福島原発汚染水 国の主導で対策を急げ

朝日新聞 2013年08月09日

汚染水対策 東電処理策の見直しを

東京電力福島第一原発の汚染水問題で、政府が国費を投入して対策に乗り出す。

1日300トンの汚染水が海に流出している可能性があるという。対応が後手に回り続けている状況を見れば、東電に当事者能力がないのは明らかだ。

国が前面に出るのは当然だろう。遅すぎるぐらいだ。

もちろん、政府が主導すれば解決するという単純な話ではない。経験のない作業は、今後も困難を伴うはずだ。不測の事態も起こりうる。

あらゆる知恵とできる限りの技術を投入し、事態の深刻化を食い止める必要がある。

それには、現場で把握された情報が関係者の間で速やかに共有される体制が不可欠だ。

政府は実際の作業も東電任せにせず、状況を常に監視・把握し、関係機関や地元自治体などと連絡を密にしながら、必要な決断がくだせる仕組みを構築しなければならない。

もうひとつ、早急に取り組むべきは、東電の経営再建計画の抜本的な見直しである。

政府は汚染水対策の費用を来年度予算に盛り込むが、これは東電にのしかかる巨額の費用の一端にすぎず、その場しのぎの手当てでしかない。

事故処理、被災者への賠償・生活支援、除染、今後の廃炉にかかる費用をすべて東電に負担させる現在の枠組みは、とっくに行き詰まっている。

東電は、現行の経営再建計画に沿って、柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働まで申請しようとしている。福島の現状を考えれば論外だ。そんな余裕がどこにあるのか。

東電の責任は決して軽減されるべきものではない。ただ、能力をはるかに超えた負担を放置しておけば、かえって被災地の再建や首都圏の電力供給に支障が出かねない。

現行計画のどこに無理があるのか。今後どのような費用がどれぐらいかかり、誰がどう負担すべきか。現実を直視し、情報を公開しながら改めて議論し直すときだ。

いずれにせよ税金の追加投入は避けられないだろう。そうである以上、東電の破綻(はたん)処理という議論の原点に立ち返り、貸手である金融機関の責任などを問う必要がある。

あらためて、原発事故が国民生活に与える負担の大きさを思う。その厳然たる事実を踏まえれば、安倍政権が対処すべきことは明らかだ。

原発推進の姿勢を改め、原発を減らしていく道筋をはっきりと示すことである。

毎日新聞 2013年08月09日

福島原発汚染水 国の主導で対策を急げ

東京電力福島第1原発の放射性汚染水問題で政府は、来年度予算で国費を投入し、対策を講じる方針を固めた。東電任せの汚染水対策は破綻状態にあり、政府が対策を主導するのは当然である。決断は、むしろ遅すぎたくらいだ。ただし、事故責任は東電にある。国費の投入は、国民の負担で事故処理を実施することを意味する。無駄遣いは許されない。政府は汚染水処理対策の道筋や費用を明示し、情報公開を徹底して、国民の理解を得るよう努めるべきだ。

経済産業省資源エネルギー庁が7日に明らかにした試算によると、福島第1原発には1日1000トンの地下水が流れ込み、うち300トンが汚染水として海洋に流出している。外部の海洋に大きな変化は見られないが、2年前の事故直後から漏れていた可能性も否定できないという。

これほど重大な試算が今ごろ出てくること自体、事故がまだ収束していないことを如実に示している。

こうした状況も踏まえ、安倍晋三首相は「汚染水問題は喫緊の課題。東電に任せるのではなく、国として対策を講じていく」と述べ、茂木敏充経産相に早急な対策を指示した。

経産省が国費を投入する抜本対策として考えているのが、原子炉建屋を取り囲む形で地中に管を通し、氷点下数十度の冷却液を循環させて地盤を凍らせる「凍土遮水壁」だ。

1~4号機の建屋には1日約400トンの地下水が流入し、汚染水となっている。凍土壁で流入を阻止し、汚染水を減らす狙いだが、これほど大規模な工事は前例がない。整備費も400億円程度に上る見込みだ。政府や原子力規制委員会は、実施体制をきちんと監視する必要がある。

順調に工事が進んでも、運用開始は2015年の予定だ。このため、敷地海側での汚染水くみ上げや地盤改良工事、敷地山側に井戸を掘って流入前の地下水を海に流す「地下水バイパス」などが、緊急対策として実施、あるいは計画されている。

風評被害への懸念などから、地下水バイパスはまだ地元漁協の了解を得られていない。くみ上げた地下水の安全確認方法や海への放出について、茂木経産相は政府の汚染水処理対策委員会で検討を求めたが、最終的には政府による地元への丁寧な説明が必要ではないか。規制委は先月、汚染水について分析する作業チームの設置を決めたが、東電任せにしないことで、データの客観性を確保することにつながるだろう。

福島第1原発の廃炉作業は30~40年かかるとされる。汚染水問題を解決しない限り、廃炉も進まない。

政府や規制委は今後も廃炉作業の当事者として、積極的に対策に取り組んでもらいたい。

読売新聞 2013年08月10日

福島原発汚染水 政府関与を事態打開の契機に

東京電力福島第一原子力発電所での汚染水対策に、政府が積極的に関与することになった。

安倍首相は「喫緊の課題。東電任せではなく、国として対策を講じる」と表明した。汚染水の増加と海への流出で東電の対応が行き詰まっている以上、適切な判断だ。

政府が主導して、事態の打開を図らねばならない。

これまで政府は汚染水対策への直接関与を避けてきた。事故の当事者は東電、との理由からだ。

しかし、日を追うごとに汚染水問題の深刻度は増している。

原子炉建屋に地下水が流入している結果、放射性物質を含む汚染水は毎日400トンも増え続けている。東電は敷地内にタンクを設置して汚染水を貯蔵しているが、遠からず保管場所はなくなる。

対策を進める上で大きな問題は、敷地内に地下水がどう流れ込み、どこを通って汚染されているか、詳しい経路を把握できていないことだ。政府が先頭に立って解明にあたることが急務である。

海に流れ出ている汚染水は1日に100~300トンとされる。放射性物質は福島第一原発の港湾内にとどまっているものの、早急に流出を止める必要がある。

流出しているとみられるのは、護岸付近の溝にたまった汚染水だ。防止策として、汚染水をくみ上げて貯蔵する作業が始まっている。護岸沿いの地下を薬剤で固める作業も、ほぼ終了している。

護岸の先の海中に、遮水壁を設ける計画もある。汚染の拡散防止を期待したい。

流出防止とともに重要なのは、原子炉建屋に流れ込む地下水の量を減らすことだ。政府と東電は、流入前に地下水をくみ上げ、海に放出する方針を示している。

汚染水の急増を考えれば、安全を確認した地下水の海への放出はやむを得まい。政府と東電は、反対している漁業関係者の説得に全力を挙げるべきだ。

建屋周囲の土を凍らせて地下水を遮る工事も提案され、経済産業省が来年度予算に調査費を盛り込む方針だ。効果を見極めたい。

抜本的な対策は、原子炉からの水の漏出を止めることだ。放射線レベルは極めて高く、作業は容易ではない。漏出部の特定と閉鎖を実現するため、遠隔操作などの研究開発を着実に進めたい。

貯蔵されている汚染水の対策も忘れてはならない。政府は、安全基準以下まで浄化して海に放出することを検討中だ。東電は浄化装置の稼働を急ぐべきである。

産経新聞 2013年08月06日

原発汚染水 政府が前面に出て説明を

政府はいつまで傍観を続けるつもりなのか。

東京電力福島第1原子力発電所の放射能汚染水の問題だ。量は運転時の放出基準内だが、敷地から海への漏れが確認される事態となっている。

早急に漏出防止と汚染水減量に、実効的な手を打つべきだ。

第1原発では2年半前の事故以来、溶融した炉心を注水冷却する作業が続けられている。大破した原子炉の安定維持は、水との絶えざる闘いだ。1~4号機のタービン建屋の地階などには大量の汚染水がたまっている。

炉心に注ぐ水は濾過(ろか)、循環させて再利用しているが、原発の山側から流れてくる地下水が建屋の地階で汚染水と混ざって総量を増加させている。流入する地下水量は1日平均400トンだ。

東電は第1原発の敷地内にタンク群を設置して回収した汚染水を貯蔵することで対応しているが、タンクの増設にも限度がある。汚染水の増加を抑えるための抜本策が必要だ。

その有力手段の一つとして期待できるのが、地下水のくみ上げだ。建屋の手前に井戸を掘り、山側からの地下水が建屋に入って汚染水となる前に、バイパスさせて海に流せば汚染水の増加にブレーキがかかるはずである。

東電の見積もりでは、1日当たりの流入量を300トンまで減らせそうだ。くみ上げ井戸は4月中に12本が完成しているが、バイパス用には使われていない。

汚染前の地下水であるにもかかわらず、漁業関係者から風評被害を懸念する声が上がったためだ。5月中旬のことだった。

そうして足踏みしているうちに今回、海への汚染水流出が確認されるに至った。後手に回った感がある。漁民が不安を感じた段階で、政府が前面に出てバイパス計画の安全性と必要性について、しっかり説明すべきだった。

事故を起こした負い目のある東電のみの努力では、いくら誠意を尽くしても漁業関係者の同意は容易に得られない。安定政権の基盤を確保した安倍晋三首相には、汚染水問題の解決に指導力を発揮してもらいたい。

原子力規制委員会の動きも鈍い。処理で基準濃度以下となった汚染水の海洋放出は、第1原発の現実に照らして不可避である。国内外への説明に急いで取り組まなければ間に合わない。

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