集団的自衛権 まず人事権の行使とは

朝日新聞 2013年08月03日

集団的自衛権 まず人事権の行使とは

内閣法制局は、憲法のご意見番ともいえる行政組織である。安倍首相は、そのトップ人事に踏み切る方針を固めた。

今の山本庸幸長官に代えて、小松一郎駐仏大使をあてる。これまで一度も法制局の経験がない外務省出身者を、いきなり長官に起用するのは異例だ。

参院選の直後、首相は集団的自衛権の行使容認に向けた憲法の議論を再開すると表明していた。積極派の人物をここで登用する人事は、容認への布石であることは明らかである。

平和憲法の原則にかかわる問題の議論を始めようというときに、人事から着手する手法には危うさを感じざるをえない。これでは、丁寧な議論が成り立たなくなるのではないか。

同盟国が攻撃されたとき、日本が自らへの攻撃とみなして反撃行動に出ることができる。それが集団的自衛権である。

歴代内閣は、その行使は「認められない」という憲法解釈で一貫してきた。それを支えてきたのが法制局である。

憲法9条は、必要最小限度の武力行使しか認めていない。集団的自衛権の行使はその一線を越えている――。

法制局は長年そんな立場を崩さず、解釈見直しにブレーキをかけ、政府見解や国会答弁の整合性を保ってきた。

イラクへの自衛隊派遣で議論になった「非戦闘地域」などの概念は、時の政権が法制局と折り合いをつけるために編み出した苦肉の策だった。

集団的自衛権の議論を進めれば、いずれかの段階で法制局長官を代えざるをえない。政府内ではそんな見方が強まっていた。今回の人事は、これまで繰り返されてきた法解釈論争を、一足飛びに越えようとする狙いとも受け止められる。

新長官になる小松氏は、外務省で国際法局長もつとめた外交官。首相の外交顧問役である谷内(やち)内閣官房参与とも近い。

憲法の解釈変更に向けては、首相の諮問機関が近く論議を再開する。こちらも変更の容認派の顔ぶれが並んでいる。

いうまでもなく、これは専守防衛という日本の安保政策の基軸をめぐる論議である。その前段で、まず人事権を使って外堀を埋めておこうとするかのような手法は、乱暴ではないか。

政府内に異論があるなら、一層時間をかけ、幅広い議論を尽くしたうえで合意を築き、国民に説明するのが筋だ。

過去の政府見解との整合性を軽んじたり、きめの粗い議論に陥ったりしては、憲法や法体系の信頼が揺らぎかねない。

毎日新聞 2013年08月09日

集団的自衛権 なし崩しはいけない

安倍政権は、内閣法制局の山本庸幸長官を退任させ、後任に小松一郎駐仏大使をあてる人事を決めた。

内閣法制局は、政府の憲法や法令解釈を担い、「法の番人」とも呼ばれる。そのトップに外務省出身で法制局経験がない小松氏を起用するのは異例で、安倍晋三首相が集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈変更に踏み切る布石なのは明らかだ。議論が本格化する前に、まず長官を行使容認派に交代させるという荒っぽい手法に懸念をおぼえる。

集団的自衛権は、自国が直接攻撃されていなくても、自国と密接な関係にある国への武力攻撃を実力で阻止できる権利だ。政府は「国際法上保有しているが、憲法上行使は許されない」と解釈してきた。この解釈を担ってきたのが内閣法制局だ。

安倍首相は「財産に権利はあるが、自由にならないという、かつての禁治産者の規定に似ている」と不満を示し、解釈変更を目指してきた。

集団的自衛権の行使容認派には、そもそも内閣法制局の憲法解釈が違うのではないかという考え方や、安全保障環境や時代状況の変化に応じて解釈は変わり得るという考え方がある。

これに対して内閣法制局は、政権が代わるたびに憲法解釈が変われば法治国家として成り立たないとの考え方に立ってきた。必要ならば憲法解釈の変更ではなく、堂々と憲法9条の改正を国民に問うべきだとの意見もある。

さまざまな意見の対立がある中、首相は反対派を説得するよりも、容認派を要所に配置して突き進もうとしているようにみえる。

今年2月に再発足した政府の有識者懇談会・安保法制懇も、首相の考えに近い学者らが集められた。参院選などで中断していたが、近く議論を再開し、年内にも集団的自衛権の行使を容認すべきだとの報告書を出す見通しだ。第1次安倍内閣で設置された懇談会の提言よりも、幅広く行使を認める報告書を出しそうだという話もある。

それを踏まえて政府は憲法解釈の変更を閣議決定し、早ければ来年の通常国会に関連法案を提出するとみられる。

国の安全保障は国民の理解なしには成り立たない。その根幹をなす変更が行われようとしているのに、議論は国民の目になかなか見えてこない。参院選でも、首相は慎重姿勢を示す公明党に配慮したのだろうか、集団的自衛権の問題にあまり触れようとせず、議論は深まらなかった。

首相が行使容認を目指すのなら、なし崩しに進めるのではなく、異なる立場の意見にも耳を傾け、合意を得る努力を惜しむべきでない。

読売新聞 2013年08月09日

小松法制局長官 集団的自衛権見直しの布石に

集団的自衛権に関する政府の憲法解釈の変更を目指す安倍首相の強い意向を端的に示した、画期的な人事である。

内閣法制局長官に、小松一郎駐仏大使が就任した。条約課長、国際法局長を歴任したとはいえ、外務省出身者が長官に起用されたのは初めてだ。

小松氏は「集団的自衛権を有しているが、必要最小限度の自衛を超えるため、行使できない」とする政府解釈の見直しに前向きだ。集団的自衛権の行使容認へ首相主導で布石を打ったと言える。

内閣法制局は、政府提出法案の審査や憲法解釈を所管しており、「法の番人」と呼ばれるが、内閣の一機関でもある。

安全保障環境の変化に応じて、必要な政策を実行するため、解釈変更を検討するのは当然だ。小松氏も、解釈変更について「内閣全体で考えることだ」と語った。

近年、東アジアの安全保障情勢は急速に悪化している。日本の平和を確保するには、集団的自衛権の行使を可能にし、日米同盟や国際連携を強化する必要がある。

集団的自衛権の見直しについては、政府の有識者懇談会が年内にも提言をまとめる予定だ。

ミサイル防衛、米艦防護など従来の4類型に加え、偽装漁民による離島占拠のような有事に至る前の自衛隊の武器使用といった課題を総点検してもらいたい。

集団的自衛権は、国際法上、どの国にも認められている。この権利が行使できないと、周辺国以上の軍備を単独で持たなければ、自国の安全を確保できず、かえって軍拡競争を招きかねない。

まず集団的自衛権の行使を容認したうえで、実際に自衛権を行使するかどうかは、政府がその時点における内外の情勢を総合的に勘案し、判断すればいい。

他国の領土への侵入や攻撃はしないなど、一定の歯止めは必要だろう。内閣の交代のたびに、憲法解釈が変わるようでも困る。

国会としての意思を示し、法的安定性を担保するため、解釈変更に加えて、安全保障基本法を制定することが望ましい。

当面の課題としての解釈変更へのハードルも決して低くない。

法制局長官の交代だけで、過去の膨大な国会答弁の積み重ねがある法制局の見解を簡単に変更できる訳ではない。新たな政府解釈に説得力ある理論構成が必要だ。

解釈変更への反対を明確にした公明党との調整も課題だ。政府・与党内で議論を重ね、接点を見いださなければならない。

産経新聞 2013年08月09日

集団的自衛権 「不退転」で行使容認急げ 日米安保体制の強化優先を

集団的自衛権の行使に関する政府解釈の見直しへ向け、安倍晋三首相が大胆かつ周到に環境を整えつつある。新しい内閣法制局長官に、行使に前向きな小松一郎駐仏大使を起用することを閣議決定した。首相の不退転の決意を示すものとして歓迎し支持したい。

新長官に求めたいのは、集団的自衛権について「国際法上は保有するが、憲法上は行使不可」としてきた、内閣法制局の憲法解釈の早急な変更である。

中国の海洋進出攻勢など、周辺の安保環境が厳しさを増す中で日本が生き抜くには、集団的自衛権の行使を認めて日米安保体制を強化するしかない。憲法解釈残って国滅ぶ、になってはならない。

≪先例の墨守と思考停止≫

法制局内部の抵抗が予想されるが、行政権は内閣に属する。法制局には、内閣の補佐機関であるとの自覚と国際認識を求めたい。

首相は、解釈見直しを進めている「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」を月内にも再開させ、年内に報告書を受ける。首相はこう表明すればよい。集団的自衛権の行使は「自衛のための必要最小限度の実力行使」に含まれる、と。これまでも憲法解釈は随時、変更されている。首相の覚悟と決断によって日本の平和と安全は間違いなく守られる。

政府解釈が確立されたのは鈴木善幸内閣の昭和56(1981)年5月の政府答弁書だ。「わが国は国際法上、集団的自衛権を有するが、わが国を防衛する必要最小限度の範囲を超えるため、憲法上その行使は許されない」とした。

法制局はこれ以降、「歴代法制局長官が答弁を積み重ねてきた」「政策のために解釈を変更することは憲法を頂点とする法秩序の維持からも問題がある」と主張してきた。解釈変更への抵抗ぶりは、第1次安倍内閣で見直しを検討した首相に、幹部の集団辞任も示唆したことなどに表れている。

だが、実際は時代により変遷している。33年10月には、林修三法制局長官が岸信介首相と協議し、「日本にも制限された意味での集団的自衛権もある」と、合憲とする統一解釈を決めている。

林氏はその2年後、「集団的自衛権を私は日本の憲法は否定しておるものとは考えません」と答弁した。岸首相も同じ時期、「一切の集団的自衛権を憲法上持たないのは言い過ぎ」と述べた。

日本が新旧の日米安保条約と、日ソ共同宣言において3度も「個別的及び(又は)集団的自衛の固有の権利を有する」とうたってきた経緯があったからだ。

注目したいのは、日本が独立した1年ほど前の26年4月、外務省は吉田茂首相の了承を得て、日本は集団的自衛権を発動して沖縄防衛に協力するという文書を米側に提出していることだ。

≪時代により解釈変遷も≫

日本は当時、米国統治下の沖縄に個別的自衛権を発動できず、せめて米国と集団的自衛の関係を設定して、沖縄の守りに関与したいという苦心の提案だった。

47年に沖縄が返還されると個別的自衛権で対処できるようになり、集団的自衛権を考える必要がなくなったことも、現行解釈の背景にはあったといえよう。

憲法9条でさえ、政府は自衛隊発足に伴い、「戦力は持てない」から、「自国を守るために最小限度の自衛のための実力」は保持できる、という解釈に変更した。

「先例墨守や思考停止の弊害に陥ることなく、憲法規定を虚心坦懐(たんかい)に見つめ直す必要がある」。第1次安倍政権が発足させた先の懇談会が5年前にまとめた報告書は、名指しを避けながらも法制局の問題点を鋭く突いている。

法制局はそれほどまでに硬直化した対応を取ってきた。国家の責務は国民の安全と国益を守ることであり、政府解釈の柔軟な見直しもその延長線上にある。

外務省の国際法局長などを歴任した小松氏は、法制局勤務の経験はない。長官には次長が昇格することが慣例化してきたようだが、法制局を根本から立て直すには外部から人材を登用するしかない、と首相は判断したのだろう。

菅義偉官房長官は小松氏について「国際法の分野をはじめとする豊富な知識と経験を持っている」と語った。手腕を期待したい。

内閣が与党とともに行使容認に踏み切り、日米が同盟国としてともに守り合う関係になることで、日本の未来も切り開ける。

産経新聞 2013年08月06日

集団的自衛権 「行使」へ与党内調整急げ

小野寺五典防衛相が年末に改定する「防衛計画の大綱」に、集団的自衛権の行使容認に関する政府の有識者懇談会の提言内容を反映させる意向を示した。

政府内には行使容認を来年以降に先送りする考えもあったが、防衛相が新たな政策判断を年内に示す姿勢を明確にした点を評価したい。安倍晋三首相はさらに行使容認の必要性を国民に説くとともに、公明党の合意取り付けを急いでもらいたい。

有識者からなる「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の柳井俊二座長はNHK番組で、年内にも行使容認を提言する方向となっていると述べた。これを受け小野寺氏が「さまざまな政府の方針が来て初めて大綱を作れる。(政府内で)スケジュール感は共有している」と語ったものだ。

日米同盟をより機能させ、中国や北朝鮮への抑止力を高めるために、集団的自衛権の行使容認は待ったなしの課題となっている。

有識者懇談会が行使容認を提言した後、安倍政権は「保有するが行使できない」としてきた政府の憲法解釈の見直しに、どのように踏み込むのか。防衛力整備の長期指針となる防衛計画大綱に、重要な政策転換を反映させるのは当然といえよう。

問題は、連立を組む公明党が行使容認に強く反対する姿勢を崩していないことだ。山口那津男代表は、行使容認に踏み切れば連立を解消する可能性にも言及して自民党を牽制(けんせい)している。

東アジアの安全保障環境をみれば、日本だけが集団的自衛権の行使は認められないという憲法解釈を続けていては、平和を保てないことは明らかだろう。柳井氏は「今までの政府見解は非常に狭すぎて、憲法が禁止していないことまで自制している」と、抑止力が働かない現状を指摘した。

公海上で攻撃されている米艦船を、自衛隊が座視して反撃しなければ、日米同盟は危機に瀕(ひん)するだろう。サイバー攻撃への対応でも、日米間の協力推進に集団的自衛権が深く関わってくる。

安倍首相は、7月のシンガポールなど東南アジア歴訪で各国首脳に対し行使容認の検討状況を説明して理解を求めた。内閣法制局長官も政府解釈の見直しに前向きな小松一郎駐仏大使へ交代させる意向だ。こうした積極姿勢を生かしてもらいたい。

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