防衛白書 「安倍カラー」が満載だ

朝日新聞 2013年07月10日

防衛白書 脅威を語るだけでは

不測の事態を招きかねない危険な行動を伴うものがみられ、極めて遺憾――。

13年版の防衛白書には、中国の海洋進出について、こんな記述が初めて盛り込まれた。

言うまでもなく、尖閣諸島をめぐる緊張が背景にある。

昨年9月の国有化以降、中国公船が尖閣周辺の領海を頻繁に侵犯している。1月には東シナ海で、中国軍艦が海上自衛隊の護衛艦に射撃用レーダーを照射する事態も起きた。

たしかに、中国の挑発行為は目にあまる。このままでは、偶発的な軍事衝突の危険性さえ否定できない。

白書が強い懸念を示すのも当然だろう。

では、一触即発の危機をどうしたら回避できるのか。

白書が指摘するように、日中間では防衛当局間のホットラインを設置することで合意している。ところが、こんな必要最低限の危機回避策さえ、日中関係が滞っている中でいまだに運用に至っていない。

ましてや、膨張する中国とどう向きあうのかは、簡単に答えの出る話ではない。

気掛かりなのは、昨年の白書にあった「平和は防衛力とともに外交努力などを総合的に講じることで確保できる」という記述が消え、「外交努力などの非軍事的手段だけでは万一の侵略を排除できない」というくだりだけが残されたことだ。

もちろん、自衛隊が防衛のために必要な備えをすることは不可欠だ。とはいえ、あまりに軍事に偏っては、そのこと自体が緊張を高め、逆に日本の安全を損なう。ここは粘り強い外交努力とあわせた、冷静で、息の長い取り組みが必要だろう。

防衛白書には、日本の現状認識や防衛政策の方向性を国内外に示す役割がある。

東アジア情勢が流動化しているなか、日本の防衛費は11年ぶりに増額に転じた。そんな時だからこそ、日本の方針を明確に示す責任がある。

その点、今回の白書は実にわかりにくい。

例えば、集団的自衛権の行使について、「許されない」とする従来の政府見解に沿った記述がある。その一方で、憲法解釈の見直しを進めている懇談会を取りあげ、「議論を待ちたい」とも書いている。

これでは、政府の意図がわからない。あらぬ疑念を招くのは得策ではあるまい。

新たな防衛計画の大綱の策定を年末に控え、議論が本格化する。内外への丁寧な説明を怠ってはならない。

毎日新聞 2013年07月10日

防衛白書 「安倍カラー」が満載だ

沖縄県・尖閣諸島周辺の中国の海洋活動や、北朝鮮による核実験、事実上の弾道ミサイル発射により、日本を取り巻く安全保障環境は、この1年で格段に厳しさを増した。「戦後最悪」との指摘もあるほどだ。

2013年版の防衛白書は、こうした現実を反映し、中国、北朝鮮などの動向に強い懸念を示した。そのうえで、南西諸島や弾道ミサイル防衛の重要性を強調し、日米安保体制や日本独自の防衛力強化を訴えた。

中国については、領海侵入、領空侵犯、海軍艦艇による海上自衛隊護衛艦への射撃用火器管制レーダー照射などを挙げ、中国軍が海上戦力だけでなく、航空戦力による海洋活動を活発化させていると指摘。「不測の事態を招きかねない危険な行動を伴うものがみられ、極めて遺憾」と批判した。

北朝鮮については、弾道ミサイル開発が「新たな段階に入った」と分析し、核開発問題とあいまって「現実的で差し迫った問題」と強い懸念を示した。

中国、北朝鮮いずれに対してもこれまでにない厳しい表現が目立つ。

また白書は、集団的自衛権見直しの検討状況や、自衛隊に海兵隊的機能や敵基地攻撃能力を持たせる議論について、安倍晋三首相の意欲的な国会答弁を交えてコラムで紹介した。「安倍カラー」満載の感がある。

背景には、参院選後に控える集団的自衛権の行使容認を巡る議論や、年末の新たな「防衛計画の大綱」策定、来年度予算編成での防衛関係費の確保につなげようとする首相官邸と防衛省の狙いがうかがえる。

厳しい安全保障環境に対応するため、いま日本がやるべきことは何だろう。防衛力強化は必要だ。だが、それだけでは十分とはいえない。

例えば多国間・2国間での安全保障対話や防衛交流を、お互いの信頼醸成や不測の事態を回避するために、もっと進める必要がある。

日中間では防衛当局間のホットライン設置など海上連絡メカニズムの構築が合意されたが、運用が開始できないでいる。日韓間では、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が、韓国世論の反発で締結が見送られたままだ。白書はこうした防衛交流・協力にも触れているが、あっさり説明しているに過ぎない。

米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイの沖縄配備についても、人口密集地域上空の飛行を避けるなど日米が合意した運用ルールに違反した飛行が報告されているにもかかわらず、「引き続き合意が実施されるよう米側への働きかけを行っている」と冷淡な記述にとどまったのは残念だ。

防衛力強化に前のめりなだけでは、国民の理解は得られない。

読売新聞 2013年07月10日

防衛白書 中国の「危険行動」を抑止せよ

中国と北朝鮮の軍事的な挑発行動を警戒し、抑止力を強化する必要性が一層高まっている。

2013年版防衛白書は、中国が領土や海洋権益をめぐり、「国際法秩序とは相いれない独自の主張に基づき、力による現状変更の試みを含む高圧的とも指摘される対応」をしている、と明記した。

尖閣諸島周辺での度重なる領海侵入や、南シナ海での周辺国との軋轢(あつれき)を非難したものだ。

今年1月の火器管制レーダー照射については、「不測の事態を招きかねない危険な行動」として、中国が照射の事実を否定し、虚偽の説明をしていると批判した。

白書が従来以上に厳しい表現で指摘した通り、中国の独善的な示威活動は看過できない。日本は、米国などと連携し、国際ルールの順守を中国に促す必要がある。

白書は、空母「遼寧」の就役、艦載機J15やステルス型の次世代戦闘機J20の開発など、中国の急速な軍備増強に「懸念」を示した。今年4月の中国の国防白書から国防予算の記述がなくなるなど、透明性の低下も問題視した。

透明性の向上を中国に求めるとともに、防衛交流による部隊間の信頼醸成を図ることが大切だ。

北朝鮮について白書は、今年2月の核実験により、「核兵器計画をさらに進展させた可能性が高い」と分析したうえ、「断じて容認できない」と批判した。

昨年12月の弾道ミサイル発射に関しては、「長射程化や精度の向上に資する技術の進展」を認め、「米国本土の中部や西部に到達する可能性がある」と指摘した。

中国や北朝鮮に危険な軍事行動を自制させるには、緊張緩和に向けた様々な対話による外交努力に加えて、軍事的な抑止力を向上させることが欠かせない。

自衛隊と米軍は近年、即応力を重視した「動的防衛協力」の一環として、共同の訓練や警戒監視活動を強化している。新型輸送機MV22オスプレイの沖縄配備を踏まえ離島防衛も着実に進めたい。

中国の中長期的な軍備増強に対抗するには、自衛隊の人員・装備の拡充が不可欠だ。安倍政権は今年度、11年ぶりに防衛予算を増やしたが、増加額はわずか351億円(0・8%)にすぎない。

中国の公表国防費は過去10年で約4倍、25年で33倍以上に増えた。現在は日本の約2倍だが、今の増額ペースが続けば、10年後にはその差が5倍以上にも広がる。深刻な事態だ。日本は来年度以降も、防衛予算を伸ばす必要がある。

産経新聞 2013年07月10日

防衛白書 国守る決意実行の議論を

今年の防衛白書の最大の特徴は「わが国の領土・領海・領空を断固として守り抜く」との決意を打ち出したことだ。

尖閣諸島(沖縄県石垣市)を力ずくで奪取しようとする中国は、領海侵入などの挑発行動をやめない。白書はこれを「不測の事態を招きかねない危険な行動」と認定し、強く批判した。

従来、白書で中国の行動を厳しく書くことには遠慮もあった。だが、「強い日本」を掲げる安倍晋三政権の姿勢を受け、国として当然の主張や国防の重要性を正面から取り上げた点を評価したい。日本の国を守る覚悟を関係国に示すメッセージともなろう。

課題は、こうした決意を防衛政策の転換や防衛力強化に、いかに結びつけるかである。参院選でも各党に論じ合ってほしい。

今回、白書は尖閣の国有化以降に激化した領海侵入や領空侵犯などの相次ぐ挑発活動に対し「極めて遺憾」と明確に非難した。中国の出方を「高圧的対応」と批判し、「力による現状変更」を試みているといった分析も加えた。

北朝鮮の核実験についても白書は「重大な脅威で断じて容認できない」ものと位置付けた。

弾道ミサイルの射程が「米本土の中部や西部に到達する可能性」にも言及し、警戒を強める必要性も訴えた。

これらの日本を取り巻く安保環境の悪化は明らかであり、日米同盟を基軸に防衛力強化の方向性を示したのは当然である。

だが、その実効性を高めるためには、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更が不可欠となる。白書も首相の下で有識者会議による検討が進んでいることを挙げた。政権として行使に踏み込む決断が求められている。

白書は、自衛隊に「海兵隊的機能」を持たせる意義に言及した。与那国島に沿岸監視部隊を配備することも急がれる。

離島奪還能力の向上を含め、南西諸島防衛の強化を通じて、日本は自らの抑止力を高めなければならない。

それには必要な防衛予算と自衛隊の定員を確保することが欠かせない。平成25年度の防衛費は11年ぶりに増額に転じたが、さらに大幅で継続的な措置が不可欠だ。

国民の平和と安全をどう確保するか、与野党を挙げてもっと論じる必要がある。

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