TPP初参加 積極交渉で国益追求を

朝日新聞 2013年07月24日

TPP交渉参加 情報公開を推進力に

日本が環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に加わった。

米国の主導で協議が本格化してから3年余り。日本の出遅れは否めない。

まずは入手した情報の分析を急ぎ、20を超える交渉分野ごとに主張を固め、全体の戦略を描く必要がある。

世界貿易機関(WTO)の多国間交渉が滞るなか、TPPが世界の通商ルールに大きな影響を与えるのは必至だ。

交渉参加国の中で、日本は米国とともに飛び抜けた大国である。自国の利益を訴えるだけでなく、世界の貿易・投資の自由化をにらみ、先進国と途上国の対立を調整する役回りも意識しなければならない。

交渉に際し、政府は次の二つのことに努めてほしい。

できるだけ情報を公開すること、そして交渉への懸念や批判をしっかりと聞くことだ。

TPPが日々の生活にどんな影響を与えるのか、食の安全や医療分野などを中心に、国民には根強い不安がある。

一方、日本は通商国家として発展してきただけに、成長著しいアジア・太平洋地域での自由化に乗り遅れては困るという理解も一般的だろう。

これまでは交渉の実態がよくわからず、さまざまな臆測が飛び交い、不安に拍車をかけてきた。参加国として得た正確な情報をもとに、わが国の利害得失を国民全体で考えてもらう。そうした姿勢が交渉の足元を固めることにつながり、推進力も生むのではないか。

政府内からは「TPPは秘密保持が厳しく、情報公開は難しい」という声が出ている。

むろん手の内をすべてさらすわけにはいかないが、工夫はできるはずだ。米国の議会調査局が最近まとめたTPPの報告書では、個別の国との意見対立にも触れている。秘密保持を理由に口をつぐむだけでは、国民の理解も進まない。

TPPへの懸念や批判に関しては、内外のNGO(非政府組織)との情報交換も重視してほしい。

国際交渉でNGOが重要なプレーヤーとなって久しい。性急な経済自由化に反対したり、先進国主導になりがちな交渉に途上国の立場から目を光らせたりするのが基本だが、自らの主張を反映させるために各国政府と連携し、独自情報を提供するNGOも少なくない。

こうしたNGOを敬遠するばかりでは情報網は広がらない。状況に応じて各国のNGOを味方につけるぐらいの構えで交渉に臨んでもらいたい。

毎日新聞 2013年07月24日

TPP初参加 積極交渉で国益追求を

日本が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉会合に初めて参加した。今回は25日までの実質2日半に限られた参加であり、各国からの情報収集が主な目的になる。

安倍晋三首相の政権基盤は参院選での与党の大勝で安定した。農業の強化、反対派の説得にも腰を据えて取り組めるはずだ。遅れての参加だけに、さまざまな制約があることは否めないが、国益を追求する積極的な交渉を期待したい。

TPPでは、関税撤廃やサービス取引など21分野で交渉が進んでいるが、今回参加できるのは知的財産権の保護、政府調達など6分野に限られる。焦点の関税撤廃を巡る交渉は、8月下旬に予定される次回会合以降に持ち越される。

米国など既存の参加11カ国は、年内の交渉決着を目指している。もっとも、関税撤廃交渉などが難航しているため越年する公算が大きく、来年春ごろにヤマ場を迎えるとの見方が大勢のようだ。それでも、日本に残された時間は限られている。

少子高齢化で国内市場の拡大に多くを望めない日本経済は、アジア・太平洋地域の成長力を取り込む必要がある。メリットは自動車など工業製品の輸出にとどまらず、金融や情報通信などのサービス取引、投資の促進、知的財産権など広範に及ぶ。

ところが、国内にはいまだに反対論や慎重論が根強い。衆参両院の農林水産委員会はコメや麦、乳製品など「重要5品目」を挙げ「聖域確保を最優先」とする決議をしている。

その重要5品目だけでも全貿易品目の6%強を占める。関税の原則撤廃を目指すTPPで聖域確保を最優先したのでは、獲得すべき分野で譲歩を余儀なくされるおそれもある。「国益を守る」という消極的な交渉姿勢では、国益を獲得する機会を逃しかねないことを認識すべきだ。

そうなってはTPP参加の意義は薄れ、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国に日中韓など6カ国が加わる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)など他の自由貿易交渉にも悪影響が及ぶだろう。

攻めの姿勢で交渉に臨むためには、真に守るべき「重要品目」を選別するとともに、関税撤廃・削減で打撃を受ける国内産業に必要な対策を打ち出す必要がある。強い抵抗も予想されるが、安倍政権は安定した基盤を生かしてそれを乗り越え、国民全体の利益を追求すべきだ。

一方、医療保険制度や食の安全などを巡って、国民の間に不安があることも否めない。正式参加したことで、政府は交渉の全容を把握できるようになった。その情報をもとに丁寧な説明で、不安解消に努めることも忘れてはならない。

読売新聞 2013年07月26日

TPP交渉参加 攻守両にらみ戦略で挽回せよ

日本がようやく、米国など11か国が進める環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加した。

安倍首相は、「交渉力を駆使し、守るべきものは守り、攻めるべきものは攻め、国益にかなう最善の道を追求する」と強調している。

政府は、出遅れ挽回へ、攻守両にらみの戦略を強化すべきだ。

TPP交渉会合がマレーシアで開かれ、日本は12番目のメンバーとして2日半だけ合流した。

関税撤廃、知的財産権、投資など29章に及ぶTPP交渉をまとめた文書が、初めて日本に開示された。全体像を把握できるようになった意味は大きい。

次回会合は8月末にブルネイで開かれ、日米協議も8月以降、並行して行われる。政府は各国の主張を分析し、加速する交渉への対応を急がねばならない。

米国などは、10月の基本合意と年内妥結を目標に掲げている。マレーシアの代表も25日の記者会見で、「妥結期限に間に合うよう精力的に議論する」と強調した。

ただし、最大の焦点の関税撤廃を巡っては各国が対立し、交渉が停滞している模様だ。

今のペースでは年内決着は難しく、交渉が越年する可能性がある。日本の立場は依然厳しいが、出遅れを取り戻す余地は広がろう。

自民党は参院選で、コメ、麦など「農産物5品目の聖域を最優先する」と主張した。

全国農業協同組合中央会(JA全中)出身の山田俊男参院議員が比例選の上位で再選され、国益を守り抜くよう求めている。TPP反対を掲げた鹿児島選挙区の尾辻秀久参院議員も5選された。

党内にはなおTPP反対論がくすぶるものの、政府・自民党が急ぐべきは、一層の市場開放に備えて、農業の競争力を強化する具体策を推進することである。

TPPは高水準の自由化が目標で、コメなど全てを関税撤廃の例外扱いとして守ることが日本の国益に資するとは限らない。バランスの取れた戦略が必要だ。

自動車、電機などの関税撤廃による輸出拡大や、外資規制撤廃といったビジネス環境整備での「攻め」がむしろ重要と言える。

TPPは世界の国内総生産(GDP)の約4割を占める巨大な自由貿易圏である。日本はTPPでアジアの活力を取り込み、成長に弾みを付けねばならない。

日本がアジアの貿易・投資ルール作りをどう主導するのか。安倍政権が重視する成長戦略の行方をも左右する正念場になる。

産経新聞 2013年07月24日

TPP交渉合流 成長力高める合意目指せ

日本が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉に初めて参加し、貿易や投資などの自由化を推進する協議が本格的に始まった。

アジア・太平洋地域の経済成長を日本に取り込むための重要な交渉だ。安倍晋三政権は参加の出遅れを挽回するため、交渉をリードする覚悟をもってほしい。

自民党は参院選公約で「国益にかなう最善の道を追求する」と掲げた。TPPに反対する農業団体などへの配慮だが、国益とは農産品などへの関税を死守するだけではない。農業の競争力の強化を図りつつ、国全体の利益を見据えて交渉に臨むことが不可欠だ。

マレーシアで25日までの予定で開催されている交渉会合では、米議会の承認手続きを経て日本は23日午後から正式参加が認められた。米や豪州など11カ国が先行参加するTPPの交渉会合は、すでに今回で18回目となる。日本はこれまでの交渉経過や協議内容などをしっかりと把握し、今後の交渉に生かさねばならない。

交渉参加にあたり、菅義偉官房長官は「交渉力を駆使してわが国として守るべきは守り、攻めるべきは攻めていく」と強調した。24日からは日本に交渉経過を説明する集中討議も開かれる予定だ。あらゆる場を通じ、日本の国益を追求する交渉力を発揮すべきだ。

心配なのは、参院選で圧勝した自民党で、TPPへの反対論が強まりかねないことだ。農業団体の支援を受けた議員らは、参院選までは安倍政権への批判を抑えてきたが、交渉の本格化に伴って反対論が噴出する恐れがある。交渉参加を決断した首相の指導力があらためて問われる。

今回の会合には、日本から交渉団として約100人が参加し、これとは別に自民党の西川公也TPP対策委員長や農協関係者も現地入りした。交渉の監視役との見方もあるが、関税撤廃の阻止だけでは農業再生を果たすことはできない。政府は交渉と並行して農業の競争力向上策を急ぐべきだ。

日本が交渉に加わったことで、TPPは参加国の国内総生産(GDP)が世界全体の4割近くを占める大きな存在となる。

この枠組みで自由な貿易や投資が可能になれば、日本の成長力をさらに高めることにつながる。交渉妥結へ主導的な役割を日本には担ってほしい。

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