社会保障国民会議 今度こそ骨抜き許されぬ

朝日新聞 2013年08月07日

社会保障改革 構造転換への道筋を

政府の社会保障国民会議が報告書をまとめ、安倍首相に手渡した。

高齢者を含め、所得の多い人への負担増が並ぶ。今月中には、改革の工程表を盛り込んだ法案の骨子を閣議決定する予定だ。実現への道筋を明確にできるか。政権の決意が問われる。

報告書の内容は多岐にわたるが、底流にある三つの構造転換を前向きに評価したい。

まず、社会保障の対象を「高齢者中心」から「全世代」へ転換し、「次世代育成支援」を第一に掲げたことだ。そのため、消費増税を中心とした1兆円の財源確保を念押ししている。

若者に非正規雇用が増え、生活が不安定化していることへの危機感が背景にある。

この流れから、「年齢ではなく、能力に応じて負担する」という原則を導き、年金の課税強化のほか、働く世代に負担が偏りがちな給与所得だけでなく、高齢世代の資産も勘案した負担を求めている。

二つめは、医療・介護の分野における「中央集権」から「地方分権」への転換だ。

全国一律の診療報酬で病院を誘導する手法の限界を認め、小回りの利く補助金をテコに、都道府県が地域のニーズにあった「ご当地医療」をつくる。

補助金の運用に目を光らせる必要があるが、医療機関に患者獲得の「競争」をさせるのでなく、役割を分担し「協調」させようという点は野心的だ。

国民健康保険(国保)の運営は市町村から都道府県に移す。低所得者の多い国保を強化するため、中小・零細企業向けの健保に対する補助金を回し、その分は、高所得者の多い大企業健保の負担増でカバーする。

抵抗は必至だ。ただ、「能力に応じた負担」という意味ではわかりやすい。

三つめの転換は、社会保障に対する信頼の回復である。若者は負担が給付を上回るといった「世代間の損得論」に対し、報告書は「世代間の連帯の構築の妨げになっている」と真っ正面から批判する。

高齢世代の生活を社会全体で支えれば、現役世代が自分の親の面倒をみる負担は軽くなる。若い世代も病気やケガで働けなくなれば、障害年金でカバーされる――と、社会保障の積極的な役割を論じている。

制度の問題点ばかり取りざたされ、不安が広がる流れを反転させたいという思いがにじむ。

政府への不信、国民相互の不信が強いなかで、支え合いは育たない。私たち一人ひとりの姿勢も問われている。

毎日新聞 2013年08月06日

社会保障3党協議 大人げない民主の離脱

政府の社会保障制度改革国民会議の最終報告を不満として民主党は自公民3党の実務者協議から離脱することを決めた。負担増の項目が並ぶ一方、最低保障年金を核とした年金抜本改革、後期高齢者医療制度の廃止など民主党の看板政策が盛り込まれていないためというが、ちょっと待ってほしい。同会議は野田佳彦政権時に設置し、民主党推薦の委員が何人も入って議論してきたものだ。出された結論が意に沿わないからとテーブルをひっくり返すのは子どもじみてはいないか。

そもそも民主党が政権の座にあった3年3カ月、年金抜本改革案はいくつかのシミュレーションこそ示したものの具体的な内容を確定させることができなかった。後期高齢者医療制度についても現行制度の変更はできなかった。

最低保障年金で貧しい高齢者を救い、年金制度を完全一元化してどんな働き方でも老後の安心を保障する、という抜本改革案は夢の制度ではある。しかし、巨額の財源が必要で移行手続きも複雑など高いハードルがいくつもある。

各党・各団体や新聞各社も独自の年金案を発表しており、実は2008年に発表した毎日新聞の改革案は当時の民主党案に近いものだった。しかし、自営業者の所得把握の壁に加え、制度の完全移行まで長期間かかることなどから、新たに11年に発表した毎日新聞案(改定版)では、抜本改革は将来の課題として、すぐに取り組むべき課題と分ける「2段階方式」を提示した。(1)厚生・共済年金の一元化(2)非正規雇用者の厚生年金への適用拡大(3)高齢者福祉給付の創設(4)税と社会保障の共通番号導入−−が緊急課題だ。

野田政権の一体改革では、この毎日新聞案の緊急課題とほとんど同じ内容の法改正が行われ、今回の国民会議も「2段階のアプローチが必要」とした上でこの路線をさらに進化させたものになっている。年金財政は少子化や雇用状況と密接に関連する。理想を追って財源を年金ばかりにつぎ込むと制度を支える若年層に負担がのしかかり、逆に制度の存続を揺るがすことになる。支える世代を立て直しながら制度の持続可能性を高めようと考えると、おのずと改革の選択肢は狭まるのだ。

実際、菅直人政権時の一体改革案は抜本改革を棚上げし、現実的な改革を先行させる2段階方式だった。野田政権に代わってから長妻昭元厚生労働相らが少しずつ元の抜本改革案の方向へ軌道修正した。野党に転じてから自民党との違いをどう出すのか苦しむのはわかるが、ネタのばれた手品にしがみつき、だだをこねているようにしか見えない。

読売新聞 2013年08月07日

社会保障会議 制度維持に全世代の負担必要

民主の3党協議離脱は無責任だ

持続可能な社会保障制度をどう築くのか。処方箋の一端は示されたが、課題は山積している。

政府の社会保障制度改革国民会議が報告書をまとめ、安倍首相に提出した。政府は、改革の工程を定めた法案を秋の臨時国会に提出する。

国民会議は、消費増税に合わせた年金、医療、介護などの改革の道筋を検討した。

報告書の最大の特徴は、所得の高い高齢者に医療費や税の負担増を求めた点にある。現行の「年齢別の負担」から「能力に応じた負担」へと方向性を転換した。

高齢世代も支え手に

急速な少子高齢化で、年金、医療、介護の給付費が増大し、政府の借金は膨らんでいる。現役世代の負担で高齢者を支える現行の社会保障の原則では、もはや制度を維持できないのは明らかだ。

国民会議が、負担を支払い能力のある高齢者を含めた「全世代型」に転換するよう提言したのはやむを得ない。

問題は、政府が着実に改革を実行できるかどうかである。

例えば、70~74歳の医療費の窓口負担だ。2008年の健康保険法などの改正で2割と定められたが、当時の自公政権は特例で1割に据え置き、現在も続いている。穴埋めに年間約2000億円もの税金が投入されている。

国民会議が、世代間の不公平の典型と言える特例措置を廃止し、法定の2割に引き上げるよう求めたのは当然である。

現在は一律1割である介護保険の利用者負担について、国民会議が高所得者の負担増を求めたことも現実的な方策と言える。政府は負担割合の検討を急ぐべきだ。

自営業者らが加入する国民健康保険の運営主体を、現在の市町村から都道府県に移管することも打ち出した。国保財政の健全化の財源とするため、大企業の健康保険組合や公務員の共済組合の拠出金を増やすことも求めた。

だが、拠出金によって既に赤字に陥っている健保組合は多い。急激な負担増で破綻を招けば、本末転倒だ。混乱が生じない制度設計が必要である。

限られた財源を有効活用するには、社会保障給付費の伸びを抑えることも不可避だ。

給付の抑制が急務だ

高齢化で様々な病気を持った患者が、複数の医療機関を重複受診していることが医療費を押し上げている要因の一つとされる。

国民会議はこれを防ぐため、幅広い診療能力を持つ「総合診療医」の普及を提唱した。だが、そうした医師をどう育成するかという肝心な点には言及していない。

年金の支給開始年齢については、「高齢者の働き方と合わせて議論すべき中長期的課題」とするにとどめた。

平均寿命の延びと年金財政の悪化から、65歳からさらに引き上げる必要がある。欧米主要国は、既に67~68歳への引き上げを決めている。日本は先進国で最も早く高齢化が進んでいるだけに、早期に検討を始めるべきだろう。

国民会議は、社会保障給付の面でも「全世代型」を目指し、子育て支援など少子化対策への積極的な投資が必要と強調した。

具体的には、保育所の拡充に加え、妊産婦に対する相談・支援拠点の設置を掲げている。

女性が妊娠時から育児などに不安を持っている点に着目し、子育てまで切れ目なく支援するのが狙いだ。拠点をいかに機能させるかが課題である。

国民会議と並行して、自民、公明、民主の3党は、社会保障改革に関する議論を重ねてきた。

ところが、民主党は、3党協議からの離脱を決めた。

民主党が主張する最低保障年金制度の導入などについて、自公両党が議論に応じず、国民会議の報告書にも盛り込まれなかったことを理由に挙げている。

改革は与野党の責任で

しかし、民主党が掲げる最低保障年金の実現には、消費税率の10%への引き上げとは別に、大幅な追加増税が必要となる。

後期高齢者医療制度の廃止を唱えているが、既に制度は定着している。廃止の必要性は乏しい。

現実離れした改革案を振りかざし、受け入れられないからといって協議から離脱する。それではあまりに独りよがりだ。

そもそも野田政権時代に始まった会議である。民主党は責任を放棄すべきではない。

国の根幹である社会保障制度については、政権交代があっても揺るがぬよう、与野党が共に改革に取り組むことが重要である。

産経新聞 2013年08月08日

3党協議離脱 民主は責任党の自覚持て

民主党が「責任野党」の立場を放棄するなら、党の再建などあり得ないと自覚すべきだ。

民主党は社会保障制度改革に関する自民、公明両党との3党実務者協議から離脱した。今後の改革の進め方を議論するため与党が呼びかけた会合にも出席しなかった。

民主党が掲げる最低保障年金の創設や、後期高齢者医療制度の廃止について、自公両党が議論に応じず、政府の社会保障制度改革国民会議の最終報告書にも盛り込まれなかったことが大きな理由なのだという。

意見があるなら公式な場で堂々と議論を戦わせるのが民主主義のルールだ。自分たちの主張が反映されないから協議の席を蹴るというのでは、児戯に等しい。

党の存在感を示すためだけに、アピールしやすい社会保障政策で与党との違いを際立たせようというのであれば、ますます有権者の支持が離れるだろう。

民主党は、現行制度の手直しを主張する自公両党を「改革の意思がない」と批判してきた。だが、最低保障年金や、後期高齢者医療制度の廃止を「抜本改革」と位置づける、民主党の認識そのものが間違っているのではないか。

最低保障年金を実現するには、消費税率を、予定している10%から、さらに引き上げる必要がある。民主党は政権を担当していた時期にも、財源確保策を含め、制度の具体像を示せないまま野党に転じた。後期高齢者医療制度は、すでに国民に定着している。

最低保障年金などは、先の参院選でも有権者に受け入れられなかった。国民会議は野田佳彦政権時に設置され、民主党が推薦した委員も含まれる。その国民会議が最終報告書から退けた事実を、謙虚に認めたらどうか。

有権者の信頼を取り戻すため、いま民主党に求められているのは、実現可能な政策へと路線転換を図ることだ。非現実的な政策の象徴とも言うべき最低保障年金の取り下げこそ、その第一歩になるだろう。

国民の人生設計にも大きくかかわる社会保障政策が、政権交代のたびに目まぐるしく変わるのでは社会は混乱する。与野党が党派を超えて改革に取り組む必要性は、民主党も説いていたはずだ。

海江田万里代表には、ただちに3党協議離脱を撤回し、与野党協議の場に戻ることを求める。

毎日新聞 2013年08月03日

社会保障改革 政治が応える番だ

政府の社会保障制度改革国民会議が改革案をまとめ公表した。「負担は現役世代、給付は高齢者へ」という年齢を軸にした現行制度を見直し、能力に応じた負担と給付への転換を打ち出したのが特徴だ。

具体的には低所得者の国民健康保険料、介護保険料を軽減する一方で、高齢層でも所得の高い人には介護保険サービスの自己負担増、基礎年金給付の減額のほか、公的年金等控除や遺族年金への非課税措置の見直しにも言及した。現役世代も財政に比較的余裕のある国保組合への公費定率補助の廃止、平均年収の高い企業の従業員負担が重くなる「総報酬割り」の実施が盛り込まれた。

全体的に厳しい内容だ。高齢者の反発を招きそうな改革から逃げ続けている政治にできるだろうか。70~74歳の医療費自己負担を1割から2割へ上げることすら、決めておきながら実施できないのである。ねじれ国会が解消され、しばらく国政選挙がない時期にできなければ、痛みを伴う改革などできないだろう。

個々の負担ばかりに目を奪われるが、今回の目玉は医療・介護の改革だ。民主党政権下の一体改革では消費増税に伴い基礎年金の税負担を2分の1へ引き上げ、子育て支援の拡充が決められたが、年金以上に費用が膨張する医療や介護は手つかずだった。年金給付費の対国内総生産(GDP)比は2012年度の11.2%から25年度は9.9%と低下するが、医療給付費は7.3%から8.8%へ、介護給付費は1.8%から3.2%へと増加するのである。

日本の医療の特徴は病床数が多く入院期間が長いことだ。改革案は「病院完結型」から、医療・介護・住まい・自立生活などの支援がつながる「地域完結型」への転換を提示し、医療供給体制の改革を本丸と位置づけた。都道府県が医療機能ごとの必要量を示す地域医療ビジョンを策定し、医師・診療科や高額医療機器の偏在の是正を図るとともに、医療法人と社会福祉法人の再編や統合を容易にして医療と介護を切れ目なく提供できる体制整備を進めることを求める。

年金については現行制度の手直しが基調で、抜本改革派からは「踏み込み不足」などの批判もあるが、社会保険方式の意義、世代間公平論や連帯のあり方、家族や雇用の変化との関連にも踏み込み、現行制度に対するさまざまな批判や疑問に答えている。年金制度自体が複雑で、わずか8カ月の議論でまとめた同会議の報告書も専門用語があって平易とは言い難いが、年金を政争の具にせず現実的な改革の実行を求める研究者らの意欲は感じられる。やはり問われているのは政治である。

読売新聞 2013年08月04日

国民健康保険 都道府県移管は必要な方策だ

自営業者らの医療保険制度として発足した国民健康保険(国保)の財政悪化は深刻である。立て直しが急務だ。

政府の社会保障制度改革国民会議は近くまとめる報告書で、国保の運営主体を市町村から都道府県に移すことを求める。

財政基盤の強化が最大の眼目だ。運営の広域化は国保を維持する上で必要な方策と言えよう。

国保加入者は約3500万人に上る。農家や商店の減少に伴い、全体の約7割を非正規労働者や無職の人が占めている。

低所得の加入者の増加で、保険料収入は低水準にとどまっている。11兆円余の医療給付費のうち、保険料で賄えているのは3割に満たないのが現状だ。

財源不足を補うため、健康保険組合など被用者保険からの支援金や国、都道府県の公費に頼っているが、それでも赤字を解消できない。穴埋めに市町村の一般会計から年3500億円も繰り入れている。構造的な赤字体質である。

高度医療で高額な医療費がかかれば、人口が少ない市町村の国保会計はすぐさま赤字に転落してしまうという事情もある。過疎化がこの傾向に拍車をかけている。

加入者の保険料負担が重いことも問題である。

1人当たりの所得に占める保険料の割合は、健保組合や公務員の共済組合の約2倍だ。同一都道府県内でも、市町村ごとの保険料には最大2・8倍の格差がある。

国保の運営を市町村から都道府県に移せば、規模の拡大によって財政は強化される。

都道府県単位で保険料を算出し直すことで、加入者の保険料格差は縮小するだろう。

無論、国保財政を健全化するには、医療費の削減が重要だ。

都道府県が運営主体になれば、管内の多くの診療情報が集約される。その情報を分析することで、過剰な検査や投薬といった無駄を把握できるようになる。

都道府県が、医療機関の治療内容を点検した上で指導力を発揮することにもつながるだろう。

都道府県に移管するにしても、様々な課題がある。

全国知事会は、都道府県への移管を受け入れる前提として、政府に財政支援の強化を求めている。財源をどう確保するか。

保険料徴収については引き続き市町村が担う見込みだ。国保を運営しなくなる市町村が、責任を持って徴収業務を行うだろうか。

納付率を低下させない仕組み作りが必要となろう。

産経新聞 2013年08月03日

社会保障国民会議 今度こそ骨抜き許されぬ

政府の「社会保障制度改革国民会議」がまとめた最終報告書案の最大の成果は、高齢者を含め、支払い能力に応じて負担する制度に切り替える必要性を打ち出したことにある。

社会保障費は高齢化の進行や医療技術の進歩で毎年1兆円規模で伸び続け、勤労世代の負担は限界に達しつつある。財源の不足分を国の借金で穴埋めする将来世代への「つけ回し」もやめなければならない。

報告書案は、少子高齢社会を乗り切るための大きな一歩と位置付ける必要がある。

具体策として、一律1割となっている介護保険の自己負担の見直しや要介護度の低い「要支援」のサービス対象からの切り離し、高所得者の年金課税強化などを挙げた。デフレ経済下での年金減額の仕組みの導入や、70~74歳の医療費窓口負担割合を早期に2割へ引き上げることも求めている。

高齢者医療への支援金については、収入の高い大企業社員らが加入する健保組合の負担を増やす必要性を指摘した。

いずれも長年検討が重ねられてきた課題だ。膨らみ続ける年金、医療、介護費用を抑制するには、高齢者や高所得者を中心に痛みを求めざるを得ない。

もう一つの成果は、民主党が掲げてきた「最低保障年金」や「後期高齢者医療制度の廃止」を盛り込まなかったことである。

国民会議は民主党政権下で、自民、公明両党との3党合意に基づいて設置された。だが、非現実的な最低保障年金などを自民党は受け入れず、中途半端で無責任な状態が続いていた。論争に決着がついた以上、現実的な改革案づくりを加速するときだ。

国民会議は報告書案を週明けにも正式決定し、安倍晋三首相に提出する。課題はこれらをどう実現に結びつけるかだ。政府・与党は今後、改革メニューにさらなる検討を加える。懸念は、歴代政権の多くにみられたように、高齢者などの負担増について、支持団体や有権者の反発を恐れて骨抜きにしてしまうことだ。

これからが本番の少子高齢化を前に本格的な改革に着手しなければ、団塊世代の高齢化に間に合わず、社会保障制度そのものの維持も危うくなる。安倍政権は報告書を「ラストチャンス」と位置づけて改革に邁進(まいしん)すべきだ。

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