小沢訪中団 国益に資する議論を望む

読売新聞 2009年12月12日

小沢訪中団 握手とツーショットだけでは

民主党国会議員が大挙して中国を訪問し、胡錦濤・国家主席と次々に握手をして、ツーショット写真に納まる。そんな光景に首をかしげた人は少なくないだろう。

小沢幹事長を名誉団長とする訪中団の参加者は、先の衆院選で当選した新人をはじめ、衆参国会議員143人。各議員の支持者らを含めると600人を超えた。

今回の訪中は、小沢氏が自民党時代から進めてきた日中交流「長城計画」の一環だ。

同時に、民主党と中国共産党との定期協議の場「交流協議機構」の政治家交流も兼ねている。これは、小沢氏が党代表を務めていた2006年7月、胡主席との会談で提案し、設置が決まった。

日中の政治家同士のパイプが細くなる中で、政党間交流を活発化させる意義は大きい。

しかし、新政権にとって初の予算編成が本格化しているこの時期に、これほど多数の与党・民主党議員が一斉に訪問する必要性はあったのか。

小沢氏は10日、胡主席と会談した。しかし、日中2国間の懸案は素通りしたという。

中国製の冷凍ギョーザ事件は依然、未解決のままだ。東シナ海のガス田開発問題で、中国側は、日本との条約交渉を拒むとともに、「白樺」ガス田では一方的に掘削開始の態勢を整えつつある。

読売新聞などが11月に実施した日中共同世論調査によると、日本では中国を「信頼できない」と答えた人が7割に上った。これらの問題が中国への信頼感に大きな影を落としているのは確実だ。

小沢氏は、胡主席との会談の中で、「政府間では、どうしても形式的な議論に陥る。党と党のレベルでは、あらゆる問題を話し合えるように」と語っている。

小沢氏には早速、自ら実践し、胡主席と率直な意見交換をしてほしかった。ただ、11日の梁光烈国防相との会談では、中国の軍事力増強に懸念を示した。こんな忌憚(きたん)のない対話が必要だろう。

鳩山内閣は、普天間問題の混乱で日米首脳会談も実現できず、日米関係は危機的な状況にある。

心配なのは、小沢訪中団が、民主党政権の「対中傾斜」を内外に印象づけ、対米関係に悪影響をもたらしかねないことだ。

むろん、日中の友好関係は大切だ。だが、両国間には友好だけでは解決できない複雑な問題が多数存在する。政党間交流は、その点を踏まえ、もっと少人数の相互訪問で実務的に進めるべきだ。

産経新聞 2009年12月10日

小沢訪中団 国益に資する議論を望む

民主党の小沢一郎幹事長をトップ(名誉団長)とする訪中団が10日出発する。輿石東参院議員会長ら計143人の衆参両院議員に支持者らも加わり、総勢は実に600人以上にのぼる。

「心と心の交流」(訪中団の案内状)を強調する小沢氏は胡錦濤国家主席と会談する予定だ。日中両国の意思疎通を図るうえで、顔合わせの意義はある。

だが、米軍普天間飛行場の移設問題で日米関係の亀裂が拡大しつつあるこの時期、日本からの大がかりな訪中団が世界に与える印象は、必ずしも日本の国益にかなうとはいえまい。

議員の参加者は6つのグループに分かれ、外交、商務、環境保護など分野ごとに中国政府の関係機関や軍事施設、経済技術開発区、農村などを訪問するようだ。わずか3泊4日の日程だが、突っ込んだ意見交換を求めたい。

小沢氏は北京には1泊しかせず、翌11日には韓国・ソウルへ飛んで李明博大統領との非公式夕食会にのぞむ別日程をとる。自国の国益を守る毅然(きぜん)とした姿勢をみせてほしい。

今や中国は日本にとっての最大の貿易相手国であり、最大の投資先だ。日米も欧州も、金融危機と同時不況から抜け出すためには、今年も8・5%の成長率が見込める中国経済に頼らざるをえない現実がある。

しかし、政権党がかかわった訪中団である。中国が一党独裁国家であり、日中間の多くの懸案が未解決のままであることを念頭に置くべきだ。

最近では日中両国が共同開発で合意している東シナ海のガス田に関し、日本が出資予定の「白樺」で中国側が一方的に掘削施設を完成させた。背景に、エネルギー資源の確保を目的とする軍事力、とくに海軍の増強路線があることも忘れてはならない。

訪中団には先の衆院選で初当選した新人議員が約80人も含まれている。ガス田問題のほか、軍事力の透明化、ギョーザ中毒事件を教訓とした食品の安全対策など、中国側と議論するテーマは少なくないはずだ。将来につながる経験の場としてほしい。

両国の間には、「日中友好」では律しきれない複雑な利害の対立が生起している。そうした問題を糊塗(こと)したり封じ込めたりすることのない「真の友人関係」の一助となる訪問を期待する。

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