毎日新聞 2009年12月13日
天皇の特例会見 誤解招かぬ慎重さを
明日来日する中国の習近平国家副主席と天皇陛下の会見が15日に行われることになった。
天皇が胡錦濤国家主席の有力後継候補とされる習氏と会見することは日中親善の観点から意義のあることだろう。しかし、今回の会見は、1カ月前までに申請するという通常の手続きを経ずに首相官邸の意向を押し通す形で決定され、これに宮内庁の羽毛田信吾長官が不快感を表明するという異例の事態となった。
憲法に定められた象徴天皇の国事行為にかかわる問題だけに遺憾である。鳩山内閣の不手際と言わざるをえない。
天皇と外国要人の会見を設定するには1カ月以上前に内閣を通した申請が必要とされる。この「1カ月ルール」は1995年ごろから慣例化され、天皇が前立腺がんの手術を受けたあとから厳格に適用されてきたという。天皇の年齢や健康に配慮してのことだ。
今回の場合、外務省を通じて最初の打診があったのは11月26日という。羽毛田長官によると、その際は「応じられない」と回答したが、その後も2度にわたって平野博文官房長官から要請があり最終的に了承した。要請の際、平野氏は「日中関係の重要性」を指摘し、最後には「鳩山由紀夫首相の指示」による要請であることを強調したという。
天皇と外国要人の会見は憲法に規定された国事行為で、内閣の助言と承認に基づいて行われる。これに照らせば首相官邸の要請によって会見が設定されたこと自体は越権行為とは言えないだろう。
会見設定の背景には、日中関係を改善・発展させたいという中国側の強い意向があるとみられる。それを受け、米国とともにアジアとの関係を重視する鳩山内閣が会見実現に動いた事情も理解できる。
ただ、今回の対応で懸念されるのは、政府内で慣例となっている1カ月ルールを外しての会見設定が天皇の政治利用につながるのではないかとの印象を与えかねないことだ。
1カ月ルールが政府内の事務的な取り決めであるのは確かだ。鳩山首相は「諸外国と日本との関係を好転させるためで、政治利用という言葉は当たらない」と語っている。内閣が掲げる「政治主導」とは相いれないと考えているのかもしれない。
しかし、「(会見設定は)国の大小や、政治的に重要かどうかなどにかかわりなくやってきた」(羽毛田長官)との指摘にも留意する必要がある。一度のルール逸脱が今後、時の政権によって恣意(しい)的に拡大される余地を残してはならない。天皇の特例会見は内外の誤解を招かぬよう慎重になされるべきである。
|
読売新聞 2009年12月13日
天皇特例会見 憂慮される安易な「政治利用」
宮内庁の羽毛田信吾長官が、天皇の政治利用に当たる懸念がある、として深い憂慮の念を示したのも当然である。
14日に来日する中国の習近平国家副主席が天皇陛下と会見することになった。長官の発言は、この決定過程について記者団に語ったものだ。
羽毛田長官によると、宮内庁が外務省を通じて、中国政府からの会見要請を受け取ったのは、習副主席の来日まで20日を切った11月26日のことだ。
陛下と外国要人の会見は、1か月前までに申請を受け付けるという政府のルールがある。このため宮内庁は「ルールに照らして応じかねる」と回答した。
しかし、事はそれで収まらなかった。平野官房長官が、電話で2度にわたり長官に特例扱いを要請し、最後は「総理の指示だ」と強引に説き伏せたという。
中国側が、胡錦濤国家主席の後継者と目される習副主席の来日にあたり、民主党の小沢幹事長など複数の人脈を使って、日本政府に天皇との会見を強く働きかけたことが背景にあるようだ。
鳩山首相は「1か月ルールは知っていたが、杓子定規なことが国際的な親善の意味で正しいことなのか」と述べて、政治利用に当たらないとの見解を示した。
だが、一度ルールを破ると、それが当たり前になる恐れがある。今後、例えば米国や韓国、ロシアから同様の要請があった場合、首相はどう対応するのか。
羽毛田長官によると、平野官房長官は「日中関係の重要性にかんがみ」と話したという。日中関係が大事だからこそ、きちんと象徴天皇制などについて説明し、理解を得るべきだった。それでこそ日中友好の真の促進にもなる。
天皇陛下が外国の賓客などに会われる回数は年100回以上に上る。国の大小や政治的重要性を問わず、事前に申請があれば平等に設定されてきた。陛下も「公務はある基準に基づき公平に行われることが大切」と語られている。
1か月ルールは、様々な公務があり、多忙な陛下の日程調整を円滑に行うためのルールだ。陛下が2003年に前立腺がんの手術をされて以降は、健康管理のためもあり、特に厳守されてきた。
岡田外相が国会開会式での陛下のお言葉の内容について発言し批判されたのも、最近のことだ。
天皇が時の政権に利用されたと疑念が持たれることは、厳に慎むべきなのだ。その基本を現政権はわかっていないのではないか。
|
産経新聞 2009年12月12日
天皇と中国副主席 禍根残す強引な会見設定
政府は、中国の習近平国家副主席が14日来日し、15日に天皇陛下と会見すると発表した。
中国側の会見申し入れは通常の手続きを踏まず、鳩山由紀夫首相の指示で会見を実現させるよう宮内庁に要請したことも明らかにされた。政治的利用ともいえ、将来に禍根を残しかねない。
陛下と外国要人との会見は、1カ月前までに文書で正式申請するのがルールである。だが、中国側の申請が来日までに1カ月を切った11月下旬だったため、外務省はいったん、陛下との会見は認められないと伝えた。これが主権国家として当然の対応だった。
ところが、中国側が納得せず、「習副主席訪日の成否がかかっている」として、なおも陛下との会見を要求した。民主党の小沢一郎幹事長が鳩山首相に会見の実現を働きかけ、首相が平野博文官房長官に会見を実現できないかの検討を指示したという。
中国の要求の理不尽さは、言うに及ばないが、これを取り次いだ小沢氏や鳩山首相の対応も極めて問題である。
このルールは、多忙な陛下のご日程の調整をスムーズに行うためのものだ。これまで、在京大使が緊急離日する際に特例の会見が行われた以外、ルールは厳格に守られてきた。習氏は胡錦濤国家主席の有力後継候補といわれるが、それは特例の理由にならない。
天皇は憲法上、日本国と日本国民統合の象徴とされる。時の政権による政治利用は、厳に慎まねばならない。だが、今回設定される陛下と中国副主席の会見は中国でも一方的に宣伝されかねず、政治的に利用されている。
陛下は天安門事件から3年後の平成4(1992)年10月、中国を訪問された。中国が西側諸国から厳しく批判されている時期で、当時の宮沢内閣が多くの国民の反対を押し切って、半ば強引に推し進めたものだった。
天皇ご訪中が結果的に、西側諸国による対中制裁の緩和につながり、政治利用されたことは、当時の中国外相の回顧録などで明らかになっている。
今回、鳩山内閣がルールを無視してまで中国の要求を受け入れたことは、中国側に「日本には無理を言えば通る」とのメッセージを与え、今後の対中交渉で足元を見透かされる恐れがある。露骨な「二元外交」も問題だ。鳩山内閣には再考を求めたい。
|
この記事へのコメントはありません。