「強い日本」を取り戻すために有権者は政治の安定を求め、強力な政権が内外の危機を克服することに期待を託した。
第23回参院選で自民、公明両党が非改選議席と合わせて安定多数を確保し、衆参ねじれの解消を果たした意味合いといえよう。
内政・外交面での安倍晋三政権の施策が国民から信任された。
民主党は改選議席を大きく下回る大惨敗を喫した。一時は政党支持率で民主を上回った日本維新の会も、第三極を形成するには至らなかった。衆院選以降の「1強多弱」が改めて示された。
≪成長戦略の具体化急げ≫
圧勝を受け、安倍首相は「決める政治を力強く進める」と語った。社会保障費の抑制をはじめ国民の痛みを伴う改革の議論の「封印」を解き、躊躇(ちゅうちょ)せずに取り組まねばならない。
自民党は、憲法改正の発議要件を緩和する96条改正の先行方針を公約から外した。参院選までは憲法問題で突出しない方が良いとの判断からだが、国家の根幹の課題を放置しておけない。戦力不保持などをうたう現行の9条下では自衛権が強く抑制され、尖閣諸島の危機への対処も難しい状況にあることを忘れてはならない。
経済政策では、アベノミクスの3本目の矢と位置付けられる成長戦略の具体化が残っている。
生産設備の更新や事業再編に取り組む企業の税負担を軽減し、投資を喚起しなければならない。雇用の増加や賃金の引き上げで家計に成長の恩恵をもたらすには、企業収益の向上が欠かせない。
企業活力を引き出す大胆な規制改革も必要だ。農業や医療など反対の多い分野も、聖域とせずに取り組む覚悟を問われよう。
経済成長に不可欠な電力の安定供給を確保するため、安全性が確認された原発の早期再稼働を主導する立場も貫かねばならない。
選挙後直ちに取り組まなければならないのは、社会保障制度の問題だ。政府の「社会保障制度改革国民会議」は近く最終報告書をまとめる。焦点は、社会保障費が膨張を続ける中でいかにサービスの抑制や負担増に踏み込むかだ。
自民党は公約でも「国民会議の審議の結果」を見守る立場で、具体策への言及を避けた。無責任な態度を続けることは許されない。70~74歳の医療費窓口負担の2割への引き上げなど、不人気な改革こそ首相の指導力が必要だ。
憲法改正が大きな争点となった今回の選挙で、自民のほか改正方針を明確にしている各党が議席を増やしたことに注目したい。
維新、みんなの党との3党では、改正発議に必要な3分の2以上の勢力を参院で構築するには至らなかった。だが、参院選を機に公明党も「加憲」の考え方から9条改正論議に応じる姿勢を示した。衆院では自民、維新などで3分の2以上を占める。参院で3党に公明を加えれば、潜在的には両院で改正発議が可能な環境に大きく近づいたといえ、その意義は大きい。
≪海江田氏の続投は疑問≫
気になるのは、公明党が連立政権内での「ブレーキ役」を強調したことだ。首相が意欲を示す集団的自衛権の行使容認や原発再稼働に反対し、慎重論を唱える意味なら、課題を実現する「安定」とは程遠いものとなりかねない。
昨年の党分裂、衆院選惨敗で政権から転落した民主党は、再び大敗し、党再生がまったく軌道に乗っていないことを露呈した。
アベノミクスの「副作用」を批判したが、説得力を持つ対案は示せないなど政策面の力不足が大きい。財源確保策を示すことなく、巨額の財源を必要とする最低保障年金の創設を改めて持ち出したが、有権者に受け入れられると本気で考えたのだろうか。
国民の信頼を回復できず、受け皿としての存在も示せなかった海江田万里代表の責任は極めて重大だ。海江田氏は21日夜、続投の意向を示したが、現体制のまま党再生を図れるとは思えない。
維新は、橋下徹共同代表の「慰安婦」発言が強い批判を浴びる前から失速傾向が強まっていた。東京と大阪に拠点が分かれ、重要政策や党運営をめぐる混乱を繰り返している印象は否めない。信頼回復へ課題は多い。
受け皿となる有力な野党がなければ、与党は緊張感を欠き、政権交代可能な二大政党も望めない。野党全体の立て直しが急務だ。
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