オバマ受賞演説 対テロ戦争の場に変えた  

毎日新聞 2009年12月12日

オバマ大統領 平和賞に恥じぬ実績を

ソ連がキューバに核ミサイルを据え付けた62年10月、ケネディ米大統領(当時)は米ソの「世界的な核戦争」の恐れに言及し、それが不可避であれば米国民は決しておじけづくことはないと演説した。ソ連はその後ミサイルを撤去し、幸い核戦争には至らなかった。この時の決然たる演説は、悲劇的な死(暗殺)と相まってケネディを名大統領に押し上げる原動力になったとされる。

ノーベル平和賞授賞式の演説でオバマ米大統領が武力行使の意義を説いたのも、弱いイメージを持たれたくないためだろう。受賞がアフガニスタン軍事作戦の足かせになっては困るという計算もあるはずだ。オバマ氏はガンジーやキング牧師の非暴力主義をたたえつつ「非暴力運動ではヒトラーの軍隊を止めることはできなかっただろう」として「正しい戦争」の概念を説明した。

「世界には悪が存在する」というオバマ氏の言葉は、ブッシュ前大統領が口にした「悪の枢軸」(イラク、イラン、北朝鮮)さえ連想させた。もちろんオバマ氏は超大国の軍事力を軽々しく使う指導者ではないだろう。平和を守るには時として軍事力に頼るしかないという主張には基本的に共感できる。

米国は数々の軍事行動を経験してきた。近年ではブッシュ前大統領(共和)のアフガニスタン攻撃とイラク戦争、クリントン元大統領(民主)の数次にわたるイラク空爆とユーゴスラビア空爆、その前のブッシュ元大統領(共和)のパナマ侵攻や湾岸戦争、レーガン元大統領(同)のグレナダ侵攻などが、その例だ。

偶然かどうか、再選がかかる大統領選の前に大規模な軍事行動に踏み切る例が目立つが、「力を背景にした外交」はもともと米国に特徴的なものである。オバマ氏もアフガン以外で武力使用の決断を迫られるかもしれない。「正しい戦争」であるはずのアフガン攻撃に、さらに深入りしていくことも考えられよう。

その半面、北朝鮮問題では米国の「力を背景にした外交」が期待できず、苦しい対応が続いているが、米国には「軍事力はハンマーだが、すべての問題がクギであるとは限らない」という言葉も伝わる。問題解決の手段はさまざまだ。同盟国の日本を脅かす北朝鮮の核・ミサイルに対処する強い外交力をオバマ政権に改めて要望したい。

オバマ大統領はこれまで何回か重要演説をしてきた。理念は十分に示したと言えよう。今後の課題は、打ち出したビジョンを実現する実行力を見せることだ。受賞は時期尚早などと批判するよりも、オバマ氏の今後の活躍に期待する方が建設的というものだ。

産経新聞 2009年12月12日

オバマ受賞演説 対テロ戦争の場に変えた  

ノーベル平和賞を受賞したオバマ米大統領は、2つの戦争を抱える「現実」と核廃絶の「理想」のジレンマに陥っていたのだろうか。そうではない。オスロの受賞演説ではむしろ、犠牲を伴っても対テロ戦争を戦い抜く決意表明の場に授賞式を活用していた。

オバマ大統領の平和賞受賞をめぐっては「就任1年で何の実績もない」とする批判が米国内で広がっていた。大統領が掲げた「核なき世界」への理想論に対しても、核超大国として現実からの遊離が懸念されていた。

ノーベル賞委員会もそれと知りながら、大統領が理想から逸脱しないように平和賞で縛りつけたともいえる。これに対し、大統領の受賞演説は「私は2つの戦争の渦中にある国の最高司令官である」という事実をあげ、世界の聴衆を現実世界に引き戻した。

その上で「望ましいというだけでは平和は達成できない」「平和には責任と犠牲が伴う」と指摘して、やむを得ぬ武力の必要性を強調した。アフガニスタンへの3万人増派の正当性を訴えたのだ。

日本でオバマ大統領といえば、4月のプラハ演説によって、核廃絶を目指す「平和の司祭」と受け取られていた。

しかし、武力行使を伴わない外交戦略には、(1)法律戦(2)世論戦(3)心理戦−の3つが含まれている。法的な優位を獲得した後に、世論を啓発し、自国の利益に引きつける。大統領の核廃絶という理想主義のウラには、国際テロリストへの核流出や拡散を防ぐ狙いがあったことに気づくべきだ。

さらに、中国の「核兵器増強」への牽制(けんせい)、核拡散防止条約(NPT)体制の維持−も含まれ、国益に基づく緻密(ちみつ)な計算があった。その意味で、4月のプラハ演説と今回のオスロ演説の間には表現の違いだけで何の矛盾もない。

プラハ演説はまず、米国の道義的責任をうたい、「核なき世界」を目指すとして倫理的な優位を巧みに印象づけた。だが、真意はその次にくる。「核兵器が存在する限り、いかなる敵であろうとこれを抑止する」とし、「規則を破れば必ずその報いを受ける制度を構築する」と織り込んだ。

鳩山由紀夫首相のように、オバマ発言をもって、彼が「平和主義の司祭」であると考える人はよほどの楽天家である。首相が行うべきは、日米の共通利益と互いのコストをはじき出すことである。

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