原爆忌 一段と高まる核兵器の脅威

毎日新聞 2013年08月06日

原爆の日 人類の教訓語り継ごう

広島は6日、長崎は9日に「原爆の日」を迎える。被爆から68年。全国の被爆者の平均年齢は78歳を超え高齢化が進む。私たちはヒロシマ、ナガサキの被爆体験をしっかりと継承し、核廃絶を目指す国際世論を広げていきたい。

先月、「ノーモア・ヒバクシャ」というメッセージを世界に訴えた長崎の被爆者、山口仙二さんが亡くなった。昨年12月には、広島での被爆体験を基に漫画「はだしのゲン」を描いた中沢啓治さんが死去した。平和運動をリードした被爆者の死が相次いでいる。私たちは被爆体験の継承という課題と向き合わねばならない時代を迎えている。

被爆者たちの思いは確かに伝わっている。「はだしのゲン」は英語をはじめ約20カ国語に訳されて読み継がれている。広島と長崎では被爆体験伝承者や体験記の朗読ボランティアの養成など、語り継ぐ人材を育てる取り組みも進んでいる。

世界には約1万7000の核兵器があると推計される。簡単に人類を破滅させられる量だ。オバマ米大統領は2009年のプラハ演説で「核兵器のない世界」に向けて行動すると言明し、今年6月には米国が配備する戦略核兵器をさらに3分の1減らす考えを示した。だが北朝鮮やイランなど核開発を進める国もあり、核の脅威はむしろ強まっている。

だからこそヒロシマとナガサキの訴えはより重要性を増している。広島、長崎両市が20年までの核兵器廃絶を目指して呼びかけた世界平和市長会議に加盟する自治体は昨年より約400増えて5700を超えた。広島で開かれている今年の総会は、核兵器禁止条約の早期実現に向けた取り組みを強めることを決めた。

一方、日本政府の姿勢は消極的だ。4月にジュネーブで開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議の準備委員会で「核兵器がいかなる状況下でも二度と使われないことが人類生存のためになる」とした共同声明に80カ国が賛同したが、日本は「いかなる状況下でも」という文言の削除を求めて賛同しなかった。

長崎市の平和祈念式典で読み上げられる平和宣言は、政府が共同声明に賛同しなかったことは被爆国として矛盾する行為だと指摘する。広島市の平和宣言は、政府が核兵器廃絶を目指す国々と連携を強化するよう求める。安倍政権はこうした声を受け止め、被爆国としての明瞭なメッセージを世界に発信してほしい。

広島と長崎の被爆体験は人類全体への教訓であり、日本は世界に伝えていく責任がある。核兵器の脅威をなくすためには核廃絶しかないという原点を見失わず、「核なき世界」へ一歩ずつでも前進したい。

読売新聞 2013年08月06日

原爆忌 一段と高まる核兵器の脅威

広島は6日、長崎は9日に、それぞれ68回目の原爆忌を迎える。

唯一の被爆国として、いかに原爆の惨禍を語り継ぎ、非人道的な核兵器が二度と使用されないよう世界に訴えていくか。被爆者の平均年齢は既に78歳を超えた。

広島市の松井一実市長は、きょうの平和記念式典で発表する平和宣言で、2020年までの核廃絶に全力を尽くすことを誓う。

しかし、世界の現状は厳しく、廃絶へのハードルは高い。

冷戦時代のピーク時に世界で計約7万発もあった核兵器は、米露核軍縮交渉で大幅に削減されたものの、なお1万7000発以上も残っているとされる。

今年6月、オバマ米大統領はベルリンで演説し、米露が配備している戦略核弾頭数を現在の3分の2程度にまで、それぞれ削減することを提案した。着実に推進してもらいたい。

無論、核軍縮は米露だけの問題ではない。中国など他の核保有国も積極的に取り組むべきだ。

米露英仏中の5か国以外の核保有を禁止した核拡散防止条約(NPT)体制に、ほころびが目立つようになって久しい。

特に懸念されるのは、核保有の既成事実化を図る北朝鮮の動向だ。昨年12月の長距離弾道ミサイル発射に続き、今年2月には3回目の核実験を強行した。米本土に届くミサイルと、搭載可能な小型核弾頭の開発を急いでいる。

北朝鮮が実戦配備中の中距離弾道ミサイル「ノドン」は、日本のほぼ全域を射程に収める。核弾頭が完成すれば日本が先制核攻撃の標的となる確率は小さくない。

自民党などで、自衛のために相手国のミサイル基地などを攻撃する「敵基地攻撃能力」を保持すべきだという議論が起きているのはそのためである。

米韓や中露と連携し、北朝鮮に対しても核放棄をねばり強く求め続けねばならない。

日本の安全保障政策の根幹にある米国の「核の傘」の重要性も高まっていると言えよう。

米政府は3年前から、米国内の核施設の一部を日本政府に開示するようになった。

核抑止をめぐる日米協議の進展は、日米同盟を機能させる上で必須である。抑止力政策の強化にもつながる。

広島、長崎の惨状を訴える一方で、周囲の核脅威には米国の核で安全を担保する。それが、被爆国であり、非核保有国としての日本が取り得る現実的選択である。

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