エジプトで1年前に史上初めて民主的に選ばれたモルシ大統領が、軍による事実上のクーデターで、失脚した。
独裁体制の崩壊後、曲がりなりにも前進してきた民主化路線が、重大な危機に直面している。軍とモルシ支持勢力との緊張は高まっており、両者の衝突で混迷が深まることが懸念される。
軍は、「国の安全保障が危機に瀕している」としてモルシ大統領を解任し、拘束した。マンスール最高憲法裁判所長官を暫定大統領とし、暫定政府を構成する。
憲法を停止し、大統領選を早期に実施すると発表したが、事態収拾の道筋は見えていない。
今回のクーデターのきっかけは、大統領就任1周年にあたって、辞任を求める大規模デモが発生したことだ。カイロ中心部の広場は連日デモ隊で埋まり、2011年2月にムバラク政権を打倒したデモをほうふつとさせた。
全国各地で反大統領派と大統領支持派が衝突し、死者も出た。
混乱を招いた最大の要因は、モルシ氏が失政を重ねたことだ。
「生活の改善」を公約して当選したが、食料品の価格は高騰し、燃料不足が深刻化している。
凶悪犯罪の増加で治安が悪化し、外国からの観光客や投資も落ち込んだままだ。
モルシ氏は、大統領権限の強化を一方的に宣言した。出身母体のイスラム主義組織「ムスリム同胞団」の方針通りイスラム色の濃い憲法の制定を強引に進めた。こうした政治姿勢が世俗・リベラル派から反発をかった。
こうした政情不安と反政府運動の急激な拡大が、軍に政治介入の口実を与えたと言える。
軍主導の暫定統治の課題は安定を回復し、民主化を柱とする国家再建を再開できるかどうかだ。
軍は、同胞団幹部を多数拘束するなど、力で抑え込もうとしている。同胞団は支持者に全土でデモを呼びかけ、抵抗する構えだ。これでは事態は一層悪化しよう。
エジプトの民主化を支援してきた欧米や日本は、軍による大統領解任に懸念を表明しつつも、軍を強く非難することは避け、民政への早期復帰を求めている。
軍と同胞団が、対話のテーブルにつき、一刻も早く、国民的な和解を実現することが必要だ。
周辺国のチュニジア、リビアでは、独裁崩壊後の民主化が難航し、シリアでも内戦が続く。地域大国エジプトが、動揺を早期に収拾し民主化の道を歩むことは、地域の安定のために欠かせない。
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