原発と民意 推進への信任ではない

朝日新聞 2013年07月26日

原発の規制 安全側に立つ科学で

参院選で、原発の再稼働に前のめりな自民党が圧勝した。

福島の原発事故は今も収束のめどがない。それなのに、なし崩しに再稼働が進むのかと心配する人も多いだろう。

だが自民党公約には、こんな一文がある。「原発の安全性については、原子力規制委員会の専門的判断に委ねます」。自ら一定の歯止めをかけている。

問題は、本当に規制委に委ねることができるか否かだ。

規制委が「原子炉建屋直下に活断層がある」と判断した福井県の敦賀原発2号機では、事業者の日本原電が「科学的な判断になっていない」と、独自調査を基に再考を求めている。

気になるのは、原発に依存する立地自治体や、脱原発を批判する一部メディア、国会議員らがスクラムを組んだように、規制委に「非科学的」「公正でない」などとレッテルを貼って批判を強めていることだ。

福島での大事故を受けて、原発の規制をどう考えるべきなのか。いま一度、原理原則をはっきりさせておく必要がある。

肝心なのは、「疑わしきはクロ」の基本姿勢だ。

活断層にはわからないことが多い。専門家の意見が完全一致しない事例があっても、科学として何も不自然ではない。

もともと、原発が急増した80年代まで一部の活断層しか知られていなかった。研究が進んで危険評価が変わり、3年前、活断層の真上に重要施設を作ってはいけないと明文化された。

この間にも、事業者が「活断層でない」と主張してきたものが、実は活断層であることがわかってきた。その一つが、敦賀原発の浦底断層である。

90年代から存在を指摘されたが、日本原電は否定を続け、08年にようやく認めた。そして今回、規制委は、原子炉建屋直下の断層が浦底断層と連動すると判断した。現在入手できる科学的知見を基に、「疑わしきはクロ」の原則に立ったのだ。

規制委は、「想定外」を防げなかった福島の教訓からできた。信頼性を高めるため、安全性を判断する専門家を関係学会の推薦に基づいて選び、審議の過程も公開している。

それでも事業者は、自らの主張を裏付ける専門家の存在をたてに、規制委判断に異議を唱える。とにかく再稼働と言わんばかりの、安全側に立たない姿勢が何をもたらすか。

「ワッハッハこれで減らせる活断層」(参院選後の朝日川柳)。まさかとは思うが、そんな非科学的なことがまかり通ることがあってはならない。

毎日新聞 2013年07月23日

原発と民意 推進への信任ではない

自民党の圧勝で、原発推進にお墨付きが与えられたと考える人がいるかもしれないが、誤りだ。

確かに、選挙公約で「原発ゼロ」を掲げなかったのは自民党だけだった。新規制基準をクリアした原発の再稼働を進め、地元自治体の理解が得られるよう最大限努力するという内容だ。

しかし、これまでの世論調査を見れば原発に頼らない社会を望む人が多いことは間違いない。選挙前の毎日新聞の世論調査でも、新規制基準を満たした原発について、「再稼働させるべきだと思わない」と答えた人が過半数に上った。

「原発ゼロ」「脱依存」を望む人の受け皿となるべき野党が分散したのに加え、自民党がエネルギー政策の全体像を語らなかったために、原発を巡る与野党の論争は深まらなかった。結果的に民意が集約されなかったが、東京選挙区で「脱原発」を掲げた共産党新人の吉良佳子さんや、無所属新人の山本太郎さんが当選したのは、原発ゼロを重視した人々が少なくなかったことの表れと考えられる。

しかも、自民党自体が「原発推進」を掲げているわけではない。安倍晋三首相は選挙期間中も、「原発依存度を下げたい」と述べている。連立を組む公明党も、「原発ゼロ」を掲げる。

だとすれば、これからの自民党に求められるのは、エネルギー政策の全体像を描いた上で、原発依存度をどう低下させていくのか、道筋を示すことだ。その中で、核燃料サイクルや核のゴミ処分の方針も決める必要がある。

ひとつのきっかけは、年末にまとめる予定の「エネルギー基本計画」だ。ところが、安倍政権は「3年間で再生可能エネルギーを最大限導入し、10年以内に原発比率を含めたベストミックスを示す」という姿勢を崩していない。

10年もたってから示すとすれば、それは「計画」でも「政策」でもなく、「結果」に過ぎない。まず、原発の将来的なビジョンを明らかにした上で、それにあわせて他のエネルギーの目標を示すのが筋だ。

そうしなければ、再生可能エネルギーや高効率火力、省エネに対する意欲が鈍る。「電力自由化」や「発送電分離」などのエネルギー・電力改革も進まない。これまでの原発推進政策を転換するには、一定の期間、負担が増えることを国民に納得してもらうことも必要だ。

当然のことながら、再稼働に前のめりになり、原子力規制委員会の判断に介入することは許されない。再稼働は一定のリスクと隣り合わせであることも忘れないでほしい。

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