原子力機構の改革 まず無責任体質の一掃だ

毎日新聞 2013年08月14日

原子力機構改革 これでは「居直り」だ

高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)を運用する日本原子力研究開発機構の改革案を、文部科学省がまとめた。もんじゅで昨年秋に発覚した約1万個の点検漏れを受け、同省は「血を入れ替える抜本改革」を図ったというが、組織の一部スリム化を中心とした、小手先の改革にとどまっている。本来なら、今後のエネルギー政策の中で、核燃料サイクルをどう位置づけるのかを議論した上で、もんじゅ廃止も含めた改革を進めるのが筋だ。これでは、もんじゅの存続を前提とした「居直り」の改革案と言わざるを得ない。

機構は年間予算約1800億円、職員約3900人の巨大組織だ。

改革案では、核融合研究部門などは機構から切り離し、もんじゅを中心とした核燃料サイクルの研究開発▽東京電力福島第1原発事故への対応▽原子力安全研究▽人材育成−−の4分野に業務を重点化する。職員も500人程度減らす。

もんじゅは理事長直轄の「もんじゅ発電所(仮称)」とし、運転管理に専念する組織にする。だが、渉外業務などにあたる支援組織を別に設けるので、もんじゅ関連スタッフはむしろ増える。また、民間発電所の幹部経験者を安全担当役員に迎え、電力会社からの出向者を責任部署に配置する。一方で、中堅職員を鉄道や航空会社に派遣し、人命を最優先にした業務運営を学ばせるという。

民間活力の導入で組織の立て直しを図る狙いがある。しかし、過去にもトラブルが起きるたびに言われてきたことで、なんら新味はない。

原子力規制委員会は今年5月、点検漏れを起こした機構の「安全文化の劣化」を指摘し、もんじゅの運転再開準備を禁じた。過去の改革の失敗をきちんと総括しないまま、民間の協力を求めても、安全文化が身につくわけがない。監督官庁である文科省の責任も重い。

そもそも、政府が掲げる核燃料サイクル政策は既に破綻している。

要の施設となるはずだったもんじゅには、1兆円以上の予算が投じられたが、実用化の見通しは立っていない。直下を活断層が通る疑いもある。停止中でも維持費などに年間約200億円もかかっている。先進国の多くは、開発から撤退した。

もう一つの要である使用済み核燃料の再処理工場(青森県)も、完工の延期が繰り返されている。

福島第1原発事故から2年半近く。福島県では約15万人がいまだに県内外で避難生活を送り、第1原発では放射性汚染水との闘いが続く。もんじゅの存続にこだわるより、事故への対応や廃炉、安全研究に機構の業務を集約する方が、よほど日本の将来のためになるはずだ。

産経新聞 2013年08月14日

原子力機構の改革 まず無責任体質の一掃だ

これで抜本的な改善ができるのか。またもや看板の掛け替えだけで終わるのではないか。

日本原子力研究開発機構の組織改革案についての危惧である。

原子力機構は4千人の職員を擁し、核燃料サイクルや核融合などの研究開発に当たるわが国の原子力の総本山だ。

今回の組織改革は、核燃料サイクルの中核施設である高速増殖原型炉「もんじゅ」で1万点を超す機器の点検漏れが発覚したことなどを機に、文部科学省の陣頭指揮で着手された。

改革の柱は、組織の分割だ。原子力機構から核融合などの部門を切り離し、別の研究機関に移管する。残ったもんじゅなど核燃料サイクル関連の部門が、原子力機構の主体となる。こうした措置で主要業務を、もんじゅとその関連分野に集約するという。

だが、これが実効ある改革なのか。原子力機構は、平成17年に核燃料サイクル開発機構と日本原子力研究所が統合された組織だ。それを以前の状態に戻すだけだ。

改革案では、組織変更に伴い原子力機構の名称も変える方針だが、安易な名称変更は目的を妨げることになる。なぜなら、核燃料サイクル開発機構の元の名前は、動力炉・核燃料開発事業団(動燃)であるからだ。

動燃は、7年に運転中のもんじゅでナトリウム漏れ火災事故を起こした上に虚偽報告で国民を欺いた。2年後にも別の火災爆発事故で虚偽報告を重ね、10年にサイクル機構に改称している。同時に業務のスリム化も行ったが、改革効果は出ていない。

肝心のもんじゅは、ナトリウム漏れ以来、現在までの約18年間、ほとんど動いていない。すでに1兆円の税金が投入されているにもかかわらず、実用化に必要なデータは得られていない。

燃やした燃料よりも多くの燃料を生む高速増殖炉は、資源小国の日本にとって待望の原子炉だ。過敏な金属ナトリウムを使う難しさを克服し、もんじゅを完成させなければならない。

必要なのは、責任感の欠如など旧動燃体質の一掃だ。この体質が大量の点検漏れにもつながった。看板の変更で糊塗(こと)されてきた組織の病根こそ直視すべきだ。

原子力機構の名称を変えるのなら、使命の原点への回帰を目指して「どうねん」だ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1499/