「米国と日本の関係は、例外なく、世界でもっとも大切な二国間関係である」
そう断じたのは、1988年までの11年余り、駐日大使として最長の任期を務めたマイク・マンスフィールド氏である。
大使になる前は、議会上院で民主党の最高幹部として16年間も率いた重鎮だった。
その後も、モンデール元副大統領、フォーリー元下院議長らが続いた。米駐日大使のポストは常に名誉ある重職である。
その次期大使に、オバマ大統領はキャロライン・ケネディ氏(55)を指名した。故ケネディ大統領の長女である。
暗殺の悲劇をくぐった名家の少女として知名度は抜群だ。ただ、詩集などの著述業や、ケネディ記念図書館館長などの肩書はあるが、政治経験はない。
そのため一部で不安がる声もある。日中の摩擦や経済問題などに対処できるのか、と。
だが、実はこの時代だからこそ、適した人選といえるのではないか。
日本研究の大家であるハーバード大学のボーゲル博士も、指名を支持する一人だ。
博士いわく、今の日米には、ライシャワー大使時代のような安保闘争の混乱も、マンスフィールド時代のような貿易戦争もない。米政財界は中国ブームに染まり、日本への関心が薄れている。米国の目を日本に引き寄せ、広い交流を促す魅力のある大使こそふさわしい――。
最近の世論調査によると、日米はともに80%超が相手に親近感を抱いている。政治や経済で折々の問題はあっても、スポーツ、文化、学界を含む結びつきは固く、広い。両国の絆の主役は今や広範な市民なのだ。
大使の資格を、政治経験に狭く限る理由はない。各論には専門の官僚がいる。むしろ、大局的な協調の価値に光を当て、活力を吹き込む。それが日米成熟時代の新たな大使像であろう。
今週離任したジョン・ルース前大使も政治は未経験の弁護士ながら、震災支援に奔走し、広島・長崎の原爆式典に米大使として初めて参列するなどの足跡を刻んだ。
ケネディ氏は政治に無縁だったわけではない。オバマ政権を生んだ08年の選挙に向け、「私の父のような大統領になれる」と支援の先陣を切り、時代の風を読む才をみせた。
日米間の多岐にわたる課題を新鮮な目で見すえ、率直な意見を聞かせてほしい。芸術や市民運動なども含め、父譲りのリベラルな発想で、新たな交流の地平を切り開いてもらいたい。
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