天皇の特例会見 誤解招かぬ慎重さを

朝日新聞 2009年12月17日

天皇会見問題 政治主導をはき違えるな

天皇陛下と中国の習近平国家副主席の会見に対し、宮内庁長官が政府の方針に異議を唱えたいのなら、辞任してからにすべきなのか。

民主党の小沢一郎幹事長が「辞表を提出した後に言うべきだ」と、記者会見で羽毛田信吾宮内庁長官の行動を激しい言葉で批判した。

政府が外国要人を天皇と会見させたい場合、1カ月前までに宮内庁に申し入れるのが慣例なのに、今回は1カ月を切っていた。だから宮内庁は断ったが、平野博文官房長官が鳩山由紀夫首相の意を受けて「日中関係の重要性にかんがみて」と重ねて要請し、実現させた。そんな経過をたどった。

論争の焦点は、憲法である。羽毛田氏は、政府の対応は憲法に照らして問題ありとの立場だ。

「国政に関する権能を有しない」象徴天皇の国際親善は、政治とは切り離して行われるものだ。そのために、相手国の大小や重要性で差をつけず「1カ月ルール」で対応してきた。中国は大事だからとそれを破るのでは天皇の政治利用になりかねない、と訴える。

1カ月を切れば政治利用で、それ以前ならそうではないのか。習氏の訪日自体は前から分かっていたろうし、政府の内部でもっとうまく対処できなかったのか。首をかしげたくなる点もないではない。

それでも羽毛田氏にとって、いわば政治の横車で1カ月ルールがねじ曲げられるのは、憲法と天皇のあり方にかかわる重大問題だということだろう。

一方の小沢氏は、官僚がそのような憲法解釈をして、政府にたてつくような発言をしたことに反発した。

小沢氏の理屈はこうだ。役人がつくった1カ月ルールを金科玉条のように扱うのは馬鹿げている。役人が内閣の指示や決定に異論を唱えるのは、憲法の精神や民主主義を理解していないとしか思えない――。

政治家が内閣を主導し、官僚はそれに従うというのは確かに筋は通っている。しかし、だからといって反対するなら辞表を出せと切って捨てるのは、権力者のとるべき態度として穏当を欠いていないか。

民主党は、政府の憲法解釈のよりどころとなってきた内閣法制局長官を国会で答弁できないようにする法改正を目指している。憲法解釈は政治家が決める、官僚はそれに従えばいい、という発想があるようにも見える。

宮内庁や内閣法制局はその役割として、憲法との整合性に気を配ってきた専門家だ。その意見にはまずは耳を傾ける謙虚さと冷静さがあって当然だ。

政治主導だからと、これまでの積み重ねを無視して好きに憲法解釈をできるわけではない。まして高圧的な物言いで官僚を萎縮(いしゅく)させ、黙らせるのは論外だ。はき違えてはいけない。

毎日新聞 2009年12月17日

天皇会見問題 冷静な論議が必要だ

天皇陛下と習近平・中国国家副主席の会見が通常のルールに沿わない形で行われたことが、天皇の政治利用かどうかで波紋を広げている。

会見日程を無理に押し込んだ首相官邸とそれを批判した宮内庁側との対立が野党も巻き込んだ論争に発展した。事は象徴天皇制のもとでの皇室外交にかかわる問題だ。冷静に今後の皇室外交のあり方を論議する契機にすべきだ。

発端は、天皇陛下と外国要人の会見に1カ月以上前の申請を求めているルールを外して会見が設定されたことだ。羽毛田信吾同庁長官が「二度とあってほしくない」と批判し、民主党の小沢一郎幹事長が「反対なら辞表を提出した後に言うべきだ」と応酬したことが騒動を広げた。

小沢氏は会見で、天皇陛下と外国要人の会見は内閣の助言と承認が必要な国事行為であるとの認識も示した。憲法7条に列記された国事行為の中には「外国の大使及び公使を接受すること」との項目はあるが、外国要人との会見は明記されていない。宮内庁によると、これは「国事行為」には当たらず「公的行為」とされる。ただ、「公的行為」でも陛下の外国訪問などの場合は閣議決定が行われており、皇室外交と政治との関係にはあいまいな領域があるのが現実だ。

今回の問題の背景には、陛下と外国要人との会見の意味が国際親善にあるという本来の目的をそっちのけにした当事者間の感情的なぶつかり合いがある。

陛下と外国要人との会見は年に100回以上にのぼるという。羽毛田長官が陛下の多忙ぶりと健康に配意しルールを守ろうとしたのは職務上理解できる。だが、習副主席の訪日直前に平野博文官房長官との電話のやりとりを詳細に明らかにし、「親善」に水をかける結果を招いたことには疑問が残る。

それ以上に違和感を覚えるのは小沢氏の発言である。「ルールを無視していいと言っているのではない」とは言うものの、発言全体を聞けば「役人の言うことにはいっさい耳を貸さない」というふうに聞こえる。高飛車な姿勢と「政治主導」とは別物であることを認識してほしい。

「陛下に聞けば『会いましょう』とおっしゃると思う」との発言も軽率だ。陛下の意思を都合のいいように忖度(そんたく)したと受け取られかねないような発言は慎むべきだ。

鳩山政権は自民党政権時代につくられた「政と官」のルールの見直しに取り組もうとしている。今回問題になった「1カ月ルール」についても、見直すべき点があるのかどうかも含め新政権の手で検討する必要があるだろう。

読売新聞 2009年12月18日

習近平氏来日 日中外交の難しさ浮き彫りに

中国の習近平国家副主席の日本訪問は、天皇陛下と習氏との会見を巡る日中両国政府の不手際によって、日本国民の対中感情にしこりを残す形になった。

中国の「次代のリーダー」と目される習氏の来日が、今後の日中関係の展望を切り開く契機にならなかったことは残念だ。

鳩山首相と習氏の会談では、日中の戦略的互恵関係を推進していくことで一致した。首相が、日中間の懸案である東シナ海のガス田共同開発を前進させることや、中国の軍事力の透明性を高めるよう求めたのは当然である。

習氏は台湾問題の重要性とともに、チベット、ウイグルの少数民族問題が「中国の核心的利益」であると指摘、日本側にくぎを刺すのを忘れなかった。

だが、少数民族問題ではまず、中国側が弾圧行為をやめ、対話を通じて、人権状況を改善することが先決ではないか。

習氏は、習仲勲・元副首相を父とする高級幹部の子弟だ。一昨年秋、2階級特進で、党中央政治局常務委員(9人で構成)に抜てきされ、昨春には国家副主席に選出された。

昨夏の北京五輪では運営の責任者を務めるなど、次期国家主席の最有力候補と見られている。

首相官邸が天皇陛下との会見を特例として実現したり、首相主催の夕食会を開いたりして国家元首級の扱いをしたのも、習氏の立場を重視したためだろう。

中国側も天皇陛下との会見実現を強く求めた。胡錦濤国家主席が副主席だった98年に来日した際に、天皇陛下と会見していたこともあり、習氏に同等の待遇を求めたものと見られる。

中国側は、天皇と会見することが、指導者としての権威付けになると考えたのだろう。

ただ、中国では、引退後も影響力のある江沢民前国家主席を後ろ盾とする習氏と、胡主席が支持する李克強副首相との後継争いはまだ決着していない。

習氏に代表される勢力と、李氏を推す勢力の綱引きが、当面続くと見られている。

92年の天皇陛下の訪中は、天安門事件による国際的孤立からの脱却に効果があった、と中国側は評価している。天皇外遊の政治的側面を示すものだ。

日中関係の重要性からも、今回のようなトラブルはあってはならない。天皇の会見など公的行為にかかわる問題には、日中双方に慎重な対応が求められよう。

産経新聞 2009年12月16日

天皇との特例会見 政治利用まだ気づかぬか

天皇陛下は来日中の中国の習近平国家副主席と会見された。陛下は「両国の理解と友好関係が一層増進される」ことを希望され「(胡錦濤主席が昨年、日本から帰国された直後に)四川大地震があり、大変だったと思います」と地震被害を気遣われた。

首相官邸の理不尽な要求にもかかわらず、誠実に務めを果たされた陛下に改めて感謝の念をささげたい。

一方、鳩山由紀夫首相は天皇と習氏の特例会見への批判が強まっていることについて、「中国の副主席においでいただき、日本で活動されている最中にこういう状況になったことは大変残念だ」と不快感を示し、「国民挙げて、将来のリーダーになれる可能性の高い方をもっと喜びの中でお迎えすべきだ」と述べた。

まるで人ごとのような発言だ。希望日の1カ月前までに申請が必要な「1カ月ルール」を無視して宮内庁に強引に天皇との会見を設定させ、それが批判されていることへの責任と反省の気持ちがみじんも感じられない。日中どちらの国民に向けて話しているのか、疑いたくもなる。

中国国営新華社通信傘下の国際情報紙は「鳩山由紀夫首相は中国のために天皇の慣例を破った」と会見を手配した首相を擁護した。ここまで宣伝され、会見が胡政権の権力基盤強化のために利用されたことに鳩山首相らが気づかないとすれば、鈍感である。

平野博文官房長官は2度にわたり、羽毛田信吾宮内庁長官に「日中関係は重要」として、特例会見設定を指示した。日中関係強化のために天皇との会見を政治利用したといえる。

羽毛田氏は特例会見が政治利用されることに懸念を示し、小沢一郎民主党幹事長から辞任を求められた。小沢氏は「国事行為は『内閣の助言と承認』で行われる。それを政治利用と言ったら、陛下は何もできない」とも述べた。

だが、天皇と外国要人の会見は国事行為でなく、公的行為だ。憲法の天皇に関する規定は、象徴としての天皇が政治利用されることを防ぐのが趣旨である。小沢氏は憲法を恣意(しい)的に解釈している。

宮内庁などに寄せられたこの問題に関する1000件以上の電子メールでは、会見実現までの経緯を疑問視する意見が目立ったという。鳩山政権はもう少し国民の声を聞くべきだ。

朝日新聞 2009年12月13日

天皇会見問題 悪しき先例にするな

あす来日する中国の習近平(シー・チンピン)国家副主席と天皇陛下との会見が、鳩山由紀夫首相の強い要請で、慣例に反して決められた。

習氏は胡錦濤(フー・チンタオ)主席の最有力後継者と目されている。日中関係の将来を考えれば、この機会に会見が実現すること自体は、日中双方にとって意味のあることに違いない。

問題は、政権の意思によって、外国の要人との会見は1カ月前までに打診するという「1カ月ルール」が破られたことだ。高齢で多忙な天皇陛下の負担を軽くするための慣例である。

羽毛田(はけた)信吾宮内庁長官は、相手国の大小や政治的重要性によって例外を認めることは、天皇の中立・公平性に疑問を招き、天皇の政治利用につながりかねないとの懸念を表明した。

日本国憲法は天皇を国の象徴として「国政に関する権能を有しない」と規定した。意図して政治的な目的のために利用することは認められない。

鳩山政権は習氏来日の直前になって、官房長官自ら宮内庁長官に繰り返し電話し、会見の実現を強く求めた。天皇と内閣の微妙な関係に深く思いを致した上での判断にはみえない。国事に関する天皇の行為は内閣が決めるからといって、政権の都合で自由にしていいわけがない。

日程の確定が遅くなったとはいえ、習氏の来日自体は、以前から両国間で調整されていた。日中関係が重要だというなら、もっと早く手を打つこともできたはずだ。

1カ月ルールに従い、外務省はいったんは会見見送りを受け入れた。

ここに来て首相官邸が自ら乗り出して巻き返した背景には、中国政府の働きかけを受けた民主党側の意向が働いたと見るべきだろう。小沢一郎幹事長が同党の国会議員140人余を引き連れて訪中した時期と重なったことも、そうした観測を強める結果になった。

首相の姿勢は、このルールに込められた原則を軽んじたものと言わざるを得ない。

首相はしゃくし定規にルールを適用するのは国際親善の目的にかなわないと語った。今後、他の国から同様の要請があった場合、どうするのだろうか。1カ月ルールを維持するのか、どんな場合に例外を認めるのか。

鳩山政権では、岡田克也外相が国会開会式での天皇陛下の「お言葉」について、「陛下の思いが少しは入るよう工夫できないか」と発言し、波紋を広げたこともあった。

歴史的な政権交代があった。鳩山政権にも民主党にも不慣れはあろうが、天皇の権能についての憲法の規定を軽んじてはいけない。この大原則は、政治主導だからといって、安易に扱われるべきではない。今回の件を、悪(あ)しき先例にしてはいけない。

毎日新聞 2009年12月15日

習副主席来日 次世代にらむ関係築け

中国の習近平国家副主席が14日来日し、鳩山由紀夫首相と会談した。中国側の希望で天皇陛下とも会見する。

民主党に政権交代してから中国首脳の来日は初めてである。鳩山首相は、東アジア共同体構想を提唱するなどアジア重視を自任してきた。なかでも中国は、政治的、経済的に世界規模の影響力を持つ重要な隣国である。その中国の首脳との往来を重ねて良好な関係を築くことはアジア外交の土台である。

米国はオバマ大統領が東京演説、上海演説で中国重視の姿勢を表明し、米中首脳対話を重ねている。米中G2という言い方があるほどだ。米中が接近する以上、日本は米国との関係も中国との関係も大切にしなければならない。

しかし過去の日中関係を振り返ると、決して安定した関係とはいえなかった。自民党政権では、とくに小泉純一郎首相の靖国神社参拝で歴史認識問題をめぐる対立が深まった。中国各地で反日デモが起きるなど対日感情が悪化した。日本でも、急激な軍備増強など台頭する中国を見て脅威論や嫌中感情が高まった。

その後、「戦略的互恵関係」が提唱され首脳交流も復活したが、まだ国民感情が改善したといえるまでにはいたっていない。東シナ海のガス田共同開発や毒ギョーザ事件など外交のテーブルにのりながら、双方とも厳しい世論を背にして容易に出口が見いだせない。

米国は、かつて人権問題で中国を激しく批判してきたが、ブッシュ前政権時代にハイレベルの経済対話枠組みを作った。オバマ大統領になって、政治対話の枠組みが加わった。

政権交代後、鳩山首相は国連総会などの場を利用して、胡錦濤国家主席、温家宝首相など中国の首脳と会談を続けてきた。同時に、今回のような首脳の相互往来を継続して、信頼関係をさらに高める必要がある。

習副主席は、順調にいけば2012年には胡主席の後継者となると目されている。日本の後、韓国、カンボジア、ミャンマーを訪問する。トップリーダーとなる日のための準備と見ることもできる。

今回、天皇陛下との会見を望んだのも、胡主席が副主席の時代に天皇と面会した前例に沿ったものだといわれる。人気歌手の彭麗媛(ほうれいえん)夫人は先月来日し、公演には皇太子さまが招待された。長期的な展望に立って日中関係を考えようとする姿勢の表れだ。日程調整で混乱が起きたが、それも日中の往来が長い間活発でなかったからではないか。首相との会談に先だって、習氏は中国文化センターの開所式に出席した。民間交流も進めようというメッセージだろう。

読売新聞 2009年12月16日

小沢氏記者会見 不穏当きわまる辞表提出発言

小沢民主党幹事長が、天皇陛下と習近平・中国国家副主席との会見問題で、羽毛田信吾宮内庁長官を厳しく批判した。

天皇と外国要人との会見は、天皇陛下の健康上の理由から、過密日程を避けるため、1か月前までに宮内庁に申し入れるという慣行がある。

鳩山首相が今回、その特例として会見を実現したことは、何の問題もないと、小沢氏は記者会見で訴えようとしたのだろう。

小沢氏は、1か月ルールについて「宮内庁の役人が作ったから金科玉条で絶対だなんてばかな話があるか」と断じた。今回の経緯を公表した羽毛田氏について「どうしても反対なら辞表を提出した後に言うべきだ」と強調した。

職責を果たそうとする官僚を頭ごなしに非難すれば、官僚の使命感や意欲はそがれてしまう。極めて不穏当な発言だ。羽毛田氏が「辞めるつもりはない」と辞任を否定したのは当然のことだ。

問題は、それだけではない。

小沢氏は「天皇陛下の国事行為は内閣の助言と承認で行われる」と憲法を持ち出し、天皇の政治利用にはあたらないと反論した。

外国要人との会見は、国会の召集など憲法に定められた国事行為そのものではなく、これに準じた「公的行為」とされる。

無論、公的行為も内閣が責任を負うわけだが、問題の本質は、国民統合の象徴である天皇の行為に政治的中立を疑わせることがあってはならないということだ。

小沢氏は、「天皇陛下ご自身に聞いてみたら『会いましょう』と必ずおっしゃると思う」とも語った。天皇の判断に言及することも不見識と言わざるを得ない。

小沢氏は、政府に会見の実現を求めた事実はないと否定したが、崔天凱・駐日中国大使から要請を受けながら、全く働きかけをしなかったのだろうか。

首相の対応にも疑問がある。

首相は、特例的に会見を実現するよう指示したのは「大事な方」だからとした。今後の日中関係や習副主席が「次代のリーダー」とされていることを踏まえれば、そうした判断もありえよう。

しかし、会見のルールが、これを機に破られることになれば、「政治的重要性」で要人の扱いに差をつけることになり、天皇の政治利用につながる、という宮内庁側の憂慮もうなずける。

首相や平野官房長官は「政治と天皇」のあり方について基本的な理解を欠いていたのではないか。政治主導をはき違えては困る。

産経新聞 2009年12月15日

中国副主席来日 政治利用の正当化許すな

中国の習近平国家副主席が来日し、15日に天皇陛下との会見が行われる予定だ。鳩山由紀夫首相はこれに先立ち、「日中関係をさらに未来的に発展させるために大変大きな意味がある。判断は間違っていなかった」と述べた。

だが、首相の判断はやはり間違っていると言わざるを得ない。

習氏は中国共産党内での序列は6位だが、胡錦濤国家主席の有力後継候補とされる。まだ日本になじみが薄く、天皇との会見は、習氏の存在を日本に印象づけたい中国の意向に沿ったものだ。それは明らかに天皇の政治利用であり、会見を求める中国の要求をきっぱりと拒否すべきだった。

しかも、中国が会見を要請したのは11月下旬だ。1カ月前までとされる申請期限を過ぎていた。その「1カ月ルール」は6年前、前立腺がんの手術を受けた陛下の健康を考慮して、厳格に守られてきた。これを無視し、中国の要望に沿った特例の会見を宮内庁に設定させた鳩山内閣は、二重の間違いを犯したといえる。

特例の会見が設定された背景には、民主党の小沢一郎幹事長側から首相官邸サイドへの働きかけがあったとも伝えられた。

小沢氏は14日、この働きかけを否定するとともに、「陛下の体調がすぐれないなら、優位性の低い(他の)行事はお休みになればいい」と述べた。陛下に対し、礼を失していないか。政党の幹事長が指図することではない。

小沢氏は、政治利用の懸念を表明した羽毛田信吾宮内庁長官について「内閣の一部局の一役人が内閣の方針についてどうこう言うなら、辞表を提出してから言うべきだ」とも述べた。いずれも、天皇の政治利用を正当化する極めて不穏当な発言ではないか。

羽毛田氏は「心苦しい思いで陛下にお願いした。こういったことは二度とあってほしくない」と述べた。羽毛田氏には、もう少し覚悟をもって官邸と対峙(たいじ)してほしかったようにも思われる。

首相の判断に対し、与野党から批判の声が相次いでいる。「天皇陛下の政治利用と思われるようなことを要請したのは誠に遺憾だ」(民主党の渡辺周総務副大臣)、「今からでも遅くない。中国側に取り下げてもらうよう要請すべきだ」(安倍晋三元首相)。

鳩山首相はこれらの声にもう一度、謙虚に耳を傾けるべきだ。

毎日新聞 2009年12月13日

天皇の特例会見 誤解招かぬ慎重さを

明日来日する中国の習近平国家副主席と天皇陛下の会見が15日に行われることになった。

天皇が胡錦濤国家主席の有力後継候補とされる習氏と会見することは日中親善の観点から意義のあることだろう。しかし、今回の会見は、1カ月前までに申請するという通常の手続きを経ずに首相官邸の意向を押し通す形で決定され、これに宮内庁の羽毛田信吾長官が不快感を表明するという異例の事態となった。

憲法に定められた象徴天皇の国事行為にかかわる問題だけに遺憾である。鳩山内閣の不手際と言わざるをえない。

天皇と外国要人の会見を設定するには1カ月以上前に内閣を通した申請が必要とされる。この「1カ月ルール」は1995年ごろから慣例化され、天皇が前立腺がんの手術を受けたあとから厳格に適用されてきたという。天皇の年齢や健康に配慮してのことだ。

今回の場合、外務省を通じて最初の打診があったのは11月26日という。羽毛田長官によると、その際は「応じられない」と回答したが、その後も2度にわたって平野博文官房長官から要請があり最終的に了承した。要請の際、平野氏は「日中関係の重要性」を指摘し、最後には「鳩山由紀夫首相の指示」による要請であることを強調したという。

天皇と外国要人の会見は憲法に規定された国事行為で、内閣の助言と承認に基づいて行われる。これに照らせば首相官邸の要請によって会見が設定されたこと自体は越権行為とは言えないだろう。

会見設定の背景には、日中関係を改善・発展させたいという中国側の強い意向があるとみられる。それを受け、米国とともにアジアとの関係を重視する鳩山内閣が会見実現に動いた事情も理解できる。

ただ、今回の対応で懸念されるのは、政府内で慣例となっている1カ月ルールを外しての会見設定が天皇の政治利用につながるのではないかとの印象を与えかねないことだ。

1カ月ルールが政府内の事務的な取り決めであるのは確かだ。鳩山首相は「諸外国と日本との関係を好転させるためで、政治利用という言葉は当たらない」と語っている。内閣が掲げる「政治主導」とは相いれないと考えているのかもしれない。

しかし、「(会見設定は)国の大小や、政治的に重要かどうかなどにかかわりなくやってきた」(羽毛田長官)との指摘にも留意する必要がある。一度のルール逸脱が今後、時の政権によって恣意(しい)的に拡大される余地を残してはならない。天皇の特例会見は内外の誤解を招かぬよう慎重になされるべきである。

読売新聞 2009年12月13日

天皇特例会見 憂慮される安易な「政治利用」

宮内庁の羽毛田信吾長官が、天皇の政治利用に当たる懸念がある、として深い憂慮の念を示したのも当然である。

14日に来日する中国の習近平国家副主席が天皇陛下と会見することになった。長官の発言は、この決定過程について記者団に語ったものだ。

羽毛田長官によると、宮内庁が外務省を通じて、中国政府からの会見要請を受け取ったのは、習副主席の来日まで20日を切った11月26日のことだ。

陛下と外国要人の会見は、1か月前までに申請を受け付けるという政府のルールがある。このため宮内庁は「ルールに照らして応じかねる」と回答した。

しかし、事はそれで収まらなかった。平野官房長官が、電話で2度にわたり長官に特例扱いを要請し、最後は「総理の指示だ」と強引に説き伏せたという。

中国側が、胡錦濤国家主席の後継者と目される習副主席の来日にあたり、民主党の小沢幹事長など複数の人脈を使って、日本政府に天皇との会見を強く働きかけたことが背景にあるようだ。

鳩山首相は「1か月ルールは知っていたが、(しゃく)()定規なことが国際的な親善の意味で正しいことなのか」と述べて、政治利用に当たらないとの見解を示した。

だが、一度ルールを破ると、それが当たり前になる恐れがある。今後、例えば米国や韓国、ロシアから同様の要請があった場合、首相はどう対応するのか。

羽毛田長官によると、平野官房長官は「日中関係の重要性にかんがみ」と話したという。日中関係が大事だからこそ、きちんと象徴天皇制などについて説明し、理解を得るべきだった。それでこそ日中友好の真の促進にもなる。

天皇陛下が外国の賓客などに会われる回数は年100回以上に上る。国の大小や政治的重要性を問わず、事前に申請があれば平等に設定されてきた。陛下も「公務はある基準に基づき公平に行われることが大切」と語られている。

1か月ルールは、様々な公務があり、多忙な陛下の日程調整を円滑に行うためのルールだ。陛下が2003年に前立腺がんの手術をされて以降は、健康管理のためもあり、特に厳守されてきた。

岡田外相が国会開会式での陛下のお言葉の内容について発言し批判されたのも、最近のことだ。

天皇が時の政権に利用されたと疑念が持たれることは、厳に慎むべきなのだ。その基本を現政権はわかっていないのではないか。

産経新聞 2009年12月12日

天皇と中国副主席 禍根残す強引な会見設定

政府は、中国の習近平国家副主席が14日来日し、15日に天皇陛下と会見すると発表した。

中国側の会見申し入れは通常の手続きを踏まず、鳩山由紀夫首相の指示で会見を実現させるよう宮内庁に要請したことも明らかにされた。政治的利用ともいえ、将来に禍根を残しかねない。

陛下と外国要人との会見は、1カ月前までに文書で正式申請するのがルールである。だが、中国側の申請が来日までに1カ月を切った11月下旬だったため、外務省はいったん、陛下との会見は認められないと伝えた。これが主権国家として当然の対応だった。

ところが、中国側が納得せず、「習副主席訪日の成否がかかっている」として、なおも陛下との会見を要求した。民主党の小沢一郎幹事長が鳩山首相に会見の実現を働きかけ、首相が平野博文官房長官に会見を実現できないかの検討を指示したという。

中国の要求の理不尽さは、言うに及ばないが、これを取り次いだ小沢氏や鳩山首相の対応も極めて問題である。

このルールは、多忙な陛下のご日程の調整をスムーズに行うためのものだ。これまで、在京大使が緊急離日する際に特例の会見が行われた以外、ルールは厳格に守られてきた。習氏は胡錦濤国家主席の有力後継候補といわれるが、それは特例の理由にならない。

天皇は憲法上、日本国と日本国民統合の象徴とされる。時の政権による政治利用は、厳に慎まねばならない。だが、今回設定される陛下と中国副主席の会見は中国でも一方的に宣伝されかねず、政治的に利用されている。

陛下は天安門事件から3年後の平成4(1992)年10月、中国を訪問された。中国が西側諸国から厳しく批判されている時期で、当時の宮沢内閣が多くの国民の反対を押し切って、半ば強引に推し進めたものだった。

天皇ご訪中が結果的に、西側諸国による対中制裁の緩和につながり、政治利用されたことは、当時の中国外相の回顧録などで明らかになっている。

今回、鳩山内閣がルールを無視してまで中国の要求を受け入れたことは、中国側に「日本には無理を言えば通る」とのメッセージを与え、今後の対中交渉で足元を見透かされる恐れがある。露骨な「二元外交」も問題だ。鳩山内閣には再考を求めたい。

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