南北対話 核廃棄まで制裁は緩めるな

朝日新聞 2009年08月28日

南北対話 「核」の進展あってこそ

北朝鮮との和解と共存を目指した金大中元大統領の思いが通じたのだろうか。その死去を機に、韓国と北朝鮮の対話が復活した。

金正日総書記は側近を名代として弔問に送り、李明博大統領が会談に応じた。いま、南北離散家族の再会事業の2年ぶりの実施へ、双方の赤十字が協議を続けている。人道問題が進展を見せ、李政権が発足して以来、悪化する一方だった南北関係の空気が変わるきっかけになるなら好ましい。

核実験で国連安全保障理事会が制裁を科して以来、北朝鮮は反発を強め、南北間で軍事衝突も起きかねない緊迫した状況にあった。

北朝鮮は今月、クリントン元米大統領の訪朝を受け入れ、不法入国したとして懲役刑を科した米人記者2人を釈放してもいる。拘束していた韓国の会社員も解放した。昨年から中断している金剛山と開城への観光も、再開させる用意があるという。

こうした「微笑外交」には思惑がある。金総書記の後継体制を固めるには、経済的な成果も必要だ。観光再開や韓国が投資する開城工業団地の活性化は、貴重な外貨稼ぎの一助になる。韓国を引き込むことで、米朝協議を実現させる誘い水にもしたいのだろう。

だが、北朝鮮が核の放棄に向けて何の動きも見せないまま状況を変えようとしても、とうてい受け入れることはできない。

金大中時代の「太陽政策」の時とは違って、北朝鮮はその後2度の核実験を行い、弾道ミサイルの開発を進め、シリアやミャンマーへの核技術の拡散疑惑まで表面化した。事態ははるかに深刻になっている。

その意味で、北朝鮮が核放棄に動いてこそ大規模な経済協力ができる、と李大統領が弔問団にはっきりとクギを刺したのは当然のことだ。

今回、弔問団が李大統領に伝えた金総書記のメッセージに新味はなかったという。離散家族の再会や観光の再開にしても、北朝鮮側には大きな負担感もなしに実現できるものだ。譲歩と言えるものではあるまい。

6者協議の議長である中国外務次官が先週訪朝し、協議への復帰を求めたのに対し、北朝鮮は改めて拒否した。核放棄、不拡散に向けた国際社会の要請に全く応えようとしていないと言うしかない。

少なくとも6者協議の場に戻り、以前の約束を履行する姿勢を明確にしない限り、基本的な状況に変化はありえない。それを北朝鮮は認識すべきだ。

この基本線で日米韓が結束を固めることだ。そして中ロとも連携を深めていく。間もなくできる日本の新政権は、北朝鮮の変化に目をこらしつつ、したたかで腰をすえた外交を考えなければならない。

読売新聞 2009年08月26日

南北対話 核廃棄まで制裁は緩めるな

核廃棄をめぐる協議の再開につながると見るのは早計に過ぎよう。対話攻勢を強めている北朝鮮の真意を、慎重に見極めなければなるまい。

離散家族の再会実現に向けた南北赤十字会談が、北朝鮮の金剛山で始まる。韓国側の開催提案に北朝鮮がこたえた。昨年2月に李明博・韓国政権が発足して以来、初めての赤十字会談である。

北朝鮮は、保守政権の李大統領を「逆徒」などと誹謗(ひぼう)し、一切の対話を拒んできた。今回の赤十字会談を機に、韓国との政府間対話や、核廃棄に向けた6か国協議の復帰に動くのか。今後の北朝鮮の態度を注視する必要がある。

8月に入り、北朝鮮はそれまでの強硬姿勢から一転して、対話姿勢に出ている。

金正日総書記が、2人の米女性記者の解放を求めて訪朝したクリントン元米大統領と会談し、解放を命じた。続いて、韓国の現代グループ会長が訪朝したのを機に、拘束していた韓国人社員の解放や観光事業再開などを発表した。

金大中元大統領の死去も、北朝鮮の対南“接近”に大きな弾みをつけた。異例の弔問団を派遣し、李大統領との会談では、関係を改善したいという金総書記からのメッセージを伝えたという。

普段の敵対的な態度から手のひらを返したような変貌(へんぼう)ぶりだ。

北朝鮮が下手に出てきたのは、国連安全保障理事会の制裁が効いた結果でもあろう。ミサイルや核開発につながる懸念のあるカネ、モノ、人の出入りを遮断され、窮したあげく「人道的な支援」を韓国に期待しているフシがある。

李大統領は、北朝鮮の弔問団に韓国の「一貫した確固たる政策の原則」を説明し、金総書記への伝達を要請したという。大規模な支援実施は北朝鮮の核放棄が前提、という立場は堅持した形だ。

北朝鮮は、6か国協議をボイコットすることで、その共同声明で自ら宣言した「核放棄」の約束を反故(ほご)にしようとしている。

国際社会は、核保有の既成事実化を決して許さぬよう、厳しく対処すべきだ。北朝鮮が核放棄へ具体的な措置をとるまで、圧力は緩めてはならない。

韓国には、北朝鮮を政府間対話に引き出す狙いから、金剛山観光の再開問題をテコに使う思惑があるようだ。米国も、「安保理制裁決議には抵触しない」として容認する見解を初めて表明した。

だが、核やミサイル開発の貴重な資金源になりかねない。実施に際しては慎重な対処が必要だ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/15/