新たな危機をどう抑え込んでいくか。福島第一原発での放射能汚染水漏れを受けて、政府と東京電力の体制組み直しがようやく動き出した。
決定的な対策があるわけではない。新たに高線量の汚染水漏れも確認された。絶えず問題点を洗い出し、知恵と人材を最大限に投入していくしかない。
政府は近く、全体の工程管理を含めた中長期にわたる対策の全体像をまとめる。
すでに設けた複数の専門家会合に加え、経済産業省で専任の「汚染水特別対策監」を任命した。現地にも職員を置く。
東京電力側も、複合的な課題を統括するプロジェクト・マネジメントの経験が豊富な人材を社外から登用するなど、あらためて対策本部を構えた。
もちろん、人や組織を整えるだけで、事態が改善するはずもない。闘いは長丁場になる。トラブルも多発するだろう。
政府の役割は重い。
ヒト・モノ・カネの面で、東電という一企業としての制約を取り払い、必要性と有効性の観点から対策を講じなければならない。
あわせて、放射線による作業環境の悪化にも目を光らせる必要がある。実際の作業は東電側に委ねる部分が多いが、最前線に立つのは下請けや孫請けといった協力会社の人たちだ。
危険な現場を肌身で知る作業員は、長期戦を乗り切るうえで不可欠な存在である。対策のスピードアップが、被曝(ひばく)量の増加や労働条件の悪化につながっては元も子もない。
後手に回ってきたのは、内外への説明・発信も同様だ。
漁業関係者や避難住民をはじめ、東電への不信感は大きい。海外では近隣国を中心に、日本から適時情報を得られないことに不満が高まっている。
国際原子力機関(IAEA)からも、原子力規制委員会への「助言」という形で、混乱回避へ適切な情報開示をするよう苦言を呈された。
説明の場に国が出ていく機会を増やし、率直な対話に努めるべきだ。経産省や原子力規制庁は手いっぱいでもあり、他省庁も機動的に動いてほしい。
そんななか、国会が汚染水問題で予定していた閉会中の審査を先送りした。審議の紛糾が、東京五輪招致に影響することへの懸念もあったという。
政治家が打算含みで福島を利用することがあってはならない。日本がいま最優先で国際社会に果たすべきは、あらゆる手を尽くして原発事故を食い止めることである。
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