中韓首脳会談 日本に問われる東アジア戦略

毎日新聞 2013年06月30日

中韓首脳会談 現実見定め対応を

韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が国賓として中国を訪問した。北京の人民大会堂で行われた習近平(しゅう・きんぺい)国家主席との会談冒頭、朴大統領は約5分間、中国語であいさつした。習主席が喜んだのは言うまでもない。

2日後に行った清華大学での演説では、朴大統領はこう語った。

「韓国と中国は、数千年の歴史を共にしながら多様な文物と思想の交流をしてきました。そのため、心で共有するものが多く、文化的にも通じるところが多いのです」

これはリップサービスではない。韓国の対中接近は歴然としている。大統領の訪中には約70人もの経済人が同行した。

日本も韓国も中国を最重要の貿易相手国としているが、対中貿易への依存度は日本より韓国がはるかに高い。韓国の対中貿易は日米両国との貿易額の合計より多いのだ。この現実の意味は極めて重い。

経済的な側面だけではない。韓国政府系シンクタンクの研究者が「わが国が中国との関係を悪化させるのは非常に愚かな行動」と言い切る。「儒教と漢字文化を共有する中国との関係強化」が、事実上の政策目標になりつつある。

21年前の中韓国交正常化後、次第に台頭してきた中国への接近が急激に加速し、経済的依存と政治的親和感が高まるのと同時に、日韓関係にも難しい側面が目立ってきた。これがここ数年の実情と言えよう。日中韓3国の関係に悩ましい変化が生じているのである。

中韓首脳会談の成果については評価が難しい。北朝鮮の核問題に関連して習主席は、「6カ国協議の早期再開」を望むと強調した。共同声明には「北朝鮮の核保有を容認できない」という韓国側の見解が入ったものの、中国との合意によるものではないなど、核問題解決を楽観できる状況ではない。

共同記者会見では中韓の幅広い分野での協力や、戦略的対話チャンネル構築などが語られたが、それらは米韓同盟や日韓友好との整合性を持つものなのか。疑問が残る。

東アジアには日韓、日中韓の首脳会談という枠組みがあるが、中国、韓国との摩擦で開催できない状態が続いている。今回の中韓共同声明では名指しを避けつつ日本への憂慮を表明したが、その一方で日中韓3国の協力が北東アジアの平和と繁栄に重要な役割を果たすとも指摘した。良い兆候であることを期待する。

私たちは北東アジアの歴史の転換点に立っているのかもしれない。そうであるならば、その変化の現実を正しく、冷静に見定め、周辺国との関係を誤りなく取り結んでいかねばならない。

読売新聞 2013年06月30日

中韓首脳会談 日本に問われる東アジア戦略

10年前には予想もできなかったような東アジアの構図の大きな変化だ。中国と韓国の関係緊密化が加速する中で、日本の戦略が問われている。

韓国の朴槿恵大統領が中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。韓国大統領が就任後、日本より先に中国を訪れたのは初めてだ。国賓として歓待するなど中国の手厚いもてなしぶりが目立つ。

1992年に国交樹立した両国は経済関係を急速に深め、韓国の対中貿易総額は今や、対米、対日の合計額を(りょう)()する。朴氏の訪中には、多数の韓国財界人が同行した。人とモノの往来はさらに活発化する勢いだ。

共同声明で、両首脳は、中韓自由貿易協定(FTA)推進など経済強化にとどまらず、政治・安全保障対話の拡大を打ち出した。

朴氏の訪中は、中韓関係をさらに発展させていく重要な契機になったと言える。

最大の焦点だった北朝鮮の核問題に関して、共同声明は「朝鮮半島の非核化実現のため共に努力する」とうたった。

だが、中韓の認識が完全に一致したわけではない。

韓国は「北朝鮮の核保有は容認できない」と明言したが、中国は核兵器の脅威を強調しただけで北朝鮮を名指しすることは避けた。米中首脳会談で言及した北朝鮮への圧力強化にも触れなかった。

6か国協議再開に重点を置く中国が北朝鮮を刺激したくなかったのだろう。これでは北朝鮮が非核化に動くはずもあるまい。

北朝鮮の核問題を巡って、朴氏は米中韓3か国による対話の枠組み作りを重視する姿勢だ。既存の日米韓の連携を脆弱(ぜいじゃく)化させることにつながってはならない。

中韓首脳は共同声明で、「歴史とそれによる問題で域内国家間の対立と不信が深まっている不安定な状況に憂慮を表明」した。

名指しはされていないが、日本は歴史認識で中韓が共闘するような事態を警戒せねばならない。

日本政府にとって、歴史問題に関する誤解が国際社会に浸透しないよう、日本の正当な主張を積極的に発信することが重要だ。

歴史や領土を巡る対立で、日中韓が対話もしないのは問題だ。この点で、共同声明が「日中韓首脳会談の年内開催に共に努力する」と明記したのは評価できる。

東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の外相会議に合わせ、安倍政権下で初となる日韓外相会談が7月1日にも行われる。日韓仕切り直しの第一歩としたい。

産経新聞 2013年06月29日

朴大統領訪中 日米との結束こそ重要だ

韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が中国を訪問し、習近平国家主席との会談で対北朝鮮での連携をアピールする一方、歴史問題などで日本を牽制(けんせい)した。

東アジアの平和と安定で大切なのは、韓国と日本、米国の結束だ。日米韓は法の支配など普遍的価値観を共有している。韓国にとって、経済的な依存度を深める中国の重要性は理解できるが、取り込まれてはならない。

会談後、発表された両首脳の共同声明には、「最近、歴史問題などで国家間の不信感が深まっていることに憂慮を表明」の一文が盛り込まれた。日本を念頭に置いているのは明白だ。

だが、不信感を深める要因を作っているのは中国ではないか。

中国は尖閣諸島(沖縄県石垣市)は日本が「盗み取った」とし、国有化は「大戦後の国際秩序への挑戦だ」と非難している。中国共産党機関紙、人民日報は、沖縄の帰属は「未解決」だとする論文を掲載している。

海洋権益拡大の野心をあらわにした中国は、日本だけでなく、東南アジア諸国の一部とも関係を悪化させた。そんな折、朴氏は中国との関係を重視し、日本より先に中国を訪問した。

朴氏はこれまでも日本の歴史認識を再三、批判してきた。中国にとっては、対日で共同歩調を取る格好の相手だったといえる。

朴氏は5月の訪米時も、首脳会談などで、日本の歴史認識を批判している。その後、米国から「突出した日本批判は避けるよう」働きかけがあったとされ、今回、共同声明に「歴史問題」を入れることには韓国側が消極的だったという。朴氏が対日関係改善へ軌道修正したのなら歓迎したい。

岸田文雄外相は、ブルネイでの東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会合の機会に、日米韓外相会談を開くと発表した。

3カ国は先の局長級会合で、対話を模索する北に「非核化への具体的行動」を求めることで一致している。単に非核化を求める中国より厳しい態度だ。外相会談で日米韓の結束を確認してほしい。

中韓首脳の共同声明は一方で、「日中韓の協力体制の発展が必要との認識で一致」とうたったが、米国抜きでの朝鮮半島の安定はあり得ない。日中韓は大事だが、日米韓が機能して初めて効果を持つ枠組みと認識すべきだろう。

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