朝日新聞 2009年12月18日
民主予算要望 権力はどこにあるのか
民主党の小沢一郎幹事長が鳩山由紀夫首相に対し、来年度予算編成と税制改正に向けた要望書を手渡した。
業界団体や自治体から受けた約2800件の陳情を踏まえたものだ。小沢氏は「全国民からの要望だ」とし、可能な限り反映するよう首相に求めた。
その内容は、陳情をただ列挙したわけではない。18の重要政策に絞り、具体的な方針を明示した。中には総選挙で掲げたマニフェストと異なるものも含まれている。
公約といっても、具体化にあたっては経済情勢や実情に応じて中身や実施時期を見直すのはありうることだ。
ガソリン税の暫定税率廃止について、現在の租税水準を維持するとした。公約違反という批判はあるかもしれないが、不況による大幅な税収見込み減や地球環境への悪影響を考慮すれば、現実的と言えるのではないか。
一方、看板政策である子ども手当では所得制限の導入を打ち出した。財源不足を考えてのことだろう。どの程度の制限を設けるかはこれからだが、子育ては社会全体で担うという理念や方向性を見失っては元も子もない。
民主党は「コンクリートから人へ」の大方針を掲げてきた。だが要望書には、整備新幹線早期開業のための予算や高速道路整備の推進、公共事業にあてる自治体への交付金創設が盛られる一方、保育所の待機児童への言及はない。方針がかすんだ感は否めない。
見過ごせないのは、陳情のとりまとめと称して、党が政策の優先順位決めや予算配分に大きな影響力を行使する形になった点だ。
民主党は、予算編成などで与党が強力な発言力をもった自民党政権時代の二元的な仕組みを改め、内閣に一元化すると言ってきた。責任の所在を明確にし、意思決定の過程を透明にしようという狙いである。
ところが、今回のやり方では、だれがどのような基準で項目を選び、なぜそういう結論に至ったのか皆目わからない。著しく透明性に欠ける手法だ。
政府が要望をそのまま受け入れれば、有権者の目には、小沢氏が政策を最終的に決める権力を握っていると映ってしまうだろう。
ただ、政策決定に党がかかわる背景には、閣僚ら政務三役がそれぞれの省の立場を主張するばかりで、なかなか結論を出せない政府の迷走もあろう。官僚による調整をやめたのはいいが、首相や国家戦略相、官房長官が調整できず、小沢氏が助け舟を出して方向付けをした。そんなふうにさえ見える。
大事なのは、首相が要望を踏まえつつも縛られず、政権の大方針に沿っているかを精査し、自ら決めていくことだ。さもないと政治の透明性は貫けないし、鳩山、小沢の「二元体制か」という疑念がさらにふくらんでいく。
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毎日新聞 2009年12月19日
子ども手当 所得制限は愚策だ
新政権は、目玉政策「子ども手当」に所得制限を設けることを検討している。苦しい財政事情から、初年度で2兆3000億円、2011年度以降は5兆3000億円にのぼる財政負担を抑え込む狙いのようだ。しかし、制度の趣旨からも技術的な面からも問題は多い。子ども手当の所得制限は、やはり不要である。
私たちは、次世代の育成と国の関与について思想の大きな転換だとして、子ども手当創設を評価した。鳩山由紀夫首相が強調する「子どもを社会全体が育てる発想。所得制限を考えないのが基本線」との理念を支持してきた。そして、認定や給付の作業にあたる市町村の手間、費用なども考え、所得制限はなくていいと重ねて主張した。首相も当初方針を貫く姿勢を見せていた。
ところが、予算編成の大詰めでの民主党の要望が状況を変えた。
支給の上限として、国会議員の歳費を参考に課税所得2000万円で線引きする案がある。対象外になるのは1%未満で予算圧縮効果は乏しい。全市町村で計数十億円の経費とそれなりの人手をかけ、やる価値があるだろうか。「裕福な家の子まで支給するのは釈然としない」という声を封じる程度の意味しかない。
現行の児童手当と同じ年収800万円台・課税所得600万円台で線引きする案もある。10%が対象からはずれるため、予算も相当額が圧縮できる。児童手当と同じなので、市町村の事務作業もやりやすい。
だが、新たな問題が起きる。線引きラインをはさんで、家計収入の逆転が生じるのだ。
支給対象の子が2人いる場合、所得の上限を1万円でも下回れば年間約62万円(初年度は約31万円)が入り、1万円でも超えればゼロになる。大手企業の従業員への今冬のボーナス平均額は約70万円だった。その手取りに相当する額が、あるか、ないかの差は非常に大きい。さらに扶養控除が予定通りに11年度から廃止されれば、ギリギリで対象からはずれた世帯には年10万円以上の負担増だけがのしかかる。
児童手当にも同じ問題はあった。しかし、対象が小学生以下から中学生以下に広がり、5000円か1万円だった月々の支給額も初年度1万3000円、次年度以降2万6000円に増え、問題の大きさは比較にならない。落差をならすために段階的な支給額にするのは、制度を複雑にし事務作業を煩雑にするだけだ。
そもそも民主党に所得制限を求める陳情があったのだろうか。理念に目をつむって、真剣に検討すべき「国民の声」とは思えない。問題山積の年末である。ほかのことに時間や手間を振り向ける時ではないか。
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読売新聞 2009年12月18日
来年度予算 バラマキ公約の是正は当然だ
民主党が、来年度予算編成と税制改正に関する「重点要望」を政府に提出した。
衆院選の政権公約(マニフェスト)で掲げた主要政策に修正を加え、一部の政策では事実上の撤回を求めた。
税収の大幅な落ち込みで、必要な財源確保のめどが立たなくなったためだが、もともと、巨額な費用がかかる項目を並べた公約自体に無理があったといえる。
修正・撤回は当然だ。政府はこの要望を踏まえ、税制改正の取りまとめと来年度予算の編成作業を急ぐべきである。
民主党の要望で最も注目されるのは、政権公約の目玉であるガソリンの暫定税率の廃止をやめるよう求めたことだ。
鳩山首相が、来年4月から暫定税率を廃止する方針を再三強調し、政府税制調査会もその方向を打ち出していた。だが、実際に廃止されれば、国と地方はあわせて2・5兆円もの税収を失う。
政府税調はこの税収減の穴を埋めるため、地球温暖化対策税(環境税)の創設を検討してきた。
しかし、暫定税率を廃止すると同時にそれに見合う新税を導入すれば、税収は確保できるが、実質的な公約違反との批判を受ける可能性もある。
むしろ暫定税率をそのまま維持する方が正直でわかりやすい。
環境税に対しては、景気や企業経営への悪影響を懸念する声が強い。慎重に対応すべきだ。
要望には、子ども手当に所得制限を設けることも盛り込まれた。初年度となる来年度の子ども手当の支給額は、半額の月1万3000円だが、それでも2・3兆円の予算が要る。
子ども手当に対しては、景気刺激効果が薄いバラマキ政策だ、との批判がある。どうしても実施する場合は、何らかの歯止めが必要だが、所得制限はその手段の一つになろう。
ただ、手当の財源を捻出するため所得税の扶養控除を廃止すれば、所得制限を超える世帯は、子ども手当はもらえず、負担だけが増えることになる。所得の線引きや所得を把握する方法などを、早急に詰める必要があろう。
公約の修正・撤回は、小沢幹事長ら党側が“指示”する形になった。「政策決定は政府に一元化する」という当初の政府・与党の合意から見ると、疑問が残る。
政策の現実化は評価するが、マニフェストを変更するのなら、首相はその理由を国民にしっかり説明しなくてはならない。
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産経新聞 2009年12月19日
子ども手当迷走 基本設計を怠ったツケだ
来年度から導入される「子ども手当」に所得制限を設けることをめぐり、政府・与党が混乱している。政府は「年収2千万円」を支給上限とする案を軸に検討を始めたが、長妻昭厚生労働相や社民党は制限を設けないよう主張している。
子ども手当の所得制限は民主党の政権公約にはなかった。だが、手当支給の初年度となる来年度は半額(月額1万3千円)だけでも2・3兆円もの巨費が必要となる。対象の子供がいない世帯で負担増となることへの不公平感や、「本当に子供のために使われるのか」といったバラマキ批判は根強い。所得制限の導入は現実的な判断といえよう。
民主党は8月の衆院選で「無駄の排除などで財源を捻出(ねんしゅつ)する」と大見えを切っていたが、無理があったということだろう。鳩山由紀夫首相には、所得制限の検討に入った理由と、どういう理念に基づいて所得線引きをするのか国民に明確に説明するよう求めたい。
財源が当初の想定通りに確保できなくなることは十分予想できたはずだ。「高額所得者への支給はおかしい」との批判が出ることも想定できたであろう。にもかかわらず、制度設計の議論を行ってこなかったことは、無責任との批判を免れまい。
早くもチグハグぶりが露呈している。政府が検討する「2千万円」では対象から外れる世帯はわずか0・1%で、予算削減効果は数十億円にとどまるという。一方、所得制限の導入に伴って、事務を担うことが想定される市区町村は年収確認などの作業が大きく膨らむ。結果として事務経費が増えたのでは元も子もない。参院選への影響を避けるために、制限ラインを高めに設定したのであれば本末転倒だ。
予算削減効果を大きくするため、現行の児童手当の基準をそのまま使う案も浮上している。だが政府は手当の導入と引き換えに扶養控除を廃止する考えで、この場合、子供がいるにもかかわらず負担だけが増える世帯が生じる。これでは「社会全体で子育て」とした子ども手当の制度理念そのものが変質しよう。
納税者番号制度がない中での所得把握は困難だ。納税者番号制度の導入スケジュールも同時に明確にすることが必要だ。少子化対策は待ったなしである。首相は多くの国民が納得できるような所得線引きを行わなければならない。
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