◆緊急事態に備える国家戦略を
9月1日は、防災の日だ。全国各地で防災訓練や関連行事が予定されている。災害対策を総点検する必要がある。
東日本大震災からの復興は道半ばだ。今夏は記録的な豪雨による被害も各地で相次いだ。地震や津波、豪雨、火山噴火……。様々な事態を想定し、「減災」に取り組まねばならない。
◆関東大震災から90年に
きょうは、10万人もの犠牲者を出した関東大震災からちょうど90年の節目でもある。
発生時は昼食の少し前で、火を使っていた家庭が少なくなかった。家屋倒壊と強風で火の手が広がった。行政施設や橋も多くが焼失し、避難や救援を妨げた。断水のため、消火活動も遅れた。
犠牲者の9割が火災で亡くなったという。建造物の耐震化と、火災が起きても容易に延焼しない街づくりの大切さを物語る。
だが、いまだに都市部に木造住宅の密集地が多い。路地が狭く、消防車が入れない地区もある。
安倍内閣は、内閣官房に「国土強靱化推進室」を設け、防災・減災策の立案や調整をしている。国土強靱化基本法案も次期国会で成立を図る方針だ。
首都直下地震と、静岡県沖から九州までを襲う南海トラフ巨大地震については、特別措置法を制定し、対策を特に充実させる予定だ。立法を急いでもらいたい。
災害に強い街をどう作るか。東日本大震災の際、首都圏で500万人に上った帰宅困難者対策も重要だ。政府は、公共事業のバラマキにならぬよう、効率的に対策を講じねばなるまい。自治体や民間事業者との連携も欠かせない。
◆国の役割強めた災対法
災害法制の根幹である災害対策基本法(災対法)は、災害対策の一義的な責務は市町村にあると規定している。都道府県は市町村を支援し、国がさらに補う。広範囲に市町村が壊滅した東日本大震災では機能しない構造だった。
政府は大震災後、災対法を2度改正した。ポイントは国の役割を強めたことにある。市町村が機能しない場合、国が応急措置を代行する。国や都道府県は、被災自治体の要請を待たずに、独自の判断で救援物資を供給できる。
災害時の避難対策も強化した。市町村に対し、高齢者、障害者など災害弱者の個人情報を集めた「避難行動要支援者名簿」の作成を義務づけた。
名簿は、作成されていても名前の掲載率が低いなど、有効性に疑問符がついていた。自治体が名簿掲載に本人同意を求める個人情報保護条例を配慮し過ぎるからだ。緊急時に役立つ名簿にしたい。
一方、災害救助法には、都道府県が避難所、仮設住宅などを提供する「現物給付の原則」がある。被災地では、民間から借り上げた「みなし仮設」住宅を活用するうえで、この原則こそが障害になっているとの不満が強い。
みなし仮設の対象には独力で住宅を借りた場合も含まれるが、契約を結び直すなど、行政手続きは煩雑だ。運用を柔軟にすることにも配慮すべきだろう。
被災地の要望を踏まえ、罹災判定、生活再建支援金といった支援制度が使いやすくなるよう見直してほしい。
こうした現行法の枠組みだけで、未曽有の巨大災害にも、政府は迅速かつ的確に対処できるのだろうか。
政府の防災対策推進検討会議は昨年7月、「国家として存立していくための対策が不可欠」とする最終報告書をまとめた。
災対法には、首相が「災害緊急事態」を布告できるとの規定がある。国会閉会中などに限られ、緊急政令も生活必需物資の配給や物価統制などに限定されている。
報告書は、帰宅困難者対策や治安維持にも緊急措置を拡大することの必要性に言及した。首都直下地震で国会が動かない状況下での対応も検討を促している。
だが、この点での改正は見送られた。憲法に抵触しかねない、と議論を避けた面は否めない。
◆未曽有の危機想定して
人命救助を最優先するには、居住や移転の自由、財産権など基本的人権を一時的に必要最小限の範囲で制限することはあり得る。
ほとんどの国の憲法が「緊急事態条項」を備え、国の対処を規定している。やはり、憲法改正が必要だ。時間がかかるというなら、かつて自民、公明、民主の3党が議論した「緊急事態基本法」の制定を再検討すべきではないか。
災害のたびに対応が後手に回る事態を繰り返してはならない。国家戦略の観点からも、災害法制のあり方を見直すことが肝要だ。
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