沖縄県・尖閣諸島を巡って対立している日本と中国の関係を一層緊張させる重大な事態だ。
日中の境界が画定していない東シナ海の中間線付近で、中国が新たなガス田開発に着手したことが発覚した。
既成事実を積み重ね、力ずくで海洋権益を得ようとする中国の習近平政権の強硬姿勢が一段と鮮明になったと言えよう。
日中両国は2008年6月、両国から等距離の中間線に隣接する白樺ガス田を共同開発し、中間線をまたぐ特定海域を共同開発区域にすること、さらに、その他の海域での共同開発に向けた協議を継続することで合意した。
海底資源に主権的権利が及ぶ排他的経済水域(EEZ)の境界線を巡って、中間線を主張する日本と、沖縄トラフまでとする中国の見解の溝が埋まらないためだ。
今回、中国の掘削施設の新設作業が確認されたのは、中間線から中国寄り西側約26キロの海上だ。日中間に合意がないまま一方的に開発する行為は容認できない。
安倍首相が「合意にはしっかり従ってもらいたい」と中国を批判したのは当然である。菅官房長官も中国に抗議の意を表明した。
ところが、中国外務省報道官は、「中国が管轄する海域での開発活動で、非難される点はない」と開き直っている。中間線より中国側の海域のため、全く問題がないとでも言うのだろうか。
新たなガス田開発は、「海洋強国」化を加速する習政権が、南シナ海同様、東シナ海でも資源開発を推進しようとする表れだ。
尖閣諸島周辺では、監視船による日本領海への侵入を繰り返すばかりか、最近は海洋調査船まで投入した。沖ノ鳥島から北へ約85キロの日本のEEZ内にも、別の調査船を派遣した。触手を西太平洋にまで伸ばそうという勢いだ。
海洋での一連の動きは、安倍政権に対する圧力を強める習政権の狙いもあるのだろう。日本としては中国の圧迫に動じることなく、08年の合意に基づき、東シナ海の共同開発交渉を進めるべきだ。
そもそも、ガス田合意を実現するための条約締結交渉を、10年に尖閣諸島沖で発生した中国漁船衝突事件を機に一方的に中断したのは中国である。その後も、日本の交渉再開要請に応じていない。
これでは、政府間合意さえ簡単に反故にする「異質の大国」としてのイメージが、国際社会で定着するだけではないか。
習政権はガス田開発を中止し、交渉再開に応じねばならない。
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