婚外子差別違憲 長かった平等への道

朝日新聞 2013年09月05日

婚外子差別 遅すぎた救済のつけ

両親が結婚していたかどうかで子どもの相続分に差をつける民法の規定は、法の下の平等を定めた憲法に違反する。

最高裁大法廷がようやく判断した。

合憲とした前回の大法廷決定から18年。家族のかたちが多様になった。同様の規定があった他の先進国も、とうに改めている。遅すぎた救済である。

対象は01年の相続だ。決定は、遅くてもこの時点で、規定は違憲だったとする。

01年以降も、婚外子がかかわる遺産分割はいくつもあった。最高裁小法廷を含む各法廷でも相続差別規定に基づいた解決がはかられてきた。

しかし、裁判や話し合いなどですでに確定したケースには影響を与えないと、決定は明示している。当事者にとっては納得しがたいだろう。

決定が及ぶ範囲について、法律に近い拘束力を持つ判断を最高裁が示すのは異例だ。

婚外子の権利を保障しなければいけない一方、すでに解決した相続問題を覆すことになれば社会の混乱は大きい。苦渋の選択ではなかったか。

改めて浮かぶのは、この問題を立法で解決しなかった国会の無責任さである。

両親が結婚していたかどうかに責任のない子どもに不利益を与えるこの規定の問題点は、国内外から指摘されて久しい。

そもそも戦前の民法以来の規定である。96年に法制審議会が婚外子も同様に扱う民法改正案要綱を答申していた。

しかし、自民党などは「法律婚の保護が必要」「不倫を助長する」などと反対し、法務省は法案を出せずじまいだった。

すぐに法改正していれば、今回の決定のように、父母の死や裁判などの時期によって、救済されるかどうかが分かれるという不条理な状況は避けられたはずである。

最高裁の違憲判断をもって、民法の規定が自動的に変わるわけではない。担当した裁判官14人の全員一致による決定の重みをふまえ、国会は一日も早く法改正すべきだ。

父母や祖父母の殺人(尊属殺人)をより重く処罰する刑法の規定を最高裁が違憲としたときは、法改正まで検察官が尊属殺人罪ではなく殺人罪で起訴し、判例と法律の差を埋めた。

相続にはこうした手当てが徹底できるとは限らず、法改正の遅れは許されない。

11年には約2万3千人の婚外子がうまれた。今回の決定を、家族それぞれのかたちを尊重しあう新たな出発点としたい。

毎日新聞 2013年09月05日

婚外子差別違憲 長かった平等への道

最高裁大法廷が、民法の相続格差規定について、従来の合憲判断を見直し、14人の裁判官全員一致で違憲判断を示した。

結婚していない男女間の子(婚外子)の遺産相続分を、結婚した男女間の子の半分とした規定だ。法の下の平等を定めた憲法14条に違反するか否かが最大の焦点だった。

審理の対象となったのは、2001年7月と11月に亡くなった男性の遺産相続が争われた2件の家事審判だ。大法廷は決定の中で「相続格差規定は、遅くとも01年7月時点で、憲法14条に違反していた」と述べた。最も基本的な憲法の人権規定を重くみた判断であり、違憲の結論は当然の帰結だ。

大法廷は1995年、現行の民法が結婚の届け出を前提とする法律婚主義を採用していることを根拠に、規定を合憲と判断していた。

だが、この規定は、115年前の明治時代に施行された旧民法の規定を戦後、受け継いだものだ。

戦後民主主義が広く社会に浸透し、結婚に対する考え方も変化した。近年では、事実婚やシングルマザーも増えた。離婚した後に事実婚を選択する人もいるだろう。家族の形は多様化している。国民意識の変化に照らしても、規定の合理性は徐々に失われてきたといっていい。

世界的にこうした規定は撤廃され、少なくとも欧米にはない。先進国で同種規定があったドイツで98年、フランスでも01年に法改正が行われ、平等化が実現した。

国連自由権規約委員会は93年、「差別を禁じる国際規約に反している」として、規定廃止を日本政府に勧告した。その後も、国連の人権機関が勧告を繰り返している。国際社会の潮流からも、相続平等への道を歩むのは避けられなかったといえる。

決定も、そうした歴史や国際的な動きに言及したうえで、「法律婚という制度自体はわが国に定着しているとしても、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由として、その子に不利益を及ぼすことは許されない」との結論を導いた。その意味では、95年時点で違憲判断に踏み込んでもよかったはずで、時間がかかったのは残念だ。

最高裁が、国際社会の動向を重視したのは、今回が初めてではない。大法廷は08年、日本人父とフィリピン人母の間に生まれた婚外子の子供たちが、日本国籍の確認を求めた訴訟の判決で、出生後の国籍取得に両親の婚姻を必要とする国籍法の規定を違憲と判断した。

読売新聞 2013年09月05日

婚外子相続差別 家族観の変化に沿う違憲判断

日本人の家族観の変化を踏まえた歴史的な違憲判断である。

結婚していない男女間に生まれた非嫡出子(婚外子)の遺産相続分を、結婚した夫婦の子の2分の1とした民法の規定について、最高裁大法廷は「法の下の平等」を保障した憲法に違反するとの決定を出した。

「区別する合理的な根拠は失われた」との理由からだ。

最高裁は1995年、民法のこの規定を「合憲」と判断した。今回、正反対の結論になったのは、婚外子を巡る状況の移り変わりを重視した結果と言えよう。

決定は、相続制度を定める際に考慮すべき要件として、国の伝統、社会事情、国民感情を挙げた。そのうえで、これらの要件は「時代と共に変遷するため、合理性について不断に検討されなければならない」との見解を示した。

民法が国民生活に密接に関わる法律であることを考えれば、当然の指摘である。

近年、婚外子の出生が増えている。シングルマザーという言葉も定着した。事実婚も珍しくなくなった。婚外子を特別視する風潮は薄れているだろう。

住民票や戸籍の続き柄の表記では、出生による区別が既に廃止されている。

欧米では相続格差の撤廃が進み、主要先進国で格差が残っているのは日本だけになっている。

違憲判断は、こうした流れの延長線上に位置づけられよう。

今回の決定で特徴的なのは、婚外子の権利保護を最優先に考えるべきだという姿勢を色濃くにじませている点だ。

内閣府の昨年の世論調査でも、婚外子に対し、法律上、不利益な扱いをしてはならないと考える人は61%に上っている。

「父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択・修正する余地のない事柄を理由として、その子に不利益を及ぼすことは許されない」。最高裁のこの判断を、多くの国民は違和感なく受け止めるのではないか。

婚外子の相続格差の規定は明治時代に設けられ、戦後の民法に受け継がれた。法律婚の重視という伝統的な結婚観が根底にある。

相続分を半分にするという規定が、結果として婚外子の差別を助長してきた面は否めない。

最高裁の決定を受け、菅官房長官は「立法的手当ては当然だ」と語った。早ければ臨時国会に民法改正案を提出する方針だ。

速やかな改正を求めたい。

産経新聞 2013年09月05日

相続格差は違憲 「法律婚」の否定ではない

最高裁大法廷は、結婚していない男女間に生まれた非嫡出子(婚外子)の遺産相続分を、嫡出子の半分と定めた民法の規定を、違憲とする初判断を示した。

憲法は法の下の平等を保障しており、「父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のないことを理由に不利益を及ぼすことは許されない」とした判断は当然だろう。速やかに、民法も改正すべきだ。

「婚外子の相続分は嫡出子の半分とする」という規定は明治31年に設けられ、昭和22年の民法改正でも引き継がれた。54年には法務省が両者の差異をなくす民法改正案をまとめたが、国会には提出されなかった。

平成5年以降、東京高裁などでこの問題での違憲判断が相次いだが、最高裁は7年、「民法が法律婚を採用している以上、著しく不合理とはいえない」とする合憲判断を出し、婚外子側の訴えを退けていた。

ただしこれを覆す今回の最高裁の判断は、法律による婚姻家族を否定したものではない。

法律婚という制度は日本に定着しており、「重婚」を認めるものでも、「事実婚」や「非婚カップル」を助長し、「不倫」を推奨するものでもない。

国内における婚外子の出生数の増加や、欧米で急速に進んだ婚外子への法的な差別撤廃の動きが背景にはある。

だが、あくまで今回の判断は、個人の尊厳と法の下の平等に照らして婚外子の権利が不当に侵害されていないかとの観点から導き出されたものだ。

最高裁の判断が、国民の結婚観や家族観に誤った影響を与えるようなことがあってはならない。

結婚や家族は個人のライフスタイルの問題だとする考え方もあるだろう。だが、法律婚によって築かれる家族は尊重、保護されるべき社会の最小単位である。その重要性は変わらない。

付け加えれば、民法による相続の規定は強制されるものではなく、生前処分や遺言などによる相続分の指定がない場合に補充的に適用されるものだ。

家族ごとに、さまざまな個別の事情があるだろう。相続は本来、被相続人が自らの人生を省みて配分を決めるものだ。その原則も指摘しておきたい。

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