防災の日 被災地の声を対策に生かそう

毎日新聞 2013年09月01日

防災の日 日ごろの備えは万全か

きょうは防災の日だ。90年前のこの日、関東大震災が起きた。最大震度7の揺れに襲われ、死者は10万5000人に上った。

日本列島は、それから幾度も大地震に見舞われた。被害をゼロにすることは不可能にせよ、「減災」によって救える命は多い。それが東日本大震災などさまざまな災害の経験から得た教訓ではないだろうか。

1日、南海トラフ巨大地震を想定した政府の防災訓練が行われる。5日までの防災週間中に全都道府県で訓練が実施される予定だ。「想定外」をなくし、日ごろの備えが万全か、行政も、地域も、個人も改めてチェックしたい。地道な対策を重ねてこそ、災害に強い社会が実現する。

切迫性が高いのは、南海トラフ巨大地震と、首都直下地震だ。

政府の地震調査委員会は5月、南海トラフのどこかでマグニチュード8~9級の地震が「30年以内に60~70%」の確率で発生すると予測した。30メートル級の津波が広域を襲う。

津波に強いまちづくりは各地で始まっているが、適切な避難も含めた地域ごとのきめ細かい対応を急ぎたい。経済的なダメージも大きいだろう。いかに早く社会の立ち直りを図るのか。最大約1000万人と想定される避難者の保護の方策と併せ、検討を急ぐべきだ。

首都直下地震も、国全体への影響は多大だ。季節や時間帯によってさまざまな被害想定が出ているが、首都機能を補う施設を東京から離れた場所に設置する必要性など、核心的な議論さえまだ進んでいない。

大規模な火山噴火への備えにも目を向けねばならない。8月、鹿児島市の桜島で爆発的な噴火があった。東日本大震災後、日本列島が火山活動の活発期に入ったと専門家はみている。内閣府が設置した検討会は5月、火山対策について提言をまとめた。火砕流や降灰への対策、監視や観測体制の充実など多岐にわたる。しっかり受け止めねばならない。

今夏、山口・島根、秋田・岩手などで局地的な豪雨を記録した。気象庁は8月30日、重大な災害が起こる可能性が著しく高い場合、「特別警報」を発し、ただちに命を守る行動を取るよう呼びかける新たな運用を始めた。津波や地震のほか、大雨も対象で、今夏の豪雨も該当する。

情報の受け手、特に自治体は最大限の警告をしっかり受け止めて住民避難に役立ててほしい。ただし、「特別警報」の発令を待たずに、警報を先取りする対応が必要だ。一気に水かさが増すような大雨は、早い判断が人命を左右するからだ。それは住民一人一人にもいえることだ。あらゆる災害に共通するが、自ら行動し、身を守る姿勢が何より大切だ。

読売新聞 2013年09月01日

防災の日 被災地の声を対策に生かそう

◆緊急事態に備える国家戦略を

9月1日は、防災の日だ。全国各地で防災訓練や関連行事が予定されている。災害対策を総点検する必要がある。

東日本大震災からの復興は道半ばだ。今夏は記録的な豪雨による被害も各地で相次いだ。地震や津波、豪雨、火山噴火……。様々な事態を想定し、「減災」に取り組まねばならない。

◆関東大震災から90年に

きょうは、10万人もの犠牲者を出した関東大震災からちょうど90年の節目でもある。

発生時は昼食の少し前で、火を使っていた家庭が少なくなかった。家屋倒壊と強風で火の手が広がった。行政施設や橋も多くが焼失し、避難や救援を妨げた。断水のため、消火活動も遅れた。

犠牲者の9割が火災で亡くなったという。建造物の耐震化と、火災が起きても容易に延焼しない街づくりの大切さを物語る。

だが、いまだに都市部に木造住宅の密集地が多い。路地が狭く、消防車が入れない地区もある。

安倍内閣は、内閣官房に「国土強靱(きょうじん)化推進室」を設け、防災・減災策の立案や調整をしている。国土強靱化基本法案も次期国会で成立を図る方針だ。

首都直下地震と、静岡県沖から九州までを襲う南海トラフ巨大地震については、特別措置法を制定し、対策を特に充実させる予定だ。立法を急いでもらいたい。

災害に強い街をどう作るか。東日本大震災の際、首都圏で500万人に上った帰宅困難者対策も重要だ。政府は、公共事業のバラマキにならぬよう、効率的に対策を講じねばなるまい。自治体や民間事業者との連携も欠かせない。

◆国の役割強めた災対法

災害法制の根幹である災害対策基本法(災対法)は、災害対策の一義的な責務は市町村にあると規定している。都道府県は市町村を支援し、国がさらに補う。広範囲に市町村が壊滅した東日本大震災では機能しない構造だった。

政府は大震災後、災対法を2度改正した。ポイントは国の役割を強めたことにある。市町村が機能しない場合、国が応急措置を代行する。国や都道府県は、被災自治体の要請を待たずに、独自の判断で救援物資を供給できる。

災害時の避難対策も強化した。市町村に対し、高齢者、障害者など災害弱者の個人情報を集めた「避難行動要支援者名簿」の作成を義務づけた。

名簿は、作成されていても名前の掲載率が低いなど、有効性に疑問符がついていた。自治体が名簿掲載に本人同意を求める個人情報保護条例を配慮し過ぎるからだ。緊急時に役立つ名簿にしたい。

一方、災害救助法には、都道府県が避難所、仮設住宅などを提供する「現物給付の原則」がある。被災地では、民間から借り上げた「みなし仮設」住宅を活用するうえで、この原則こそが障害になっているとの不満が強い。

みなし仮設の対象には独力で住宅を借りた場合も含まれるが、契約を結び直すなど、行政手続きは煩雑だ。運用を柔軟にすることにも配慮すべきだろう。

被災地の要望を踏まえ、罹災(りさい)判定、生活再建支援金といった支援制度が使いやすくなるよう見直してほしい。

こうした現行法の枠組みだけで、未曽有の巨大災害にも、政府は迅速かつ的確に対処できるのだろうか。

政府の防災対策推進検討会議は昨年7月、「国家として存立していくための対策が不可欠」とする最終報告書をまとめた。

災対法には、首相が「災害緊急事態」を布告できるとの規定がある。国会閉会中などに限られ、緊急政令も生活必需物資の配給や物価統制などに限定されている。

報告書は、帰宅困難者対策や治安維持にも緊急措置を拡大することの必要性に言及した。首都直下地震で国会が動かない状況下での対応も検討を促している。

だが、この点での改正は見送られた。憲法に抵触しかねない、と議論を避けた面は否めない。

◆未曽有の危機想定して

人命救助を最優先するには、居住や移転の自由、財産権など基本的人権を一時的に必要最小限の範囲で制限することはあり得る。

ほとんどの国の憲法が「緊急事態条項」を備え、国の対処を規定している。やはり、憲法改正が必要だ。時間がかかるというなら、かつて自民、公明、民主の3党が議論した「緊急事態基本法」の制定を再検討すべきではないか。

災害のたびに対応が後手に回る事態を繰り返してはならない。国家戦略の観点からも、災害法制のあり方を見直すことが肝要だ。

産経新聞 2013年09月01日

防災の日 命を守る判断力を養おう

きょうは「防災の日」である。10万5千人もの死者を出した大正12年の関東大震災から、今年は90年にあたる。

過去の大災害の教訓を風化させず、国民一人一人が地震・津波や風水害への備えと心構えを新たにする日としたい。

関東大震災では、マグニチュード(M)7・9の大地震と台風による強風が重なったことが、火災を中心とした被害拡大の原因になった。

防災の専門家は「今の日本も、複数の自然災害が重なって被害が大きくなる『複合災害』の危険度が高まっている」と指摘する。

日本列島は地震の活動期に入ったとされ、地球温暖化や都市部のヒートアイランド現象の影響で局地的豪雨や猛暑、干魃(かんばつ)などの極端な気象が頻発する傾向が顕著になっているからだ。

一般の家庭では、どんな対策ができるのか。たとえば地震を想定した避難訓練でも、「台風のときも避難できるか」「土砂崩れや冠水の危険はないか」など風水害も視野に入れて、これまでの備えを見直すことが大切だ。

あらゆる複合災害に完全に備えるのは難しくても、こうしたイメージトレーニングが「想定外」をなくすことにつながる。

災害情報を軽視しないこと、また災害時に情報に頼り過ぎないことも、家族で確認したい。

東日本大震災で大津波警報が住民避難に十分に結びつかなかった反省から、気象庁は8月30日から「特別警報」の運用を始めた。自然災害による重大な被害の恐れが高まったとき、危険な状況をより強調して伝えるためだ。

しかし、災害心理学では、非日常的な状況に直面すると、事態を過小評価して日常的にふるまおうとする「正常化の偏見」という心理が働くという。この心理に打ち勝つためには、情報軽視を強く戒め、危険を正しく認識する訓練を積まなければならない。

東日本大震災では、地震発生から大津波が到達するまでの数十分から1時間程度の間、現代の情報通信網は十分に機能しなかった。そもそも、混乱した状況下では、外部からの正確な情報は得にくくなると考えるべきだろう。

一人一人の命を守るのは、自らの判断力と行動力だ。それを養う防災教育の重要性を、児童・生徒の犠牲者を出さなかった「釜石の奇跡」が物語っている。

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