中国経済 不透明な体質にメスを

朝日新聞 2013年07月16日

中国経済 不透明な体質にメスを

中国の4~6月期の経済統計が発表され、成長の鈍化傾向がはっきりしてきた。

投資、消費動向、輸出、どれをとっても力が不足ぎみだ。国際通貨基金(IMF)は、中国の今年の経済成長率について8・0%としていた4月時点の見通しを、わずか3カ月で7・8%へと下方修正した。

7%台という成長率自体、さほど悪いわけではない。世界が中国に注目するのは、金融システムに爆弾を抱えているのではないか、との懸念があるからにほかならない。

話は08年、リーマン・ショック直後に中国が打った大型景気対策にさかのぼる。当時その規模と素早さを称賛する声が多かったが、内情はお粗末だった。

中央政府の号令を受けた地方政府は、一斉に公共事業や不動産投資に走った。資金の大半は自力調達が求められたが、銀行の通常の融資には制限が多い。

そこで、信託会社が高利の金融商品で個人から集めた資金や、国有企業の余裕資金が流れ込んだ。これがシャドーバンキング(影の銀行)と呼ばれる、不透明な融資の膨張である。

全体像は分からない。政府は関係する金融商品の総額を8・2兆元(約130兆円)とみているが、それをはるかに上回るとする推計もある。それが、誰も入居しないアパートやオフィスビルの建設につぎ込まれた。早晩、不良債権が表面化する。

景気が減速しているにもかかわらず、李克強(リーコーチアン)首相は新たな景気対策に慎重だ。むしろこの機をとらえて投資を絞り、改革を進める狙いだろう。一時的に混乱はあるにせよ、判断として筋はとおっている。

ただ、問題の根は深い。非効率な投資が横行する一方、潜在力のある民間企業に資金が回らないという金融構造。成長志向から投資に走りがちな地方政府の体質。こうした病巣に、どこまでメスを入れることができるのか。現政権の力量をはかる試金石となろう。

中国の現状について、米国を震源に世界を揺るがせたサブプライムローンになぞらえる論調がある。当時は日本を含む各国の金融機関がかかわり、多大な影響を受けた。

シャドーバンキングは基本的に中国の国内問題であり、事情は異なる。とはいえ、貿易、投資を通じ各国と関係を深めた世界第2の経済大国が変調をきたせば、影響は大きい。

中国政府には、問題の所在と改革の道筋、解決の見通しについて、世界に説明していく責任がある。

毎日新聞 2013年07月17日

中国経済減速 改革の試練が始まる

中国経済が重大な転換点にさしかかっている。成長の鈍化が続く中、前政権下で進んだマネーの膨張や過剰投資をスムーズに是正できるかが焦点だ。かじ取りに失敗すれば、深刻な打撃が中国社会だけでなく世界を揺さぶる恐れがある。

今年4~6月期の国内総生産(GDP)伸び率は前年同期比7.5%と前期よりさらに減速した。先進国の基準からすると依然高いが、2年ほど前まで9~10%の拡大を続けていた中国経済である。5四半期連続の7%台成長は、中国経済が新しい局面に入ったことを明示している。

注目すべきは、そうした成長の鈍化を政府が容認している点だ。かつてのような景気浮揚策を選ばず、輸出や投資頼みの高度成長から、消費主導、巡航速度の成長へかじを切ろうとしている。調整過程で社会に痛みが及ぶのは避けられないが、ある程度受容する構えのようだ。

中国でも、自律的な安定成長のためには自由化、効率化の改革が不可欠である。政府は今年、7.5%の成長目標を掲げているが、多少の下振れがあっても、改革推進の姿勢を崩してはならない。

課題の中でも金融に関する改革は急務だ。李克強首相率いる政府は、開発ブームを後押しした「影の銀行」(シャドーバンキング)と呼ばれる、不透明な融資にメスを入れ始めた。当局の監督下にある銀行を経由しない非正規の融資が横行した背景には、成長目標達成が最重視されてきた地方行政や、銀行が自由に金利設定できない規制などがある。

リーマン・ショック後に実施された4兆元(約64兆円)の大規模景気対策を受け、地方政府は競うようにインフラ投資や不動産の開発を進めたが、そこにシャドーバンキング経由で流入したのが、高利回りを狙った富裕層や企業のマネーだった。

そうした資金はリスクの高い投資対象にも向かったとされ、不良債権化すれば、地方政府、企業、個人が巨額の損失を被る恐れがある。

危機を回避しつつ、改革を進めていくことは至難の業だろう。必要な金利の自由化も、安全網としての預金保険制度を整備しなければ、銀行間の競争激化で破綻、そして金融不安へとつながりかねない。一方、成長の急激な減速は、雇用情勢を悪化させ社会不安をもたらす心配がある。既得権益で潤ってきた勢力の反発を招き、政治が不安定化する可能性も排除できない。

世界経済を支えてきた中国経済は、痛み覚悟で、規模優先から質重視の成長という次のステージに踏み出した。各国の政府、中央銀行、そして企業も、新しい現実を受け入れ、対処する覚悟が求められる。

産経新聞 2013年07月17日

中国経済減速 いびつな成長から脱却を

世界経済の成長エンジンだった中国経済の鈍化傾向が鮮明になってきた。習近平政権は、中国発の世界経済危機を招かないよう、経済運営に細心の注意を払わなければならない。

同時に中国経済が構造改革の緒にあるということを忘れてはならない。従来の超高度成長モデルは深刻な格差拡大や汚職の蔓延(まんえん)、環境破壊など、さまざまな矛盾を内包していた。過剰な投資で経済規模ばかりを追求したいびつな成長路線から脱却し、世界2位の経済大国にふさわしい経済構造に転換しなければならない。

中国の4~6月期の実質国内総生産(GDP)成長率は、2四半期連続で減速し、前年同期比7・5%にとどまった。

日本と比べれば高い水準だが、かつての中国は、8%を下回ると雇用に不安が生じる懸念があるとも指摘されていた。成長を支えてきた頼みの輸出にも急ブレーキがかかり、6月は事実上3年7カ月ぶりのマイナスとなった。

10%超の成長率が当たり前だったころの中国経済は、安価で豊富な労働力に裏打ちされた輸出と、積極的な投資に支えられてきた。だが、ここにきて賃金上昇や高齢化による生産年齢人口の減少が懸念されている。

「影の銀行(シャドーバンキング)」と呼ばれる不透明な金融取引が過剰投資の温床となり、不良債権化の懸念も大きい。

もはや、従来型の高度成長路線は困難である。投資規模の拡大に偏るのではなく、消費が経済を牽引(けんいん)する安定的な経済成長に移行することが喫緊の課題だ。そのためには、影の銀行などの膿(うみ)を出す構造改革が欠かせない。

今のところ習政権は、景気減速を受けた対症療法的な景気刺激策には慎重だ。影の銀行対策では金融を引き締めている。量から質へと経済構造の転換を図ろうとする方向性は評価できる。

世界経済に甚大な影響を与えるようでは論外だが、まずは、習政権の改革姿勢を見極めたい。

その際、中国が経済実態を正確に開示すべきことは当然だ。米中戦略・経済対話で米国が中国の改革継続を求めたように、19日から開催される20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では中国経済も焦点のひとつとなる。

中国が都合の悪い経済実態を隠すことは許されない。

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