元警部補の不起訴 捜査への信頼が問われる

朝日新聞 2013年07月27日

元警官不起訴 ずさん捜査なぜ断てぬ

富山市で10年4月に会社役員夫妻が殺害された事件で、容疑者とされた富山県警の元警部補が不起訴処分になった。

元警部補は昨年12月の逮捕時点では容疑を認める供述をしていたというが、証拠や犯行現場の状況と合わない点が多く見つかった。検察は起訴しても裁判員裁判で有罪判決を得るのは難しいと判断した。

日本の刑事司法では自白偏重の傾向が長く続いてきたが、裁判員裁判の導入後、客観的な証拠をより重視する流れが強まっている。証拠での裏付けが不十分なまま起訴に踏み切らなかった検察の判断は妥当といえる。

問題は、富山県警のずさんな捜査である。

逮捕の決め手としたのは、事件2カ月後の10年6月に出版社に届き、県警が昨年8月になって押収した「犯行声明文」入りのCD―Rだった。県警はデータに元警部補に結びつく情報があったとして、本人が送ったと判断した。

しかしその後の捜査で、文書作成ソフトのバージョンが元警部補のパソコンのものと異なるなどの疑問点が浮かんだ。県警幹部は「捜査は適正だった」と言うが、逮捕前の証拠固めが不十分だったことは明らかだ。

富山県警は02年にも強姦(ごうかん)事件で無実の男性を逮捕し、服役させるという深刻な冤罪(えんざい)事件を起こした。警察庁は、その検証報告書で「証拠の検討や供述の裏付け捜査が不十分だった」と指摘している。

今回、その反省はまったく生かされなかった。

殺害された夫妻の遺族は「なぜ自供しているのに不起訴なのか」「捜査に時間がかかりすぎている」と憤る。遺族側は近く、検察審査会に不服を申し立てるという。その心情は察するにあまりある。

一連の捜査の検証はもちろん必要だ。ただ、警察が信頼を取り戻すには真相を解明する以外にない。県警と検察は態勢を一から立て直して再捜査に臨むべきだ。捜査状況について、遺族側に適切な説明をしていくことも求めたい。

元警部補は別件の情報漏洩(ろうえい)事件で執行猶予付きの有罪判決を受け、釈放された。夫妻殺害事件について「疑いをもたれたことは反省しないといけない」と報道陣に述べている。

懲戒免職されたとはいえ、かつては警察官だった。容疑を一時認めたことや、被害者夫妻とのかかわりについては不明な点が残る。真相解明に向け、知っていることはできる限り語ってもらいたい。

産経新聞 2013年07月26日

元警部補の不起訴 捜査への信頼が問われる

富山市で平成22年4月に会社役員夫婦が殺害された事件で、殺人などの疑いで逮捕された富山県警の元警部補が嫌疑不十分で不起訴となった。

元警部補は週刊誌に犯行への関与を告白する文書を送りつけ、当初の調べに容疑を認めていた。不起訴となったのは供述と客観的証拠がことごとく食い違ったためだ。富山県警は本当に調べを尽くしたのか。

捜査幹部は、「逮捕に踏み切ったのは刑事の勘」とも話したのだという。そこに、身内の供述を頼る予断と怠慢はなかったか。そうした自白偏重が、これまで冤罪(えんざい)を生み、一方で真犯人を取り逃がすことにもつながってきたのだ。

徹底的な捜査経緯の検証と再捜査に全力を傾けるべきだ。捜査機関への信頼回復なしに、社会の公正と治安の維持は望めない。

被害者の遺族は「ひたすら悔しい」と検察審査会に審査を申し立てる方針を表明した。遺族の心情としては当然のことと理解できるが、検審で審議対象となるのは主に警察と検察の捜査資料だ。

供述と証拠の矛盾に目をつぶった資料を与えられては、国民から選ばれる検察審査員も当惑するばかりだろう。まずは一から客観的に証拠を洗い直し、精査することこそ急がれる。

遺族はまた、週刊誌に「犯人は私」とする文書が届いてから、県警が押収するまで2年以上かかったことを「時間がかかりすぎている」と批判した。警察、検察の事件対応についても熱意が感じられず、「失望の連続だった」と断じた。捜査手法や遺族への対応についても、厳しく検証すべきだ。

長崎県や神奈川県では警察の対応の遅れや配慮の足りない事件対応が、ストーカー男による悲惨な殺人事件を誘発した。

警察庁によれば、今年1~6月に免職や停職の懲戒処分を受けた警察官や警察職員は67人で、警察改革が始まった12年以降、上半期としては3番目の多さだった。処分理由では異性関係が61人を占め、中でもセクハラは過去最多の31人だった。

愛知県警豊田署の交番では巡査部長らが賭けマージャンをしていたことがわかり、警官数人が懲戒処分となる見通しだ。

たるんでいる。失った信頼を回復するには、徹底した綱紀粛正と、地道な捜査で事件に対峙(たいじ)し続けるしかないはずだ。

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