エジプト情勢 モルシ氏の解放が筋だ

毎日新聞 2013年07月19日

エジプト情勢 モルシ氏の解放が筋だ

エジプトの暫定内閣(16日発足)はイスラム勢力からの入閣がなかった半面、クーデターを主導したシシ国防相が第1副首相を兼任するなど、軍に配慮した布陣となった。国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ前事務局長が副大統領に、経済学者のベブラウィ氏が暫定首相にそれぞれ就任したことも含めて、エジプトの政治は世俗・リベラル派が一気に主流になったのである。

ある意味では欧米が歓迎すべき状況だろう。イスラム色の強い政権よりも、欧米がくみしやすいのは確かだからだ。だが、米オバマ政権や欧州諸国には歓迎よりも憂慮と懸念が目立つ。イスラム勢力が参加しない政治体制には長期的な安定を望みにくいと心配しているのだろう。

それも無理はない。エジプトの選択は尊重すべきである。だが、30年に及ぶムバラク独裁体制が崩れた後、この国は民主的な選挙でモルシ氏を新たな大統領に選んだ。そのモルシ氏がたった1年で権力の座から引きずり降ろされ、いまだ軍・治安当局の軟禁・拘束下にあることを、私たちはどう考えればいいのか。

モルシ氏の政治に多くの国民が不満を持ち、失望したことは事実である。同氏がデモ隊の殺害を扇動したという刑事告発もあるという。しかし、それらは同氏を拘束しておく理由にはなるまい。暫定政権は同氏を速やかに解放するのが筋だろう。

今月3日の政変について、米国はクーデターとは「即断しない」(ケリー国務長官)との立場だ。クーデターとみなせば、米国はエジプトへの支援を見直さざるを得ない。そうなれば対中東政策の要であるエジプトとの関係は悪化し、米国の同盟国イスラエルの安全保障にも影響しかねないとの判断からだ。

だが、その米国も12日、モルシ氏の釈放を初めて求めた。欧州連合(EU)のアシュトン外務・安全保障政策上級代表(外相)も17日、エジプトを訪れ、加盟国の総意としてモルシ氏釈放を要望した。暫定政権がこの上、拘束を続けるのは対欧米関係においても得策ではあるまい。

モルシ氏が自由になれば同氏の出身母体・ムスリム同胞団などのイスラム勢力が勢いづき、対立が激化する事態も予想される。だが、かといって、ムバラク政権のように力でイスラム勢力を抑えつけても民主化や安定、繁栄への展望が開けないことは、多くの国民が知っていよう。

この国は長年、軍とイスラム勢力が抗争を続けてきたからだ。今は、そんな暗い過去へ逆戻りするかどうかの分かれ道ともいえる。だからこそ同胞団を含めた全勢力の話し合いが必要だ。モルシ氏を拘束する限り、そうした話し合いは望めまい。

読売新聞 2013年07月20日

エジプト情勢 民政復帰への道のりは険しい

軍による事実上のクーデターによってモルシ前大統領が解任されたエジプトで、マンスール暫定大統領をトップとする暫定政府が発足した。

実体は軍主導の政府だ。シシ国防相は留任し、第1副首相を兼任する。閣僚には、経済専門家が多数起用された。経済悪化への国民の不満に配慮し、経済重視をアピールする布陣である。

エルバラダイ前国際原子力機関(IAEA)事務局長ら世俗派の代表も政府の中枢に入った。

だが、モルシ氏の支持基盤のイスラム主義組織・ムスリム同胞団は暫定政府への参加を拒んだ。

イスラム主義勢力が政府に参加していない以上、政情が安定することはとても望めない。

軍は、選挙で選ばれたモルシ氏を拘束した。超法規的措置だ。ムスリム同胞団はモルシ氏復職を求め、街頭で抗議行動を続けている。治安部隊との衝突などで流血の惨事が今後も起きる恐れがある。

暫定大統領が民政復帰への政治日程を発表したのも、民心の安定を図る狙いがあるのだろう。

10月までに、法律専門家や各界代表から成る委員会が憲法改正案をまとめ、11月までに国民投票にかける。来年1月までに議会選を実施し、議会招集後に大統領選の手続きを開始する。

想定通り進むか、どうか。前途は相当に険しい。

イスラム主義勢力を排除すれば、こうしたプロセスも正当性を欠く。早期に暫定政府とムスリム同胞団は話し合いのテーブルにつくべきだ。モルシ氏の解放が、その前提であるのは当然だ。

暫定政府は、治安回復や民政復帰だけでなく、経済危機の克服にも取り組まねばならない。とくに、観光客や外国からの投資を呼び戻すことが肝要だ。

ムスリム同胞団の勢力が自国内で伸長することを警戒するサウジアラビアなど、ペルシャ湾岸の君主国は、暫定政府に巨額の経済支援を約束した。

こうした支援をテコに、暫定政府は外貨準備不足の解消や経済の本格回復に努めねばならない。

エジプトの混乱が長引けば、中東全体が不安定となるのは避けられない。原油価格の高騰などで世界経済にも悪影響が及ぼう。

日本や米欧が、軍事クーデターが起きたにもかかわらず、経済援助を停止していないのも、エジプトの安定を優先するためだ。日米欧は連携して、国民和解と民政復帰の早期実現を、軍や暫定政府に働きかける必要がある。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1472/