スズキVW提携 二つの「エコ」が生んだ再編劇

朝日新聞 2009年12月12日

自動車再編 打って出る機運を高めよ

中国の台頭が象徴する世界自動車市場の劇的な変化。ガソリン車からハイブリッドや電気自動車に向かう新技術のうねり――。大転換に直面する自動車業界で、前向きな世界的再編の動きが加速している。キーワードは「環境」「新興国」「低価格」だ。

独フォルクスワーゲン(VW)とスズキが包括提携を発表した。VWがスズキ株を約20%保有し、グループ化する。狙いの第一は新興国戦略での相互補完だ。中国市場や南米に強いVWと、インド市場の5割を握るスズキは相性がいい。第二が環境技術。スズキが開発面でVWの支援を受け、価格面では、小型車の低コスト生産ノウハウを供与する。

自動車世界一の座は米ゼネラル・モーターズが1931年から2007年まで保持したが、08年にトヨタ自動車が奪取。09年はVWが急追しており、今回の提携でトヨタを追い抜くことが確実になった。業界地図を塗り替える積極策である。

仏プジョー・シトロエングループは三菱自動車に出資し、筆頭株主となる方向だ。決め手は環境。三菱自が辛抱強く開発を続けた充電式の電気自動車の技術がものをいった。新興国市場での補完関係も展望している。

世界の自動車市場は07年に6700万台近くまで拡大したが、一連の経済危機で今年は5500万台程度に減る見込みという。長く世界最大だった米国市場が大きく落ち込み、危機前から躍進著しい中国市場に今年はトップの座を明け渡す。インドなど新興国の市場拡大も確実視される。

需要の中心も変わった。米国市場で好まれた高級車や大型車から、新興市場の中間層にも手が届く、安くて燃費のいい小型車へと、一気にシフトした。地球環境対策を背景とした各国の燃費規制強化と相まって、ハイブリッド車や電気自動車など次世代車への転換も必至になった。

1908年に米フォードの「T型」登場でガソリン車の覇権が決定的になって以来、1世紀ぶりの技術転換の大波が業界を見舞っている。新市場をにらんだ生き残りのための再編は、今後も続くに違いない。

再編劇は自動車メーカーにとどまらない。パナソニックが三洋電機を子会社化した最大の狙いは、充電池など自動車向け環境技術の強化だ。自動車が電気製品に近づくのに応じて、電機業界の再編も強く促されよう。

環境、新興国、低価格という自動車再編のキーワードは、先進国市場に傾斜した結果として閉塞(へいそく)状態に陥った日本の企業全体に共通する課題だ。

部品など裾野(すその)が広く、「産業の中の産業」とされる自動車業界のダイナミックな動きで、日本経済に「打って出る」機運が高まることを期待したい。

読売新聞 2009年12月11日

スズキVW提携 二つの「エコ」が生んだ再編劇

両社をあわせた販売台数はトヨタ自動車を上回る。世界最大規模の自動車連合の誕生は、業界の勢力図を塗り替えることになりそうだ。

小型車メーカーのスズキとドイツ最大手のフォルクスワーゲン(VW)が、資本・業務提携で合意した。

VWはスズキ株の19・9%を取得して筆頭株主となり、スズキも最大で2・5%のVW株を取得する。その上で、両社は電気自動車や低燃費エンジンの開発、新興国での販売などで広く協力する。

スズキは軽自動車のイメージが強いが、「スイフト」などの小型車を合わせると、全世界の販売台数は年間230万台にのぼる。世界3位のVWも主力は「ゴルフ」「ポロ」などの小型車で、両社は長年、ライバル関係にあった。

その両社が一転して手を結んだのは、同じ小型車といっても、得意分野が異なっているためだ。

スズキは軽自動車で培った低コスト生産技術を駆使し、新興国向けの低価格車を得意とするのに対し、VWは低公害エンジンなどの環境技術に定評がある。

提携には、スズキの「エコノミー」技術とVWの「エコロジー」技術を持ち寄り、二つの「エコ」の融合で、互いの弱点を補完しあう狙いがある。

スズキはインド、VWは中国で販売トップの座にあり、互いの販売網も利用できる。

特に、スズキは30年近く続けてきた米ゼネラル・モーターズ(GM)との提携を解消し、新たな提携先を必要としていた。新興国市場にいち早く進出して足場を築いてきたことが、提携実現の大きな武器となった。

自動車業界は昨年のリーマン・ショック以降の販売不振に苦しむ中で、脱ガソリンという歴史的な転機を迎えている。生き残りのカギを握る環境技術開発と新興国への販路拡大には巨額の資金がかかり、単独での負担は難しい。

だが、これまで業界をリードしてきた米ビッグスリーは投資余力を失い、日欧メーカーは提携戦略の見直しを迫られている。

長年にわたり米クライスラーと組んできた三菱自動車も、仏プジョー・シトロエングループ(PSA)と資本提携の交渉中だ。PSAは三菱が電気自動車を他社に先駆けて市販し、ロシア市場に強いことに注目しているという。

自動車業界では今後も「二つのエコ」を軸にした提携が続くことが予想される。自動車再編は、新たな局面を迎えたといえよう。

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