混迷エジプト 革命を葬り去るのか

朝日新聞 2013年08月23日

混迷エジプト 革命を葬り去るのか

エジプトは、独裁時代へ逆戻りしているように見える。

軍が主導する暫定政権は7月の政変後、全国で抗議を続ける「ムスリム同胞団」への締めつけを強めている。団長らを拘束したうえ、解散命令の検討も始めた。

憲法改正の論議では、イスラム主義を掲げる政党を排除する方向が強まってきた。事実上の同胞団の非合法化である。

一方で、暫定政権は、司法とともに旧体制派の復権を進めている。独裁の座を追われ訴追されていたムバラク元大統領は、保釈された。

そもそも2年前の民衆革命がめざしたものは何だったのか。それは、自らの文化と風土にあったエジプト流の民主主義を国民の手で築くことであろう。

この国は古代から現代まで、王政、異民族支配、独裁の歴史しか知らなかった。それがいま初めて国民主権の政治をめざす長い模索の過程に入った。

当然、変革をめぐる急進派と保守派のせめぎ合いはあろう。混乱を避けるために、時には旧体制の手法の踏襲も必要かもしれない。だとしても、忘れてはならない原則があるはずだ。

人命と人権の尊重。真の国家統合へ向けた対話と和解。それなしには、安定した民主大国への道は遠いことを、暫定政権は自覚する必要がある。同胞団への敵視をやめて、各派と対話を始めなければならない。

アラブ世界では長年、少数のエリート層が富を独占し、多くの貧困層がイスラム運動に救いを求めてきた。政治からの宗教色の排除は、独裁者が大衆蜂起を封じる方便に使ってきた。

イラクのフセイン元大統領やシリアのアサド大統領らも、世俗的な統治でナショナリズムをあおるのが常だった。各宗派や民族との公正な対話を封印した禍根の大きさは、独裁が揺らいだ後の内戦が物語る。

エジプトの暫定政権に対し、米欧は自制を求めているが、逆にサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)は巨額の経済支援を申し出た。いまも独裁体制を守る両国はイスラム運動の飛び火を恐れているからだ。

だが、エジプトの暫定政権が、旧体制への回帰をめざすなら、それは混乱を長引かせる愚行というほかない。前政権の経済失政などからクーデターを黙認した若者らや知識層も、時計の針を戻すことは許すまい。

イスラム運動を包含しつつ、民主主義を育てたトルコの例もある。暴力も排斥もない、アラブの盟主にふさわしい新生国家づくりを見せてほしい。

毎日新聞 2013年08月25日

エジプト情勢 強権で安定は得られぬ

2年半前、エジプトの民衆革命でムバラク政権が崩壊した時、この国の大きな目標は、すべての勢力が参加する議会制民主主義の定着だったはずである。だからこそ、日本を含めて国際社会がエジプトの再出発を祝福し支援した。だが、初めて民主的な選挙で選ばれたモルシ大統領はクーデターにより1年で失脚し、暫定政権は今、モルシ氏の支持母体であるイスラム組織・ムスリム同胞団の幹部を大量に拘束している。

国際社会が憂慮するのは当然である。モルシ政権が善政を敷いたとは言えないが、民選大統領を軍事力で追い出すこと自体問題だし、軍と暫定政権が同胞団を封じ込めようとすれば、全勢力の参加というかつての大きな目標は遠のくばかりだ。

暫定政権に尋ねたいのはこの点である。強権的に反対勢力を排除すれば一時的な平穏は得られよう。だが、それは民主的ではないし、政治に参加していたイスラム勢力を押しのけるのは国民の分断にもつながる。排除の論理に走れば国の長期的な安定は実現できないはずである。

折も折、22日には汚職などの容疑で拘束されていたムバラク元大統領が保釈された。元大統領は空軍出身。他方、モルシ氏は欧米などの釈放要求にもかかわらず1カ月半余り拘束が続いている。こうした状況は、独裁時代に逆戻りしたような息苦しさを感じさせる。

国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ前事務局長に対する刑事告発を、司法当局が受理したのも理解に苦しむ。ノーベル平和賞受賞者の同氏を副大統領に据えたのは暫定政権にとってプラスだった。なのに同氏が強硬路線に抗議して辞任すると、国の信用を失墜させたとして刑事責任を問うようでは、ご都合主義のにおいが否めない。

暫定政権は軍の力で正面突破を狙っているようだが、力に頼れば反動も避けられない。23日のデモは大きなうねりにならず、同胞団の動員力の衰えを感じさせた。だが、仮に同胞団や同胞団系の政党を非合法化して政治参加の道を閉ざせば、過激な分子は地下活動に走りテロなどの続発も予想される。それはエジプトの歴史を見れば明らかである。

暫定政権の強気の背景にはサウジアラビアなど湾岸の王制・首長制国家が巨額の財政支援を約束したことも挙げられよう。だが、これらの国々は民主化に熱心とは言えず、常にイスラム勢力の動きを警戒している。モルシ政権の崩壊は自国の政権維持に好都合なことだろう。

こうした国々と欧米や日本の価値観は異なる。暫定政権はむしろ、自分たちに批判的な国々の理解を得るよう努力すべきである。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1505/