戦時徴用賠償 根拠なき要求に拒否貫け

毎日新聞 2013年07月15日

韓国の賠償判決 国家間の合意に反する

安倍晋三首相と朴槿恵(パク・クネ)大統領の日韓首脳会談はいつ実現するのか? その展望も開けずにいる間に、また日韓間の難題が浮上した。

植民地時代に日本の製鉄所で働かされた韓国人の元徴用工4人が、未払い賃金の支払いと損害賠償を求めた裁判である。

ソウル高裁は新日鉄住金(旧日本製鉄)に対し原告1人当たり約880万円相当の支払いを命じた。戦後補償問題で韓国司法が日本企業に賠償を命じたのは初めてだ。この判決の問題点を指摘せざるを得ない。

1965年の日韓国交正常化の際に、両国は日韓請求権協定に署名した。総額8億ドル以上の請求権資金を日本が供与し、韓国側は個人の未払い賃金なども含む対日請求権を放棄することで合意したのである。

もちろん、韓国民の間には大きな不満が残った。他国に支配され、流血の弾圧も受けた屈辱と被害感情が尋常なものであるはずがない。

だが、国家間の合意は一方的に破られてよいものではない。今回判決の原告のうち2人は日本でも訴訟を起こしたが敗訴、韓国での裁判でも1、2審で敗訴した。韓国政府も口出ししなかった。日韓合意を尊重してきたものと見てよかろう。

それなのに今回、原告勝訴となったのは、昨年5月、韓国の最高裁にあたる大法院が新たな見解を示し、ソウル高裁に差し戻したからだ。

その見解は「日本による韓国支配は違法な占領であり、強制動員自体を違法と見なす韓国憲法の価値観に反している」などと、現在の視点で過去を判断するかのような内容を含んでいる。その上で、日韓の協定があっても徴用工個人の請求権は消滅していないと断じたのである。

その結果として今回判決はある。それは今回同様の判決が続く可能性が高いことを意味する。韓国で係争中の元徴用工の訴訟は今回を含め6件というが、新たな集団訴訟の動きもあるようだ。

しかし徴用工への補償は本来、日本が供与した請求権資金で賄われるべき性質のものだったろう。高度経済成長を優先したために補償が遅れたのは国家的な選択だった。その後、一定の救済措置がとられている。

そして日韓国交正常化後の日本の歩みは総体として、決して不誠実なものではなかった。国家、企業、団体などのレベルで協力と貢献が続いたことは、まぎれもない事実である。その実態が韓国民に十分知られていないのは残念なことだ。

こうした現実を勘案する時、韓国大法院の見解を日本社会が納得して受け入れることはないだろう。少なくとも韓国政府は日韓請求権協定を尊重し続けるべきである。

読売新聞 2013年07月12日

ソウル不当判決 日韓合意に反する賠償命令だ

日韓関係の一層の悪化につながりかねない。不当な判決である。

戦時中、日本企業に徴用された韓国人4人が、当時の勤務先の流れをくむ新日鉄住金に損害賠償を求めた訴訟の差し戻し控訴審で、韓国のソウル高裁は、1人当たり1億ウォン(約880万円)の賠償を命じる判決を言い渡した。

韓国司法が、日本企業に対し、元徴用工への賠償支払い命令を出したのは初めてのことだ。

今回の判決が容認できないのは、1965年の国交正常化の際に日韓両国が締結した財産請求権・経済協力協定に明らかに反しているからだ。協定は、請求権問題が「完全かつ最終的に解決された」と断じている。

韓国経済企画院は1976年の「請求権資金白書」で、無償・有償あわせて5億ドルの日本からの経済協力について、製鉄所やダム、高速道路の建設を具体的な使途に挙げた。その上で、「効用を過小評価できない」と明記した。

それにもかかわらず、韓国最高裁は2012年5月、「個人の請求権は消滅していない」とする判断を示した。今回の判決はこの誤った判断を踏まえたものだ。

原告の一部は日本でも提訴し、最高裁で敗訴が確定している。

結果として、日本の確定判決が無視されたことになる。菅官房長官が、「日本の立場に相いれない判決であれば、容認できない」と述べたのも当然である。

日本企業を相手取った同様の裁判が他に5件ある。今後の判決への影響は避けられまい。元徴用工らによる集団訴訟が相次ぐ恐れもある。日韓の新たな懸案だ。

そもそも、植民地統治に起因する韓国人の補償請求については、支払い義務は韓国政府にある。日本が供与した無償資金3億ドルには「強制動員の被害の補償を解決する資金」が含まれている。

韓国政府の支払いが不十分で、個人補償の対象から除外された人々が多かったために、不満はくすぶり続けていた。

韓国政府が国民に十分な説明をしなかったのが一因だろう。

近年、竹島や歴史認識を巡る対立が深まるにつれ、根拠が薄弱な日本への要求も再燃している。

韓国司法が最近、従来の判断から急転換したのも、そうした反日の高まりと無縁ではあるまい。

日韓国交正常化は韓国の飛躍につながった。過去の清算は外交的に決着し、本来は韓国の内政問題だ。その矛先を執拗(しつよう)に日本に向けるのは筋違いである。

産経新聞 2013年07月12日

戦時徴用賠償 根拠なき要求に拒否貫け

戦時中に日本で徴用された韓国人4人が新日鉄住金(旧新日本製鉄)に未払い賃金などを求めた訴訟で、ソウル高裁が同社に対し1億ウォン(約880万円)ずつの賠償を命じた。

請求権問題は解決済みとする日韓両国の協定に明確に違反しており、日韓関係をさらに悪化させかねない不当判決である。

今回の判決は昨年5月、韓国最高裁が「日本の植民地支配は不法な強制的占拠」と元徴用工の個人請求権を認め、審理を高裁に差し戻したことを受けたものだ。高裁も徴用を「朝鮮半島の不法な植民地支配と侵略戦争遂行に直結した反人道的な不法行為」と決めつけ個人の賠償請求権を認めた。

だが、昭和40年の日韓基本条約の付属文書である日韓請求権・経済協力協定では、日本が無償供与3億ドルと政府借款2億ドルなどの経済協力を約束し、両国とその国民(法人を含む)の請求権に関する問題は「完全かつ最終的に解決された」と明記された。菅義偉官房長官が「日韓間の財産請求権は完全、最終的に解決済み」と判決を批判したのは当然である。

韓国では三菱重工業など日本企業に対する同様の訴訟が5件起こされており、同様の判決が出される可能性が高い。新日鉄住金は韓国最高裁に上告する方針だが、棄却の公算が大きい。原告側が一部被告企業に和解をもちかけ、分断を図ることも考えられ、日本側は足並みをそろえる必要がある。

賠償命令が確定すれば、日本企業の韓国での保有資産が差し押さえられる恐れもある。日本政府は韓国が公権力を行使しないよう強く働きかけねばならない。

韓国の裁判所が解決済みの賠償問題を蒸し返すようになったのは一昨年夏からだ。憲法裁判所が元慰安婦の賠償請求に関し、韓国政府が具体的措置を講じてこなかったのは違憲だと判断したことが契機となっている。

今年1月、ソウル高裁は靖国神社の門に放火した中国籍の男を一方的に「政治犯」と認定し、日韓犯罪人引き渡し条約に基づく日本側への身柄引き渡しを拒否した。2月には、韓国の地裁が長崎県対馬市の寺から盗まれ韓国に持ち込まれた仏像の日本への返還を差し止めた。文化財に関する条約に違反している疑いが強い。

韓国の司法には、理性的な判断をしてほしい。

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