は、多くの国民に希望をもたらしただろう。安倍首相は、五輪開催をデフレ脱却の「起爆剤にしたい」と語った。

国挙げた招致が奏功

開幕まで、あと7年。国を挙げて準備に万全を期し、スポーツの祭典を成功させたい。

招致レースはイスタンブール、マドリードとの横一線と言われたが、結果は東京の完勝だった。

IOC総会で、パラリンピック選手の佐藤真海さんらによる最終プレゼンテーションは、いずれも熱意がこもった見事な内容だった。

高円宮妃久子さまが、東日本大震災での各国からの支援に謝辞を述べられたことは、票を投じたIOC委員の心に響いたのではないか。

勝因の一つはオールジャパン体制で臨めた点だ。政財界が招致を全面支援した。五輪開催に対する国民の支持率は、2016年五輪の招致時より大幅に上昇した。

メダリストら招致委員会のメンバーによるIOC委員への積極的なロビー活動も功を奏した。

東京の開催計画は、当初から高い評価を受けていた。移動時間を短縮させるため、主要な競技会場を選手村から半径8キロ・メートル圏内に集中させるなど、選手に最大限、配慮した内容と言える。

4000億円の基金など都の安定した財政基盤、整備された交通網や宿泊施設、良好な治安――。政情不安や財政危機などの問題を抱えた他の2都市と比較し、東京の高い開催能力を支持の決め手としたIOC委員もいただろう。

最も懸念されたのは、海外でも報じられている福島第一原子力発電所の汚染水問題だった。

韓国は6日、福島県など8県の水産物の輸入を禁止すると発表した。科学的根拠を欠く措置だ。東京のイメージダウンを図ったとの見方もある。

汚染水問題の収束急げ

安倍首相は、IOC側の質問に対し、「影響は原発の港湾内で完全にブロックされている」「福島近海でのモニタリング数値は、最大でもWHO(世界保健機関)の飲料水ガイドラインの500分の1だ」などと説明した。

具体的事実を挙げて、五輪開催への影響を明確に否定したことが、IOC委員が抱く不安の解消につながったと言えるだろう。

政府は今後、着実に汚染水問題を収束させねばならない。

64年の東京五輪は、戦後の復興を世界に示した大会だった。東海道新幹線が開通し、首都高速道路が建設された。東京のインフラ整備が飛躍的に進んだ。

2020年五輪は、どのような遺産を未来へと残すのか。

安倍首相が、経済政策であるアベノミクスの「第4の矢」と言うほど、五輪への期待は極めて大きい。

経済効果は3兆円に上り、15万人の雇用を生むと試算されている。

確かに、施設整備を担う建設業をはじめ、観光や不動産業など、様々な分野に効果が波及しよう。こうした「五輪関連銘柄」の株価は上昇傾向を見せている。

五輪開催を東京だけでなく、東日本大震災の被災地、さらに日本全体の活性化につなげたい。

主要競技場の電力に再生可能エネルギーを使用することや、湾岸部などの大規模な緑化事業など、環境に配慮した整備計画も着実に進める必要がある。

パラリンピックの開催に備え、街のバリアフリー化を一層、推進することも大切だ。

戦略的な選手強化を

五輪が盛り上がるためには、日本選手の活躍が欠かせない。

7年後の主力となるのは、現在の中学生や高校生だろう。自国での五輪出場を夢見て、スポーツに打ち込む子供たちがますます増えるに違いない。

文部科学省や日本オリンピック委員会(JOC)は、中高生を中心とした選手の強化に、戦略的に取り組むことが必要だ。

20年の東京五輪では、残留が決まったレスリングを含め、28競技が実施される。

7年後が今から待ち遠しい。

朝日新聞 2013年09月10日

東京五輪 原発への重い国際公約

福島第一原発事故の収束は、そもそも五輪とは関係なく取り組むべき問題だ。

ただ、東京開催の決定にいたる過程で、世界が日本の姿勢に厳しい目を注いでいることがあらためて示された。

安倍首相は招致演説で、汚染水問題に「責任をもつ」と表明した。記者会見では、原発比率を下げていき、今後3年間で再生可能エネルギーの普及と省エネを最大限加速させることも明言した。

世界に向けた公約だ。内外に「五輪誘致のための方便」ととられないよう、実行力が問われる。政権の最優先課題として取り組んでほしい。

「状況はコントロールされている」「汚染水の影響は原発の港湾内で完全にブロックされている」――国際オリンピック委員会(IOC)総会での安倍首相のプレゼンテーションと質疑応答は、歯切れがよかった。

必ずしも原発事故の問題に精通しているわけではないIOC委員には好評で、得票にもつながった。

だが、この間の混迷ぶりや放射能被害の厳しさを目の当たりにしてきた人には、空々しく聞こえたのではないか。

確かに、汚染水問題で国が前面に出る体制は整えたが、うまく汚染の広がりを食い止められるかはこれからだ。

すでに技術的な課題が多く指摘されている。汚染水が地下水に到達したとみられるデータも検出された。今後も想定外の障害が出てくる可能性がある。汚染水をうまく解決できたとしても、さらに困難な廃炉作業が待ち受ける。

「安全・安心」を強調するあまり、事態の深刻化を隠そうとしたり、批判を恐れて必要な措置に手をこまぬいたりするようなことは論外だ。

現状と自らの取り組みを率直に公開し、世界の知恵を借りながら対策を講じていく謙虚な姿勢こそが、国際的な信認につながることを忘れてはならない。

エネルギー政策についても、政権の発足以降、「原発回帰」をにじませる発言が出る一方、長期的なビジョンは何も打ち出していない。

事故からすでに2年半が経とうとしている。どのように原発比率を下げていくか。再エネ、省エネの普及をどんな手立てで実現するのか。将来像を語り、具体的な道筋を示すことが首相のつとめだ。

日本での五輪開催の決定は、そうした取り組みを促す契機になってはじめて、心から喜ぶことができる。

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