自民党の参院選圧勝で、憲法改正のまたとない好機を迎えた。
昨年末の衆院選に続き国民の強い支持を得た安倍晋三政権は、次の国政選挙まで最大3年間、着実にこの重要な国家的課題に取り組み前進させてほしい。首相はまず、その行程表ともいえる具体的なスケジュールを示すべきだ。
参院選で、自民党、日本維新の会、みんなの党などの改憲勢力は144議席を占めた。改正の発議に必要な参院の「3分の2」(162議席)には達しなかったが、連立を組む「加憲」の公明党を加えれば164議席となり、発議ラインを上回る。衆院はすでに改憲勢力が4分の3以上を占める。
≪3つの宿題は秋に≫
安倍首相は参院選後の記者会見で、憲法改正について「腰を落ち着けてじっくり進めていきたい」と述べた。石破茂幹事長も自民党の憲法改正草案について「対話集会を開いていく」と話した。
憲法改正案の是非を決するのは国民投票であり、まずその制度を機能させることだ。
安倍首相は、第1次内閣で成立した国民投票法実施の障害となっている3つの宿題、「投票権年齢の引き下げ」「公務員の政治的行為の制限緩和」「国民投票の対象」に結論を出す意向だ。
国民投票法の改正は、憲法本体改正へ向けた重要な措置である。同法改正案を秋の臨時国会に提出し、成立させてもらいたい。
本体について、改正の発議要件を3分の2以上から過半数に緩和する96条改正も最優先事項だ。
公明は96条改正に消極的だが、環境権のほか、自衛隊の存在や国際貢献を書き加えるなど9条の論議には応じる意向を示している。首相の粘り強い説得と公明の歩み寄りを期待したい。
憲法改正の核心はやはりその9条にある。首相は選挙期間中の民放番組で、「自衛隊を軍隊として認識してもらわなければ、国際法の中での行動ができない」と9条改正を目指す考えを明言した。
周辺で領海侵犯を繰り返す中国の尖閣諸島奪取の意図は、ますます露骨になっている。
選挙期間中も、北京市の弁護士が民兵1000人を募って尖閣に上陸、占拠する計画を明らかにした。また、中国共産党機関紙、人民日報は、尖閣周辺で活動する海洋監視船の近くに海軍艦船が停泊し、密に連携を取っているとする軍関係者の談話を掲載した。
戦力不保持を定めた現行憲法では、中国の海上民兵が尖閣に不法上陸した場合でも、自衛隊が十分な自衛権を行使できず、この固有の領土を奪われかねない。
9条で専守防衛を強いられていては、北朝鮮の核、ミサイル攻撃からも国を守れない。
≪核心の9条避けるな≫
現行憲法に国柄が明記されていないのも重大な欠陥だ。憲法は国家権力を縛るものだとする考え方が一部にあるが、憲法の役割はそれだけではない。日本の歴史を踏まえた国家像や国家の役割が明記されていなくてはならない。
現憲法は緊急事態に関し、国会閉会中の参院の緊急集会(54条)しか定めていない。東日本大震災で、時の菅直人首相は開会中だったことを理由に、災害対策基本法に基づく災害緊急事態を布告せず安全保障会議も開かなかった。
自然災害に限らず外国からの武力攻撃やテロに備えるためにも緊急事態条項の創設は急がれる。
憲法改正の課題は、条文の改正にとどまらない。
首相は会見で、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の見直しについて「有識者懇談会での議論を進める。公明党の理解を得る努力も積み重ねたい」と述べた。
「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二元駐米大使)は今秋、行使容認の提言をまとめる見通しだ。
公明の山口那津男代表は選挙戦で、「連立が可能かどうか、しっかり相談する。断固反対する」と述べ、行使容認に反対する姿勢を改めて明確にしている。
しかし、東アジアの安全保障環境が激変する中、日米同盟の維持強化は急務だ。それには、公海上で米艦船が攻撃された場合、自衛艦が米艦も守るなど集団的自衛権の行使容認は欠かせない。安倍首相や石破氏はこの点でも、公明の説得に本腰を入れるべきだ。
首相が掲げる「強い国」づくりのため、憲法改正への国民の理解を深める努力を重ねてほしい。
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