0増5減法成立 許せぬ無責任な幕引き

朝日新聞 2013年06月28日

国会の改革 選挙制度にとどめるな

衆院議長のもとに有識者らによる諮問機関を設け、定数削減と選挙制度改革の検討を進める。安倍首相が、自民党の石破幹事長にこう指示した。

昨年11月、自公民3党が選挙制度の抜本的な見直しで合意したのに、先の国会ではわずかに0増5減の新区割り法が成立しただけだ。

首相が会期末に動いたのは、国会のふがいなさに批判が高まり、参院選にも影響しかねないと考えてのことだろう。

もっとも、これだけで首相の姿勢を評価するわけにはいかない。何よりも自民党総裁として腰を上げるのが遅すぎたし、参院をどうするのかがはっきりしない。

司法から抜本的な改革を求められているのは、参院も同じだ。また、衆院と同様、選挙区と比例区を組み合わせた選挙制度が参院の独自性を失わせ、一方で「衆参ねじれ」となれば政争の主戦場になることの弊害が指摘されてきた。

衆院と参院の役割分担は何か、その特性を生かすためにそれぞれどういう選挙制度にしたらいいのか。制度改革にあたっては、こうした視点からの衆参一体の検討が不可欠だ。

有識者の知恵を借りるなら、選挙に限らず国会のあり方全体の改革にも踏み込むべきだ。

自公民3党は昨年、15年度まで赤字国債の自動発行を認めることで合意した。国債発行法案がねじれ国会での政争の具にされてきたことの弊害が、あまりに大きかったからだ。

このような仕組みを予算関連法案や国会同意人事などにも応用できないかは検討に値する。議決が異なった際の両院協議会の運用の見直しも必要だ。

先の国会では一度しか実施されなかった党首討論は定例化する。その代わり、予算委員会などの審議に首相らをいたずらに縛り付けるのをやめるのだ。

首相の国会出席が与野党駆け引きの材料となるのを避け、政府との質疑から議員同士の討論中心の国会へと脱皮させることにもつながる。

「政治とカネ」の問題も忘れてはならない。議員歳費や手当、年320億円の政党交付金は適正なのか再点検すべきだ。

肝心なのは、諮問機関が出した結論には各党が従うという決まりを事前につくっておくことだ。案がまとまったものから、順次実行に移すスピード感も求められる。

会期末の醜態で評判が地に落ちた国会である。せめてこのぐらいは有識者に委ねるのが、与野党の責任の取り方だろう。

毎日新聞 2013年06月25日

0増5減法成立 許せぬ無責任な幕引き

これだけで幕引きでは責任放棄に等しい。違憲状態にある衆院小選挙区「1票の格差」を是正する「0増5減」の改正公選法が衆院で3分の2以上を占める与党などの賛成多数で再可決され、やっと成立した。

0増5減をすみやかに実施したうえで衆院の選挙制度改革に向けた協議を進め、定数削減の結論を出すことが各党に今国会で課せられた使命だった。ところが閉会直前まで先送りされたあげく、与野党は批判の泥仕合を演じている。まさに醜態だ。

公選法改正案は4月23日に衆院を通過した。にもかかわらず民主党は参院での採決を引き延ばし、60日間を経て否決したとみなしての衆院再議決となった。与党も参院議長の不信任決議案を提出するなど混乱を加速させた。いずれも責任政党とかけ離れた姿である。

これまでにも指摘したように0増5減は高裁で無効判決すら出た昨年衆院選への最高裁判決を控え、2010年国勢調査ベースで格差を2倍未満に抑える最低限の応急措置だ。

0増5減では各都道府県にまず1議席を配分する「1人別枠」方式が最高裁の廃止要求にかかわらず事実上温存される。是正が実現しても複数の選挙区ですでに格差は2倍を超したとの試算もある。安穏と次期衆院選を迎えられる状態ではない。

比例代表など衆院の定数削減も与野党の対立が解けず、今国会で結論を得るとした昨年11月の自公民3党合意はほごにされる。中小政党への配慮や方法をめぐり議論が暗礁に乗り上げてしまったためだ。

「1票の格差」問題とは別に、政界には小選挙区制自体の見直しを主張する声もある。さまざまな糸がもつれあい、選挙制度改革は身動きが取れなくなっているのだ。

すでに6度の選挙が実施された小選挙区制の功罪を点検すべき時期に来ているのは確かだ。だが、2大政党と多党制のいずれを志向するかなど、選挙制度は政治のあり方に直結する。現行制度を基本としてさらに踏み込んだ格差是正や定数削減を行い、小選挙区制の検証を並行して進めていくのが現実的ではないか。

「1票の格差」は参院も衆院以上に深刻で、「1人区」の存否も含めた抜本改革を迫られている。衆院と似た原理で議員が選ばれ、広範な権限を持つ現在の参院のあり方が果たして妥当か。衆参両院の機能分担に関する議論も持ったなしだ。

だからこそ、選挙制度改革は権威ある第三者機関による議論が望ましい。国会議員だけに問題を任せられないことは今回、ますますはっきりした。与野党に危機感があるのならせめて、機関設置と改革の期限だけでも早急に合意すべきである。

読売新聞 2013年06月25日

「0増5減」成立 参院の存在意義はどこにある

参院は、立法府としての責任を放棄しているに等しい。存在意義が厳しく問われている。

衆院小選挙区定数「0増5減」を実現する区割り法が、衆院本会議で自民、公明両党などの3分の2以上の賛成で再可決、成立した。

法案は衆院通過後、参院で採決されないまま60日経過したため、憲法59条の規定で、否決とみなされた。「みなし否決」による再可決は2008年以来である。

区割り法は、最高裁が「違憲状態」と判断した衆院小選挙区の「1票の格差」を是正する。

山梨など5県の小選挙区数を減らし、17都県42選挙区の区割りを改定することで、10年国勢調査に基づく選挙区間の人口格差は、2倍未満に縮小される。

最高裁が廃止すべきだとした「1人別枠方式」は、区割り法に残っている。是正には不十分との指摘もあるが、「違憲状態」とされた以上、緊急的な措置を講じないわけにいかない。

参院では法案の審議入りすらできなかった。野党側は再可決という手段で法案がいずれ成立するという「与党のおごり」が根本にあると批判している。与党の対応にも問題はあるだろう。

だが、再可決は、憲法の定める民主的なルールであり、与党がためらう必要はない。

筋が通らないのは、野党第1党の民主党の対応である。

民主党は昨年11月、0増5減の先行実施に同意し、衆院選挙制度改革法に賛成した。ところが、政権交代後、その法律を実施するための区割り法には反対した。

参院民主党は、法案の採決も拒んだ。衆院での再可決に持ち込めば、参院選を前に、「与党の強引な国会運営」をアピールできるといった思惑も働いたとされる。

こんな“ご都合主義”に国民から共感を得られるはずがない。東京都議選の惨敗も、独りよがりな国会対応と無縁ではあるまい。

「0増5減」の先にある衆院選挙制度の抜本改革で、与野党が合意できなかったことは残念だ。

参院選後に協議を再開するための各党間の文書ですら、まとまっていない。民主党が「定数削減の期限の明示」を要求し、妥協しようとしないからである。

選挙制度改革で合意形成を図るには、与野党の見解の隔たりが大きい定数削減問題を切り離すべきだ。国会議員を減らせば国民に歓迎されるといった大衆迎合的な発想は捨て去り、制度改革の議論をリセットしなければならない。

産経新聞 2013年07月01日

選挙制度で新機関 結論実現の担保が重要だ

安倍晋三首相が、定数削減を含む衆院選挙制度の抜本改革をめぐり、国会に有識者による第三者機関を設けることを提案した。

さきの通常国会では、格差是正に向けた衆院の「0増5減」という最低限の措置はとられたものの、抜本改革について結論を出すという国民との約束はほごにされた。

与野党10党の実務者が閉会間際に集まり、参院選後に協議を再開することを確認したが、信頼していいのか。こうした状況を打開するため、第三者機関は一つの有力な手法となり得るだろう。

首相は「必ず結果を出す」と強調した。それには結論を確実に実現するルールを確立しておくなど、第三者機関を実効性のあるものにしなければならない。

首相の指示を受けた自民党は、参院選後に各党に第三者機関の設置を呼びかけ、秋の臨時国会で始動させる考えだというが、もっと早く着手できないのか。

小手先の格差是正を重ねるやり方をどう改めるのか。都道府県別の定数配分のやり方をこれからも続けるのか。定数削減の規模はどの程度かなど、課題は多い。

改革案を実現に移すには、結論を出す時期を区切っておく必要がある。参院の選挙制度改革と整合性をとる工夫も必要だ。

休眠中の首相の諮問機関、選挙制度審議会を活用する選択肢もあった。首相が衆院議長の下に設置する方法をとったのは、第1~7次の選挙制度審ではメンバーに入った各党の国会議員の意見が対立し、抜本改革につながらなかったことが念頭にあるようだ。

だが、第8次審は衆院への小選挙区比例代表並立制の導入を打ち出し、実現につながった。国会の第三者機関でも、メンバーの構成次第で機能しない恐れはある。

伊吹文明衆院議長は首相の提案を歓迎しつつ「結論に皆が従う前提がないと引き受けられない」と語った。首相は伊吹氏や各党代表と、出された結論の実現をいかに担保していくかについて、しっかりと話し合うべきだ。

早くも異論が出ている。民主党の細野豪志幹事長は「有識者から意見を聞いてもいいが、定数削減は政治家が決断できるかだ」と語った。政治家が決められないから第三者機関にとの声が強まっているのだ。抜本改革の約束は、今度こそ果たされねばならない。

朝日新聞 2013年06月25日

区割り再可決 国会丸ごと不信任だ

こんな泥仕合を見せられては、与野党に丸ごと不信任を突きつけたくなる。

衆院はきのう、小選挙区の「0増5減」に伴う新区割り法を与党の3分の2の賛成で再可決し、成立させた。参院は4月に法案を受け取ったにもかかわらず、60日間審議をせず、否決したものと見なされた。

衆院小選挙区の「一票の格差」が最高裁で「違憲状態」と断じられたのは、一昨年春のことだ。それから総選挙をはさんで2年あまり。国会が出したたったひとつの答えが、この「0増5減」の新しい区割りだ。

私たちは社説で「0増5減」について、投票価値の平等に向けた抜本改正に進むまでの「緊急避難的な措置」と位置づけ、一刻も早い実現を求めてきた。

たとえ最低限の帳尻あわせであっても、「違憲状態」にひとまず区切りをつけないことには、腰を据えた検討作業に進むのは難しいと考えたからだ。

だが、各党には、そんな真摯(しんし)な議論をするつもりは、さらさらなかったようだ。

参院で与野党は、この法案の審議や採決をする、しないでもめ続けた。「0増5減だけでは抜本的な解決にはならない」という野党側の言い分もわかるが、ならば堂々と審議の場で主張すればいい。

議会としてあたりまえの審議をせぬままに、会期末を目前に控えた与野党は、有権者にはまったく理解できない駆け引きを繰り広げた。

民主党の予算委員長が、首相の出席が見込めないまま予算委員会を開くことを決める。与党はこれに対抗するかのように、民主党の参院議長の不信任決議案を提出する。

ともにその狙いは、参院選を控えて相手の非をアピールすることだ。だが、そのあげくに衆院に再可決を許してしまったのでは、参院の自殺行為と言われても仕方ない。

肝心の選挙制度改革については、衆参両院ともに議論を参院選後に先送りだ。

来月の参院選は、昨年の臨時国会で成立した「4増4減」の新しい定数配分で行われる。一票の格差は5倍近くのままで、選挙後に無効を求める訴訟が起こされる見通しだ。

一方、昨年の衆院選をめぐる無効訴訟の最高裁判決は、この秋に見込まれている。

国会はつまるところ、最高裁から「違憲、選挙無効」の最終通告を突きつけられない限り、何もできないのか。

「国権の最高機関」の、あまりにもむなしい姿である。

産経新聞 2013年06月25日

「0増5減」成立 抜本改革やる気あるのか

衆院小選挙区の「0増5減」の区割り改定を行う改正公職選挙法が憲法の規定で「みなし否決」され、衆院の3分の2以上の賛成による再可決で成立した。

「一票の格差」を放置したまま行われた昨年12月の衆院選に対しては、「無効」「違憲」の厳しい高裁判決が相次いだ。0増5減は、これに対処するため「格差」を2倍未満に抑える最低限の措置だ。与党が再可決を行ってでも成立させたのは当然だ。

みなし否決を経た衆院の再可決は、平成20年4月に福田康夫内閣で揮発油(ガソリン)税の暫定税率を復活させる改正歳入関連法以来、5年ぶりだ。

「0増5減」は緊急避難措置であるにもかかわらず、法案は参院で60日以上も放置された。立法府としてこのうえない怠慢の責任は、他の野党を巻き込んで先行処理に反対した民主党にある。

さらに、これをスタートに抜本的な選挙制度改革や定数削減を行わなければならないのに、その方向性は何ら決まっていない。今国会で結論を出すとしていた自民、公明、民主の3党をはじめ、与野党の責任もまた大きい。

与野党の実務者協議では、現行の制度の手直しから中選挙区制まで、意見はバラバラだった。比例代表で中小政党に議席を優先配分する「連用制」「優先枠」など投票結果に人為的操作を加える案も出され、混乱を極めた。

昨年11月の3党合意は、抜本改革と定数削減について今国会で「結論を得た上で必要な法改正を行う」と明記していた。特に定数削減については、消費税増税など国民に新たな負担を求めるにあたり、政治がまず身を切る姿勢を示す目的があったはずだ。

約束を守れなかった3党は、なぜできなかったのか、今後どうするのか、国民に明確に説明しなければならない。

具体的には首相の諮問機関、選挙制度審議会を「第9次審」として始動させ、期限を区切り結論を求めるしかないのではないか。第8次審は平成2年、衆院に小選挙区比例代表並立制を導入することを答申し、曲折を経て8年から現行制度で衆院選が実施された。

民主主義の土俵づくりを議員が放棄し、第三者に委ねるのはなさけなくもある。だが自らの手でまとめられず、先送りを繰り返すなら国民の不信は増すばかりだ。

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