汚染水対策 五輪招致のためでなく

朝日新聞 2013年09月04日

汚染水対策 先を読んだ危機管理を

安倍首相を本部長とする原子力災害対策本部がきのう、福島第一原発の放射能汚染水問題について、「国が前面に出て必要な対策を実行する」との基本方針を決めた。

内容はおおむね妥当である。

政府はこれまでの反省をふまえ、有効な対策が早く着実に進められるよう、全力を挙げなければならない。

基本方針は「従来のような逐次的な事後対応ではなく、リスクを広く洗い出し、予防的かつ重層的に、抜本的な対策を講じる」とうたっている。

当然のことだ。

これまで、東京電力の対応は後手後手にまわり、あまりにも場当たり的だった。

たとえば、原子炉建屋の海側にあるトレンチ(地下坑道)には極めて高濃度の汚染水がたまっており、地下水汚染の元凶と考えられている。この汚染水を抜く重要性は早くから指摘されてきたにもかかわらず、東電は「放射線量が高く、作業が難しい」とためらい、着手してこなかった。

汚染水の保管タンクも、余震が続くなか、長期保管が必至なのだから、相当の資金をかけてでも頑丈な危険物保管用タンクの建造を急ぐべきだった。

海への汚染水流出を止めようと地中に壁を造っても、地下水位が上昇すれば当然対応が必要なのに、それも遅れた。

監督してきた経済産業省が責任を免れるものではない。教訓を今後に生かすべきだ。

気になるのは、国費投入の範囲である。

基本方針は「技術的難易度が高いものについて財政措置を進めていく」とし、地下水の流入を防ぐ凍土式の陸側遮水壁と、より高性能な放射能除去設備の事業費は、政府がまかなうと明記した。

だが、たとえば最優先課題であるタンク問題の対応を東電にゆだねたままではいけない。

やっつけ仕事で軟弱地盤の上に造られたタンク群は、きわめて危うい状況にある。思い切って移設することも含め、根本的な対策が迫られている。

必要な対策が東電側の事情で後回しにならないよう、目を光らせるべきだ。

凍土式遮水壁は大規模・長期的な運用経験がない。未知数の対策に楽観的に寄りかかってはならない。まさに「予防的かつ重層的に」、多重の対策が求められる。

今回の事態には海外も注視している。安倍政権は、国家的危機であるという認識のもと、ことにあたってほしい。

毎日新聞 2013年09月04日

汚染水基本計画 国の覚悟が見えない

東京電力福島第1原発で深刻な問題となっている汚染水対策について、安倍晋三首相を本部長とする「原子力災害対策本部」が基本方針を公表した。「東電任せにせず、国が前面に出て、抜本的な対策を講じる」という姿勢は当然のことだが、中身を見ると抜本策とは言いがたい。

汚染水対策に計470億円の国費を投じるとの方針は、これまでに比べると一歩踏み込んだものだろう。ただ、国費の投入先は限られている。陸側から建屋に流れ込む地下水を遮る「凍土遮水壁(地下ダム)」と、汚染水から放射性核種を取り除く高性能の「多核種除去装置」の二つ。いずれも、実現可能かどうか不確実性がある上、うまくいっても実現するのは1年以上先と考えられる。

一方で、緊急に対応が必要な汚染水貯蔵タンクの改善には、国費を投じる計画が今のところない。現在の「ボルト締め型」から、漏えいリスクが小さいと考えられる「溶接型」への置き換えを進めさせるというが、東電の対応能力には不安が残る。

政府は「国費を投じるのは、技術的に難易度が高いもの」と区別する。なし崩しに国が費用負担することには「東電救済」との批判もあるが、国が本腰を入れなければ、場当たり的な対応が繰り返される恐れがある。目の前にある危機に、迅速に取り組まなければ、対応が後手後手に回り、さらに対策費がかさんでしまうのではないか。

基本方針は、「潜在的なリスクの洗い出し」も掲げており、これにはぜひ、力を入れてほしい。危機管理の鉄則は、先手先手を打ってことに当たることだ。タンクの置き換えや多核種除去装置がうまくいかなかった時のことも、二重三重に考えておかなくてはならない。

今、政府が最も力を入れなくてはならないことのひとつは、汚染水の源である地下水が建屋に流入する前にくみ上げて海に流す「地下水バイパス」の可能性を追求することだろう。本当に建屋への流入量を減らせるかどうかを検証すると同時に、地下水の放射性物質の濃度が十分低いかどうかを信頼できる組織が測定・公表し、漁業関係者らによく説明することが大事だ。

それを思うにつけ、今回、残念だったのは、安倍首相が記者会見を行わなかったことだ。汚染水問題は、原発事故発生以来、最大といってもいい国家の危機だ。海外の関心も非常に高い。国のトップである首相自らが国内外に向けて現状と対策を説明すべき局面だったはずだ。

ここで首相が覚悟をもって説明責任を果たさなければ、どんな対策を打ち出そうと、信頼は得られないだろう。

読売新聞 2013年09月04日

福島原発汚染水 政府の責任で着実に収束を

政府の原子力災害対策本部が、東京電力福島第一原子力発電所の汚染水問題の収束を目指し、基本方針をまとめた。

貯蔵タンクから汚染水漏れが続くなど、東電の対応は後手に回っている。遅ればせながら政府が前面に立ち、対策に乗り出したのは当然だろう。

必要とされる対策費用は470億円に上る。対応を急ぐため、当座は、今年度予算の予備費から210億円を充てる。資金繰りが苦しい東電の経営状況を考えれば、国費投入はやむを得ない。

柱の一つが「地下ダム」の建設だ。壊れた原子炉建屋に地下水が流入し、1日に約400トンもの汚染水が発生している。建屋周辺の土に冷却材を巡らせて凍土壁を築き、流入をせき止める。

原子炉建屋の手前で地下水をくみ上げ、安全を確認した後、海に放出する計画も挙げている。

いずれも着実に実現したい。

貯蔵タンクの汚染水対策も重要だ。東電が開発中の浄化装置の稼働が欠かせない。浄化すれば、汚染水保管のリスクは大幅に軽減されよう。基本方針に盛り込まれた浄化装置の増設も急ぐべきだ。

貯蔵タンクの強度向上、敷地内の地盤改良なども重要な課題である。汚染水対策を二重三重に強化していかねばならない。

対策を進めるには、政府が一体となって取り組むことが不可欠である。経済産業省のほか、水や土壌の汚染対策で農林水産省、大規模土木工事では国土交通省などが積極的に関わるべきだ。

新設する関係閣僚会議の下、関係省庁の役割分担を明確にすることが大切である。

今回の汚染水漏れでは、情報不足のため一部に不安の声もある。放射性物質が検出されたのは福島第一原発の港湾内だけで、外洋での汚染被害は確認されていない。漏れた汚染水による放射線も防護しやすいベータ線が主だ。

関係閣僚会議のメンバーである外相や復興相を中心に、国内外に適切な情報を迅速に発信することが求められる。

「独立」を理由に、汚染水対策から距離を置いてきた原子力規制委員会の姿勢にも問題がある。

東電による貯蔵タンクのずさんな点検実態を、問題が深刻化するまで把握していなかった。汚染水の浄化装置開発では、装置の素材などに注文をつけ、結果として稼働を遅らせている。

規制当局の役割は、何より安全性の確保であることを自覚し、全力で対応してもらいたい。

産経新聞 2013年09月04日

汚染水問題 非常事態認識し即効策を

対策の遅れからトラブルが続いている東京電力福島第1原子力発電所の汚染水問題で、抜本的解決に向けた基本方針が政府によって示された。

地下水が原子炉建屋に流れ込まないよう周辺の地中を凍らせる、凍土遮水壁の工事実施などがその柱だ。総額470億円の国費を投入する。

ようやく打ち出された対策だが、政府の対応はあまりに遅い。汚染水の増加と漏出で、廃炉計画は頓挫しかねない状況にある。

安倍晋三首相は3日、首相官邸で開いた原子力災害対策本部と原子力防災会議の合同会議で「世界中が注視している。政府一丸となって解決に当たっていく」と述べたが、汚染水の現実を非常事態と認識し、即効性のある対策を優先させて取り組むべきだ。

3基の原子炉が壊れた福島第1原発では、炉心の冷却で放射性物質を含む大量の汚染水が発生し、建屋の地階にたまっている。そこに山側から地下水が流入して混ざる結果、汚染水は今も毎日400トンずつ増えている。

東電は約1千基の地上タンクを造って汚染水の増加に対応しているが、8月には約300トンの汚染水が漏れた。

資金力と人の力が限界に達している東電の対応は、すべてが後手に回りつつある。この劣勢をはね返すには国が責任を持って陣頭指揮に立つほかない。

汚染水対策の要は「出さない」「入れない」の2点につきる。高濃度の汚染水を海に漏らさないためには、まず山手からの地下水を建屋の汚染水に合流させないように手を打つことだ。

凍土遮水壁は有効だが、構築に時間がかかる。即効性があるのは地下水バイパスだ。未汚染の地下水を井戸からくみ上げて海に流せば、汚染水増加を抑制できる。

同時に、汚染水から大部分の放射性物質を取り除ける多核種除去装置「ALPS」を一日も早く稼働させることが必要だ。

ALPSの投入は試運転中のトラブルなどで遅れているが、チェックに万全を期すのは当然としても、細部にこだわりすぎて稼働が遅れれば、結果的に汚染水対策全体のリスクが高まる。

汚染水問題の波紋は、海外にも広がりつつある。東京五輪招致への不安を拭い去るためにも、安倍首相には、対策に強い指導力を発揮してもらいたい。

朝日新聞 2013年09月02日

汚染水対策 五輪招致のためでなく

新たな危機をどう抑え込んでいくか。福島第一原発での放射能汚染水漏れを受けて、政府と東京電力の体制組み直しがようやく動き出した。

決定的な対策があるわけではない。新たに高線量の汚染水漏れも確認された。絶えず問題点を洗い出し、知恵と人材を最大限に投入していくしかない。

政府は近く、全体の工程管理を含めた中長期にわたる対策の全体像をまとめる。

すでに設けた複数の専門家会合に加え、経済産業省で専任の「汚染水特別対策監」を任命した。現地にも職員を置く。

東京電力側も、複合的な課題を統括するプロジェクト・マネジメントの経験が豊富な人材を社外から登用するなど、あらためて対策本部を構えた。

もちろん、人や組織を整えるだけで、事態が改善するはずもない。闘いは長丁場になる。トラブルも多発するだろう。

政府の役割は重い。

ヒト・モノ・カネの面で、東電という一企業としての制約を取り払い、必要性と有効性の観点から対策を講じなければならない。

あわせて、放射線による作業環境の悪化にも目を光らせる必要がある。実際の作業は東電側に委ねる部分が多いが、最前線に立つのは下請けや孫請けといった協力会社の人たちだ。

危険な現場を肌身で知る作業員は、長期戦を乗り切るうえで不可欠な存在である。対策のスピードアップが、被曝(ひばく)量の増加や労働条件の悪化につながっては元も子もない。

後手に回ってきたのは、内外への説明・発信も同様だ。

漁業関係者や避難住民をはじめ、東電への不信感は大きい。海外では近隣国を中心に、日本から適時情報を得られないことに不満が高まっている。

国際原子力機関(IAEA)からも、原子力規制委員会への「助言」という形で、混乱回避へ適切な情報開示をするよう苦言を呈された。

説明の場に国が出ていく機会を増やし、率直な対話に努めるべきだ。経産省や原子力規制庁は手いっぱいでもあり、他省庁も機動的に動いてほしい。

そんななか、国会が汚染水問題で予定していた閉会中の審査を先送りした。審議の紛糾が、東京五輪招致に影響することへの懸念もあったという。

政治家が打算含みで福島を利用することがあってはならない。日本がいま最優先で国際社会に果たすべきは、あらゆる手を尽くして原発事故を食い止めることである。

毎日新聞 2013年09月03日

原発汚染水対策 首相の危機管理を問う

東京電力福島第1原発の放射性汚染水問題が、深刻度を増している。300トンもの汚染水漏れが発覚した地上タンクと同型のタンク周辺で、高い放射線量が検出された。海洋への汚染水流出も続く。海外メディアも、2年半前の事故以来最大の危機として伝えている。事故は収束していないどころか、極めて緊迫した状況にある。国家としての危機管理能力が問われる事態だ。

安倍晋三首相は汚染水対策について「東電任せにせず、国として緊張感を持って対応していく」と述べているが、これまでの対策からは、首相の顔が見えてこない。

国内外の懸念に応えよ

安倍首相は、就任直後から原発再稼働を掲げ、成長戦略の一環として原発輸出の「トップセールス」にまい進してきた。だが、最優先すべき課題は第1原発の事故処理であり、汚染水対策であるはずだ。汚染水問題が解決できなければ、日本の原発技術の安全性をいくら強調しても、絵に描いた餅になる。原子力災害対策本部長として、対策の陣頭に立つことこそ首相の役割だ。

汚染水は毎日、増え続けている。壊れた原子炉建屋に1日400トンの地下水が流れ込み、溶け落ちた核燃料と接触しているためだ。東電は、この高濃度汚染水からセシウムを除去し、敷地内でタンクなどにためている。低レベルの汚染水も含めた貯蔵量は40万トンを超える。一方で、汚染された地下水の一部は海に流出している。

東電は、セシウムを除去した汚染水を62種類の放射性物質を取り除く多核種除去装置「ALPS」で再度処理する計画だ。ところが、試運転で設備の水漏れが見つかり、稼働が遅れている。タンクを増設し、増え続ける汚染水をためる自転車操業方式の対応は、破綻寸前にある。

タンクからの汚染水漏れ発覚後、経済産業省は局長級ポストの「汚染水対策監」を新設し、第1原発に駐在する職員を増やすことを決めた。東電も社長直轄の対策本部を設置した。国内外の専門家を招くという。こうした体制強化に一定の効果はあるだろうが、対症療法に過ぎない。汚染水漏れなどのトラブルは、これからも起きることだろう。

政府は近く、汚染水問題の総合的な対策を公表する。ALPSの増設や、地下水を建屋流入前にくみ上げて海に流す「地下水バイパス」の実施が課題となっている。建屋周囲の土を凍らせて地下水を遮る「凍土遮水壁(地下ダム)」は、今年度予算の予備費を投入するという。

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