ネット選挙解禁 「違法」の境目をわかりやすく

朝日新聞 2013年07月06日

ネット選挙 語り合う力を高めよう

誰に投票しようか。選挙のたびに頭を悩ませたり、つい棄権したりしている人にとって、今度の参院選はちょっと違ったものになるかもしれない。

インターネットでの選挙活動が解禁された。各政党・候補者は自分たちの主張や行動をホームページや、ツイッターなどのソーシャルメディア、動画サイトなどに流している。

といっても、初体験だ。中傷や「なりすまし」などの被害が出る恐れはあるし、「大して効果がない」と思う陣営も少なくないだろう。

ネットを「選挙のための道具」と考えるなら、たぶんそこで終わりだ。

選挙データベースなどを手がけ、早くから政治家のネット活動を支援してきたボイスジャパン社長の高橋茂さんは「政治を変えるための道具」と言う。日々の政治活動で使いこなしてこそのメディアなのだ。

有権者にしても、「政策」で投票先を決めるのは理想だが、案外むずかしい。「白か黒か」で割り切れる問題は少ないからだ。景気対策でも原発政策でも憲法改正でも、「この部分は賛成だが、こちらは疑問」という場合はよくある。

ネットは、そんなときに使える。気になる政策があれば、政党や候補者のサイトを見てみよう。知りたい情報がなければ問い合わせもできるのが、双方向メディアの強みだ。返事がくるとは限らないが、返事がないことも判断材料になる。

「政治の言葉」を磨くことにもつなげたい。

選挙公報や街頭演説、政見放送は紙幅や時間が制限され、ていねいな説明には不向きだ。印象に残りやすいスローガンに傾きがちになる。

後援会など、身内の結束ならそれで済む。でも、多様化した社会で必要なのは、負担のわかちあいのための論理や、意見や立場の異なる人たちを包摂していく説得の言葉だ。

ネットでのやり取りは、ともすれば攻撃的になる。先日、動画サイトでの党首討論会で野党の党首が発言した際、自民党のネット責任者が「黙れ、ばばあ!」と書き込んでいたと話題になった。

東京新聞の取材に当人は「申し訳なかったが、(国会の)やじみたいなもの」と弁明したという。そもそも国会がその程度のレベルでしかないなら、こんな情けない話はない。

政治家も有権者も、語り合う力を身につける。ネット活用はそのためにある。参院選はスタートにすぎない。

毎日新聞 2013年07月05日

視点・参院選 ネット選挙運動=論説委員・与良正男

今回の参院選の特徴はインターネットを利用した選挙運動が解禁されたことだ。政党や候補者だけではない。制限付きとはいえ有権者もネットを通じて特定の政党や候補者への投票を呼びかけることができるようになった意味は大きい。これは日本の政治風土そのものを変える可能性を秘めていると思う。

既に有権者サイドからのさまざまな取り組みが始まっている。ただし当然ながら、まだ試行錯誤の段階だ。

例えば、ある県では若手市議らのグループが地元選挙区の候補にインタビューした動画を独自のサイトに載せている。候補者と有権者をつなぐ新しい試みである。だが、動画を見た有権者の感想や質問の掲載は検討した結果、取りやめたそうだ。誹謗(ひぼう)中傷が氾濫した場合、誰が責任を取るのかという問題に突き当たったからだ。

候補者を集めて討論会を開いて動画配信する「ネット版公開討論会」を計画しているNPOもある。しかし、選挙戦が始まって何人の候補者が都合をつけてくれるかは未知数という。

「○○党の公約をどう評価するか」「女性の社会進出をどう進めるか」など一つ一つテーマを掲げ、ネット上で討論する場も多数あるが、「なかなか候補者が参加してくれない」との声も聞く。ネットの特性は離れた場所でも意見交換ができる双方向性にあるが、まだまだそこには至っていないのが現実だ。

そもそもネット上の言葉は新聞や書籍と比べて短くなりがちで、賛成か反対か、敵か味方かといった単純な図式に陥ってしまうきらいがある。ネットの利用率が高い若者たちにおもねっているのか、肝心の政治家がわざわざ乱雑で攻撃的な言葉を使いたがる傾向さえある。

言うまでもなく世の中はもっと複雑だ。名前の連呼中心の選挙から脱皮し、ネットを通じ政治家と国民が多岐にわたる政策課題についてやり取りして議論を深める。そんな「熟議の民主主義」につなげることにこそネット解禁の意義があるはずだ。

振り返ってみれば、私たち日本人はこれまで「政治」を口にする機会があまりにも少なかったのではないか。「私は何党を支持する」「あの人に投票したい」と人前で話すのをはばかってきたのではないか。

ネットの次は実際に顔と顔を突き合わせて、政治について語り合う−−。そんな変化にぜひ結びつけよう。

  ◇  ◇  ◇

参院選が公示された。論説委員それぞれの視点から今度の選挙をシリーズで考えていく。

読売新聞 2013年07月03日

ネット選挙解禁 「違法」の境目をわかりやすく

何ができ、何ができないのか。選挙の公正さを確保するため、線引きを明示し、制度の周知徹底を急ぐ必要がある。

あす4日公示の参院選からインターネットを利用した選挙運動が解禁される。有権者、特に若者の選挙に対する関心が高まることを期待したい。

政党や候補者は、選挙期間中、ネット上に自らの主張をはじめ、演説会の日程、街頭演説の動画、写真などを掲載できる。情報の発信力が大幅に強化されよう。

有権者側も、各党、各候補者のホームページ(HP)を通じて、政策を比較できる。

ツイッター、フェイスブック、LINE(ライン)などソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)も利用可能だ。双方向のやりとりが容易になるなど利点は大きい。

参院選に備え、与野党は4月末、ネット利用のガイドライン(指針)を策定し、違法に当たる行動や表現の具体例を示した。

例えば、選挙運動用のHPにある選挙ビラや政策集などを印刷するのは問題ないが、それを第三者に渡せば違法だ。公職選挙法は、配布できる選挙運動用の印刷物を厳しく制限しているからだ。

電子メールについては、政党・候補者と有権者が使える内容が異なる。一般有権者は、メールによる投票依頼や、選挙運動用のメールの転送はできない。公選法違反で禁錮や罰金が科され、公民権が停止される場合もある。

メールは候補者本人を装う「なりすまし」などに悪用されやすいため、慎重を期す必要があろう。その趣旨は理解できる。

だが、有権者にとってはわかりにくい点が少なくない。公選法の改正について、政府による情報提供は不十分ではないか。総務省や各地の選挙管理委員会は、混乱が生じないよう、制度の啓発活動に力を入れるべきである。

特定候補の落選を狙った誹謗(ひぼう)・中傷や「なりすまし」など悪質な行為の対策も大きな課題だ。

警察庁は取り締まり体制を強化した。プロバイダー(接続業者)各社、及び各政党も監視を強めねばなるまい。

今回の参院選は、ネット利用の初めてのケースとなる。予期せぬトラブルが起きかねない。

ネット利用は今後、地方選にも順次適用される。そのためにも、参院選後に功罪をしっかり検証して、公選法の再改正や制度の運用改善に取り組んでもらいたい。

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